百合レンジャーvsBLレンジャー   作:クリスタルスカイ

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10 詩絵・リンダの挑戦!

 彼女曰く、歳の離れた夫に半年前に先立たれたということだった。

 男は若い女の体と癒しを、女はお金を得られてWin-Winの関係。そこまではよくある話だ。事実、彼女は亡くなった夫のことを「優しくてウィットに富んだ紳士やったわあ」と評したものの、男性としての魅力をあまり感じてはいなかったという。

 だが、いわゆるテンプレを外れるのはここからだ。夫は彼女が自分を愛していないことに薄々気づきながらも、何も言わなかった。そして、息を引き取る間際にこう言ったのだという。

 

 

「僕の側にいてくれてありがとう」

 

 最期まで不平一つ漏らさずに、夫は逝った。

 彼の言葉を聞いたとき、彼女は泣き崩れた。「ごめんなあ、ごめんなあ」と涙ながらに謝った。最初は夫の経済力に惹かれて結婚したお姉さんだったが、夫の優しさに触れる日々を送る中で、本当は徐々に彼のことを愛し始めていた。そのことを自覚したのは、皮肉にも夫が亡くなる直前だった。

 

 

「――うち、再婚することがもしあれば、今度は絶対に若い男の子にするって決めとるんよ。死ぬときに側にいてほしいから」

 

 甘い声で囁かれ、ヒョウガはぞくぞくするような緊張と興奮を覚えた。

 年下好きな理由が重い。重すぎる。愛する人と一緒に生きられなかった悲しみが、彼女の性癖を歪めてしまったのだ。

 

「なあなあ、お兄さん。試しにうちと付き合ってみん? 元夫から相続した財産がちょっとあるから、お姉さん、こう見えてお金には余裕あるんよ。たっぷり甘やかしたる♡」

「いや、そんなこといきなり言われても」

 

 たじたじになっているヒョウガに、お姉さんは追い打ちをかけた。

 

 

「もうしんどい思いをして学校に通ったり、会社で働いたりする必要はないんよ? お姉さんが君のこと養ってあげる♡ 好きなだけ甘えてええんよ?」

 

 クソッ、何なんだこの超展開は。初対面の年上女性に一目惚れされて、おまけに養ってもらえるだと? 男性にとって都合の良すぎる展開だ。だが同人誌の類ならともかく、どうやらこの状況は現実らしい。

 

「で、でも俺には、実家の乗馬クラブの経営を助けるという夢があるし」

 

 かろうじて抵抗を試みるヒョウガ。彼から一瞬顔を離し、お姉さんはからかうような笑みを浮かべた。口に手を当て、扇情的に呟く。

 

「うわあ、めっちゃキョドってるやん? キモ……ううん、一周回って可愛いわあ♡」

「……ん??」

 

 

 その一言が、青年の意識を研ぎ澄ました。今感じた違和感の正体は何かと考えると、答えはすぐに出た。

 学生街で絡んできた自称義妹の台詞と、今しがたのお姉さんの台詞は非常によく似ている。はたして偶然だろうか。

 それに、これまで癒し系に全振りだったお姉さんの口から、急に「キモい」などという単語が飛び出しかけるのは不自然に思えた。キャラクターが一貫していない。

 ヒョウガは慎重に問うた。

 

「つかぬことをお聞きしますが」

「うんうん♡ お姉さんに何でも聞いてええで♡」

「勘違いだったらすみません。さっき俺に話しかけてきた女子高生とは、お知り合いか何かで?」

「……バレてもうたらしゃあないなあ♡」

 

 

 目が細いキャラが目を見開き始めたら、それは本性を現す合図だ。ある種の創作物においてはそういう傾向がある。まさにそんな感じで、お姉さんは大きく覗いた双眸で、ヒョウガを射るように睨んだ。先刻までの癒し系オーラはどこかに行ってしまったらしい。

 

「君のような勘のいいガキは嫌いやで♡」

 

 刹那、お姉さんの周囲に風が渦巻いた。

 

 

 車内に突風が吹き荒れた影響で、駅から発車しかけていた電車は急停止。パニックに陥った乗客たちが、一目散に降車して逃げて行く。

 一瞬で人気がなくなった駅のホームに、女が一人降り立った。強風に包まれて真の姿に変身した彼女は、もはやセーラー服の女子高生「詩絵」でも、癒し系のお姉さんでもない。腰にまで届きそうな銀髪をなびかせ、貝を模したビキニアーマーを装着している。腹部や太股が大胆に露出した、セクシーな格好だ。

 

 

「それがお前の正体か」

 

 彼女と対峙し、ヒョウガは問う。

 

「姿を自在に変えられるということは、超次元生命体だな。一体、これは何の真似だ!」

「私の名は『詩絵・リンダ』。かつては無貌傘下の『次元海賊・バルバルバルバン』の操舵手だった」

 

 無駄に長い組織名を、詩絵・リンダは大真面目に言った。

 

「だが、同胞の『桟橋・シュー』や『葡萄御大将』が零騎士ブルブラックに倒され、残ったのは私を含む数名。バルバルバルバンは事実上壊滅させられた。ゆえに私はブルブラックに復讐を誓い、その行方をずっと探ってきたのだ」

「そのことと、妙な格好とキャラ設定で俺に接近したことにどう関係があるというんだ」

「ブルブラックが命を落としたのならば、私は彼の力を継いだ戦士を抹殺する。それが私の復讐だ!」

 

 操舵手は凛とした声で続けた。

 

「零騎士にも負けない力が欲しいと願っていた私は、偶然にもルーカスの残した性癖と原典の力を手に入れた。それが『女装/男装』性癖と、鎧の騎士の力。この力で貴様を誘惑し、隙を見て暗殺するつもりだったが、見破られてしまっては仕方ない。実力行使に出るまでだ」

 




※作者が帰省するため、お盆シーズンは更新をお休みさせていただきます。8月下旬から再開予定です。

お待たせして申し訳ありませんが、よろしくお願いします。
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