百合レンジャーvsBLレンジャー   作:クリスタルスカイ

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15 高次元からの誘惑!

『エターナル・ワンダー!』『虚無! 夫婦の愛で、全てが無に帰す!』

 

 零騎士ヒョウガが刺客を撃退していた頃、名古屋にもまた同じ変身アイテムを持つ剣士が現れていた。原典の力でアイテムを複製し、虚無英雄会はそれを三人に分配していたのである。

 推定アラサーの女性が白と黒の剣士に変わり、市街地でいきなり裕介に剣を向けてきた。彼は慌てず、側にいた美明日と作戦タイムを取る。

 

 

「どうする? 前みたいに百合嵐で行くか?」

「分かってないわね、早川くん。限定フォームというのは、劇場版でしか見られないからこそ良いのよ。本編にもバンバン登場していたら、ロマンがないじゃない」

「劇場版とか本編とか、わけ分かんねえこと言うなよ⁉」

「ともかく」

 

 美明日が咳払いをする。

 

「百合嵐を使うまでもないわ」

「悪役みたいな台詞だな……」

 

 ぶつぶつ言いつつ、裕介はオメガ珈琲シルバーへ、美明日が超次元ライダー・来部へ変身した。ともに「BANG・解」を発動し、剣を構える。

 

 

「気をつけてね、早川くん。相手は人間だから、怪我をさせないよう加減するわよ」

「もちろんだ。俺には魔法は使えねえけど、絶対にあの人を助ける!」

 

 そして「オメガ天衝」と「NTR界氷結」を連続で放ち、二人は無事、剣士を変身解除させたのであった。実力差が開いていたとはいえ、あっけない決着だった。

 

 

「……そうか。分かった」

 

 虚無英雄会の刺客を取り押さえた、と裕介から電話があり、ナオヤはスマートフォンを耳に押し当てた姿勢のまま頷いた。

 

「実は、こっちにも同じアイテムを使った剣士が二名現れていてな。一名はケイイチロウ、サクヤ、トウマ、ウミカの四人が、もう一名は零騎士が倒したそうだ。……ああ、零騎士というのはブルブラックの方ではなくてな。あまり詳しいことは聞いていないが、彼に命を救われた青年が力を継承したんだとか。俺も今から現場に向かう」

 

 足早にBL警察本部の駐車場へ向かい、覆面パトカーの運転席に乗り込む。

タイミング悪く、ツカサとカイリは今日非番だった。ムーヴォと一緒に秋葉原でお買い物中らしい。なるべく急いで来てくれるとのことだが、子供連れだと動きにくいだろうし、「無理しなくていい」と伝えておいた。

 

 

 サイレンを鳴らしてパトカーを発進させる。少し車を走らせると、自分と同じ顔の青年が歩道を歩いているのが目に入った。

 

『滝沢ナオヤという名前は偽名だ。今のこの姿は、たまたま見かけた警備会社勤務の青年のものをコピーし、借り受けた。経歴も何もかも嘘で塗り固め、俺はただ、父さんを止めるためだけに今日まで生きてきたんだ。誰にも頼らずにな』

 

 以前(といってもだいぶ前の話だ)に彼が語ったように、ナオヤは偽名を使い、別人の姿をコピーして人間社会で生きている。悪を倒すためにしたこととはいえ、やったこと自体は詩絵・リンダと大差ない。

 今のところ、ナオヤの正体が高次元生命体だと知っている者は一握りだし、警備会社勤務の青年と顔が同じことを不思議に思われたこともない。だが、社会というのは意外と狭いものだ。こうして、思いもよらない場所で自分のコピー元と遭遇することもある。

 

 

(俺は、このまま人間界にいて良いのだろうか)

 

 青年の横をスピードを上げて走り抜け、ナオヤはハンドルを握って自問自答した。

 

(本来俺は、この世界にいないはずの存在だ。しかし、思えば随分長い間、ここで生きている)

 

 最初は、次元大魔王を倒すために。その次は、父を殺して泥人形をすり替えていた超次元生命体たちを倒すために。滝沢ナオヤは、BLファイヤーとして戦い続けてきた。

 

(高次元生命体からしてみれば、俺は大魔王を殺そうとした大罪人だ。あっちの世界にきっと俺の居場所はないだろう。虚無英雄会という勢力も無視できないし、やはり、もう少し人間に留まって平和を守るべきだろうか)

 

 

 あるいは、再び超次元界に渡って、レジスタンス組織と協力して復興を進める選択肢もなくはない。ただ、仲間たちと共にあちらへ向かったときに「この世界は異質だ」と強く感じた。森に踏み入っても命の気配はどこにもなく、不気味だった。とてもじゃないが馴染める気がしない。

 そんなことを考えていたせいか、パトカーの前方に立ち塞がる影に気づくのが一瞬遅れた。焦って急ブレーキをかける。

 

「何者だ、お前は」

 

 ドアを開けて運転席から降りたナオヤに、影は恭しく跪いた。

 

「私は次元大魔王様の元部下、高次元生命体のグレーと申します。お迎えに上がりました、トランガ様」

 

 

 その名前で呼ばれるのは久しぶりだった。

 全身が鋼鉄から成る、ロボットのような姿のグレーはゆっくりと立ち上がった。かと思うと、どこからか煙草とライターを取り出した。

 

「あ、すみません、ちょっと失礼しますね。ニコチンが切れました」

「お前、ロボットなのに煙草を吸うのか……?」

 

 お迎えに上がりましたとはどういう意味だ、と問いただそうと思っていたのに、ナオヤはついついツッコミに回ってしまった。

 

「ぷはー、美味いですね。煙草は紳士の嗜みですよ。何なら私、ワインも飲みますしクラシック音楽もよく聴いております。中古屋さんでレコードを集めたりもしております」

 

 実に美味しそうに煙を吐き出し、グレーは言う。どういう体の構造をしているのかは分からない。

 

 

「お前の趣味についてはよく分かった。で、お迎えに上がったというのはどういう意味だ。てっきり、大魔王暗殺未遂の容疑で追われているものと思っていたが」

 

 泥人形の次元大魔王は、ナオヤを始末するために次元四天王・SSソルジャーを差し向けてくるほどだった。自分が高次元界に歓迎されているはずがない。

 

「とんでもございません。今、高次元界にはトランガ様が必要なのですよ」

 

 煙草の火を消して携帯灰皿に捨て、グレーは熱弁した。

 

「あれから色々ありましてね。大魔王様が泥人形の偽者と入れ替わっていたことは調べにより明らかになりましたが、その時点では『何かの間違いだろう』と否定的な意見も多かったです。しかし、泥人形はあのお方だけではなかった。その側近たちや、経済界の大物の中にも紛れ込んでいました。無貌とやらが倒されると人形たちの体は崩壊し、私どもはようやく、超次元生命体の掌の上で踊らされていたことを悟ったのです」

 

 

 どうやって調べたのか気になる。たぶん、百合・BLレンジャーと次元大魔王の決着を見届けに来た物好きな高次元生命体が、大魔王の最期を目撃して腰を抜かした…とか何とか、そういうオチなんだろうとは思うが。

 

「ですから、トランガ様にかかっていた容疑は晴れております。むしろ、王の仇討ちに挑んだ勇者として、歓迎ムードさえあるほどです」

「本当か」

 

 意外な展開に、ナオヤは目を丸くした。

 

 

「そこでお願いです。どうか高次元界に戻り、大魔王様の正当な後継者として、私どもの世界を導いてはくれないでしょうか?」

 




※次回の更新は一週間後の予定です。
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