帰宅して応募書類を書くと張り切っているサヤとは、駅で解散することにした。
「じゃあ、また」
「うんっ」
改札前で、元気いっぱいにぶんぶん手を振る彼女はとても可愛かった。何だか良い雰囲気になっている二人だったが、不意にサヤの表情が曇る。
「なあ、あれ」
彼女が指さしていたのは、駅構内にある電気店のテレビ売り場だった。改札から歩いてすぐに位置するその店では、駅の利用客の目に留まりやすいようにテレビを陳列してある。その画面が突如乱れ、ニュースキャスターの代わりに黒ずくめの男の姿が映し出される。薄暗い建物の中から送られてくる映像からは、不穏な気配が漂っていた。
『たった今、この電波は我ら「虚無英雄会」がジャックした。我らの主張をより多くの者に伝えるには、こうするのが適当だとボスが判断したからだ』
只事ならぬ様子に、駅構内がざわつき始めた。
『現在、一部のヒーローたちのみが原典の力を独占している。新たに原典の力を持つ者が現れると、彼らは仲間になるよう促す。従わなければ問答無用で倒す。例を挙げよう。卍レンジャー、ショタレンジャー、ゴークイーンズ……彼らは皆、従わなかったがために倒された。だがオメガ珈琲シルバーや超次元ライダー・来部は、仲間に加わったため無事で済んだ』
具体的な名称こそ出していないが、虚無英雄会とやらが百合・BLレンジャーのことを非難しているのは明らかだった。
『しかし、これは間違いだ。人には本来、原典の恩恵が平等に与えられるべきである。人は誰でも、超人になる権利がある。原典を独占し管理する既存のヒーローどもに、我々は反逆する!』
奴らの罪はそれだけではない、と黒ずくめの男は力強く言った。
『最近の百合・BLレンジャーは、別世界へ移動する手段をも有しているとの噂だ。彼らは原典以外にもオーバーテクノロジーを秘匿している。人類にとって脅威になりうる存在だ。超次元生命体による襲撃がほぼゼロになった今、危険なのは侵略者よりもむしろ、過ぎた力を持つヒーローなのである!』
「おかしいわよ、こんなの」
街頭テレビを眺めていたツカサは、憤慨した。彼女は今、カイリとムーヴォを連れて秋葉原に来ていた。ちなみに来た理由は単純で、カイリが「アキバのハードオンに行きたい!」「俺が行く」「ブレーザー!」と言い出したからである。
「あたしたちは原典を悪用する輩をぶっ飛ばしてきたんであって、別に仲間になるかならないかが倒す際の判断基準だったわけじゃないでしょ。一見もっともらしいことを言ってているようだけど、内容がめちゃくちゃだわ。言いがかりに近いレベルよ」
「同感だ。原典を独占するなとか言ってるけどよ、『原典無し』によれば、そもそも原典の影響を受け続けること自体が危険なんだ。気軽に皆が手を出していい代物じゃねえんだよ」
「そうそう! それに、オーバーテクノロジーって何よ! ゲートを開く手段を持っているのはお菊さんとダレン、BLACON・SUNだけで、あたしたち自身にその能力はないわけだし。しかも、その三人は今超次元界にいるのに」
二人がヒートアップしていると、ムーヴォがその袖を引っ張った。
「ちちとはは、ときのひと」
はっと気がつくと、道行く人が皆、こっちを見ている。怪しげな電波ジャック犯の主張を鵜呑みにしたわけではないが、かと言って百パーセントその内容を否定したわけでもない。そんな心中が察せられるような、疑惑と不安に満ちた眼差しであった。
「なにかかっこいいことをいって、けっぱくをしょうめいするます」
「かっこいいこと……えっと、えっと……」
悩んだ末に、ツカサは薄い胸を張って宣言した。
「正義は必ず勝つ!!」
結果、白けた空気に耐えきれなくなった三人がすたこらさったと逃げ帰るまで、五秒もかからなかった。
諸先輩方と同様に、ヒョウガも虚無英雄会の演説には困惑していた。一体、こいつらは何がしたいのだろう。
「……零騎士ヒョウガだな?」
と、人混みの中を縫うようにして、中年の男が一人、こちらへゆっくりと近づいてきた。
「お前のことは調査済みだ。最近、原典の力を手に入れたのだろう? 万人が平等に超人になるため、その力を我らに渡していただけないだろうか」
「虚無英雄会の刺客か?」
男はそれには答えず、剣と一体化したような形状の橙色のベルトを腰に巻き付けた。否定しないということは、おそらくヒョウガの推測は当たっている。
「逃げて下さい、サヤさん。こいつは俺が食い止めます」
「え? えっ? で、でも、ヒョウガくんは」
「早く!」
出会ったばかりの彼女を背に庇い、青年は叫んだ。それから一瞬だけ振り返り、微笑んだ。
「また大学で会いましょう」
「……! うんっ!」
サヤは僅かに目を見開くと、こくりと頷いた。強張っていた表情が緩んだ。気をつけてなあ、と言い、改札を抜けて人混みの中に消えていく。
刺客へ向き直ると、ヒョウガは長剣ゼロライアットを召喚し、掲げた。
「騎士転生!」
黒と金をメインカラーとした、頭部に牛のような角が備わった鎧を纏い、名乗りを上げる。胸の水晶体がキラリと光った。
「零騎士、ヒョウガ!」
「抵抗するというのなら、仕方ないな」
『スワッピング・セイレーン!』
対する男は、手のひらサイズの白い本のようなものを取り出し、ページをめくった。
『かつてから伝わる非日常な交換が、今、実践される!』
今回、ご迷惑をおかけした作品
・ウルトラマンブレーザー