(パッポー、パッパポー。パッポー、パ)
横断歩道の信号機は、こんな音を鳴らしてから点滅を始めた。
最後の「パ」の音の途切れ方が唐突だった。まだしばらくメロディーが続きそうだったのに、急に止まった。元気にさえずっていた小鳥が突然死んでしまったような印象を受ける、何とも不吉な音だった。
「あら」
「おっ」
信号の点滅を見て、ツカサとカイリは歩調を速めようとしかけた。が、ムーヴォも一緒なのでやっぱりゆっくり歩く。
平和になった世界で、三人は今日も懲りずにハードオン巡りをしていたのである。今、店の前まで来た彼らは、点滅が終わらないうちにどうにか横断歩道を渡り切った。
ほっとしたのも束の間、ぽつりぽつりと雨が降り出した。
「ちゅーか、ツイてないな」
慌てて店の軒下を目指す。といっても、カイリはビニール袋に包んだオーディオ機器を持っていたので、移動はゆっくりだ。
「今日は何か買い取ってもらうんだっけ?」
「そうだぜ。こいつは、かつて俺が愛用していたBluetoothスピーカー。ちなみにめちゃくちゃ安物だし、百合レンジャーに加入してから忙しくてほぼ使ってねえけどな! 買取金額も数百円いけば上々だぜ!」
「胸張って言う台詞じゃないわよね⁉」
入店する前から、いつもの漫才が始まった。
「あ、そうそう。前に俺が紹介したハードオンのアプリは、買取でもポイントがつくんだぜ。買取金額プラスアルファを貰えた気がするから、個人的にはこれ結構お得感あっておすすめだ」
「いいからさっさと売って来なさい⁉」
誰が得するのか分からない情報を遮り、ツカサは相棒をカウンターへと急き立てた。自分はムーヴォを連れて玩具コーナーへ向かう。
以前来たときはあまり注意して見なかったが、二、三十年ほど前に発売されたレトロな玩具にはプレミア価格がついていることもしばしばだった。きっと今では入手困難なのだろう。
(カイリが売ろうとしているスピーカーだって、もしかしたら三十年待てばプレミアが……いや、さすがにないわよね)
元々が安物なわけだし、三十年経てばもっと安くて高性能なスピーカーも発売されているだろう。よほどレアな品物でない限りは厳しいか。
少しすると、意気消沈したカイリが戻ってきた。
「どうだった?」
「Bluetooth接続してもすぐ切れてしまう状態だったから、ほぼ値段つかなかったぜ。ブルーな気分だ……Bluetoothだけに」
「しょうもないギャグ言うのやめなさいよ。ムーヴォちゃんに悪影響が出たらどう責任取るわけ?」
「ムーヴォ、ふとんがふっとんだ!」
「言わんこっちゃないじゃない⁉」
信号機の音に始まり、タイミング悪く雨が降り出したり、スピーカーが全然値段つかなかったりと、何だか全体的にアンラッキーな感じだ。たまにはこういう日もある、ということだろうか。
嫌な予感がする。超次元界の皆は元気にしてるかしら、とツカサはふと思った。
「口ほどにもなかったな。さて、次はお前だ」
弱い奴に興味はないとでも言いたげに、超次元ライダーはダレンへ向き直る。
「お前は貴族専用のゲートを開けると聞く。人間界からヒーローどもを呼ばれても面倒だから、さっさと殺しておかねば」
「呼ぶつもりがあるのならば、もっと早くに呼んでいる」
ダレンは気丈に言い返した。
「そうしなかったのは、もうこれ以上、超次元界の問題に彼らを巻き込みたくなかったからだ。無貌やルーカスへの対処も、本来なら私たちで解決すべき問題だったのだ。平和な日常を送っている百合・BLレンジャーたちを、戦士に戻すような無粋な真似はしない。……もっとも、貴様ごときを相手するのに、援軍など必要ないだろうがな」
「馬鹿め。それが絶体絶命の状況で吐く台詞か?」
ブラッコの左手に再び力が集中し、衝撃波を放つ準備が整えられた。
「目の前で仲間を殺されてもなお強がっていられるとは、豪傑を通り越して狂人だ!」
「――逝ったか、零騎士」
そのとき、ダレンでもブラッコでもない第三者の声がした。超次元ライダーがハッと振り返る。
「な、何者だ⁉」
いつからだろう。零騎士の鎧が砕け散った場所に、一人の青年が片膝を突いて瞑目していた。ブラッコの声に彼は目を見開き、零騎士が残した剣を手に立ち上がった。
「俺の名は、ヒョウガ。ブルブラックに命を助けられ、彼と一体化していた者だ」
凛々しい顔でブラッコを睨み、ヒョウガは「騎士転生!」と叫んだ。その声に呼応し、粉砕された鎧が再構築されて青年に装着される。
「ブルブラックの分まで、俺は戦う。今日から俺は、『零騎士ヒョウガ』と名乗らせてもらう!」
黒い鎧を着込んだ彼は、剣を構えて勇ましく宣言した。