百合レンジャーvsBLレンジャー   作:クリスタルスカイ

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9 新たな敵!?妹とお姉さんのダブルアタック

 人間界へ戻ったヒョウガには、やらねばならないことがいくつもあった。久しぶりに大学へ顔を出したのも、そのうちの一つだった。

 長期休暇を利用してアメリカへ旅立った後、色々あって超次元界に長くとどまりすぎた。とっくに夏休みは終わっている。講義を無断欠席せざるを得なかった理由について、ヒョウガは教授や学友たちに説明してきた。意外にも皆、「超次元生命体絡みなら仕方ないね」とあっさり許してくれた。

 

「まあ、普通にやっていれば単位をあげないなんてことはないから、後れを取り戻せるように頑張りなさい」

 

 絵本作家兼大学教員である青山教授は、ニコニコ笑ってそう言った。ヒョウガはほっとした。

 

 

 その帰り道。同年代ばかりが行き交う大学近くの学生街で、ヒョウガの視線は一人の女子高生に自然と吸い寄せられていた。この辺りで高校生を見かけるのは珍しい。

 

(夏休み明けだし、オープンキャンパスか何か、大学に用事があったのかな)

 

 などとぼんやり考えていた矢先、ヒョウガは彼女から出し抜けに声を掛けられた。

 

「お兄ちゃんっ!」

「……は?」

 

 え、今のは俺に対しての呼びかけなのか。こんなセーラー服の子知らないんだけど。 

 まじまじと女子高生を見つめ、怪訝な顔をするヒョウガ。

 

 

「いや、俺には弟はいるが妹はいないぞ」

 

 往来の中で足を止めて立ち話をしても、邪魔になるだけだ。それとなく彼女を裏通りへ誘導しつつ、否定する。

一方の女子高生は動じた様子もなく、あざと可愛いポーズと上目遣いのコンボでヒョウガを誘惑してくる。

 

「申し遅れましたっ♡ 今日からお兄ちゃんのお家でお世話になりま~す! 義妹の詩絵ですっ♡」

「義妹……? ちょっと待ってくれ、どういうことなんだ?」

 

 どうでもいいけど兵庫県の某ゆるキャラみたいな喋り方だなこいつ、と思いながらヒョウガは困惑していた。

 

 

 普通、義妹と一緒に暮らす展開って「お互いの両親が再婚した」とかそういうのじゃないんだろうか。ヒョウガの両親は夫婦円満だし離婚もしていないので、当然ながら再婚という展開は考えられない。

 では、あれか。弟の妻を「義妹」と呼ぶパターンか。しかし、弟のリョウガはまだ独り身のはずである。自分が超次元界で過ごしている間に電撃結婚した可能性は……ないだろうな、うん。

 

「うわー、めちゃめちゃキョドってる♡ キモーい♡」

 

 彼がおろおろしている間にも、詩絵と名乗った女子高生は口に手を当てて挑発するような台詞を吐くなどしていた。

 一体何なんだ、こいつは。妹系のロリキャラかと思ったら、メスガキ要素まで合わせ持っていやがった。ロリの欲張りセットだと言っても過言ではない。

 

 

(だが、俺には通じない。なぜなら俺は……どちらかというと年下よりも年上に憧れるタイプだからだ!)

 

 自称義妹の詩絵を振り切り、ヒョウガは足早に歩き去った。

 

「人違いじゃないかな。じゃ、これで」

「……チッ」

 

 片手を挙げて遠ざかっていく後ろ姿を眺め、詩絵は彼に聞こえないように舌打ちする。

 

「ロリ趣味はないようね。だったら他の手で行くまでよ!」

 

 

 大学の最寄り駅から電車に乗ると、思ったより混んでいた。空いている席がなかったため、ヒョウガはドアの側に立った。

 自宅までは数駅なので、少しの間の辛抱である。人混みに揉まれ、電車の揺れに体を委ねて佇む。

 トラブルが発生したのは二駅目だった。発射直前に駆け込み乗車してきた女性が、勢い余ってヒョウガにぶつかったのだ。

 

「あん♡」

 

 日常生活でナチュラルに「あん♡」って言う人を見るのは初めてかもしれない。エロ漫画の中だけかと思っていた。

 年齢は二十代後半くらいだろうか。一七〇センチ弱あると思われる高身長、かつ豊かな胸を持った彼女はどしんとぶつかってきた。ヒョウガの胸部の少し下辺りに、柔らかく大きな膨らみが押し当てられる。

 

 

 車内は人でいっぱいで、すぐに体を離せるほどスペースに余裕がない。不本意ながら密着状態を続けるより他になかった。

 

「ごめんなあ。お兄さん、大丈夫?」

 

 むにむにと胸を押し当てていること自体は、あまり恥ずかしがっていない。どちらかというとぶつかったことの方を気にしているようだ。関西のイントネーションで、長身のお姉さんは尋ねてきた。

 目が細いせいか、狐のような印象を与える女性だ。くるんとカールした毛先が可愛らしい。クール系か癒し系で言えば、間違いなく後者だろう。

 

 

「いえ、俺は大丈夫ですけど」

 

 さすがのヒョウガもどきまぎしていた。

 

「なら良かったわあ。お兄さん、この辺の学生さんなん?」

「はい。動物科学を専攻してます」

「へえ~」

 

 お姉さんは元々細い目をさらに細くして、「にへら~」という感じの癒し系スマイルを向けてくる。何というか小動物的だ。なお、会話中も胸の感触は続いたが、あまり意識しないようにした。

 

「理系なんやねえ。せやけど、何で動物科学?」

「実家が乗馬クラブを経営していて、何かそこで役立てられるようなことを学びたいと思ったんです」

「立派やな~」

 

 

 束の間、お姉さんはヒョウガへ意味深な眼差しを投げかけた。そして、彼の耳元に唇を近づけて囁いた。

 

「……お兄さん、ほんまにかっこええわあ。うち、一目惚れしたかもしれん♡」

 

近かった距離がさらに縮まり、より強く胸が押し当てられる。今度ばかりは意図的にやっているんじゃなかろうか。

 

「えっ? え? ちょ、いきなり何を」

「うち、実はバツイチなんやけどな? お金目当てで愛のない結婚をしてしまったことを、すごく後悔しとるんよ」

 

 聞いてもいないのに唐突に重い過去を語り出した。あと、耳元で妖艶に囁くのはやめてほしい。そこら辺のASMRよりも破壊力が高い。

 

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