『走るバイク 夕陽のハイウェイ』
ちょうどそのとき、ナオヤの携帯に着信があった。変身した状態でも僅かに着メロが聞こえる。おそらく、BL警察の誰かからだろう。
しかし、目の前の敵を撃破するまでは、吞気に電話している場合ではない。この間早川裕介におすすめされて設定した、平成初期っぽい着メロを聞きながら、ナオヤはそう考えた。
強くアスファルトを蹴って跳び、空中でBLディフェンダーを連射。掃除機怪人の胴から火花が飛んだ。
「お前が奪った愛、返してもらうぞ!」
着地と同時にディフェンダーをソードモードに切り替え、ナオヤは接近戦を挑んだ。果敢に斬りつけ、一撃ごとにどんどん追い詰めていく。
傷を負った怪人は、戦法を変えることにしたらしい。体から掃除機のホースやコードに似た触手を伸ばし、BLファイヤーを絡めとった。そのまま触手を引き寄せ、じわじわと獲物を近距離へ呼び込む。
(射程圏内に無理やり引き入れて、ノズルで愛を吸い取る。概ねそんなところか)
けれども、歴戦のヒーローには怪人の作戦が読めていた。敵のノズルがこちらへ向けられるよりも早く、BLディフェンダーをバルカンモードへと再度チェンジさせる。近距離から何発もビームを撃ち込み、掃除機怪人を弱らせた。
「とどめだ。『コンドル・マックスBLフィニッシュ』!」
敵が怯んだ隙を逃さず、BLファイヤーは新必殺技を繰り出した。ジャンプし、降下しながらX字に剣を振るって真紅の斬撃を浴びせる。たちまち掃除機怪人は崩れ落ち、悲鳴とともに爆発四散した。
砕け散った怪人の胴体から、奪われていた人々の愛が解放され、持ち主の体内へと戻っていく。ミチルも、気絶していた恋人たちも次々に意識を取り戻し、大切な人たちの無事に安堵して抱き合った。
「良かった。本当に良かった……」
「あなた、大丈夫なのね?」
そんな声が漏れ聞こえる中に、鋼鉄のロボットの舌打ちがノイズのように混じる。
「よくも私の部下を倒してくれましたね。こうなれば、力づくであなたを高次元界に連行するまでです。自我さえも失わせ、私の忠実な傀儡として死ぬまでこき使ってやりましょう!」
「それがお前の本性か、グレー!」
「言うな、BLファイヤー。私は戦士。戦うことが運命なのだ!」
唸り声を上げたグレーが、虚空から大型の銃を召喚した。ナオヤもバルカンモードで応戦する。灰色と赤のビームを近距離で激しく撃ち合った結果、双方は衝撃で逆方向に吹き飛ばされた。爆発が生じた拍子に、互いの武器を取り落としてしまう。
「ぐあっ」
「くっ……」
左腕の肘から先を失う大怪我を負ったが、グレーはしっかりとした足取りで歩き、ナオヤが落としたBLディフェンダーを右腕で拾い上げた。ソードモードに変形させ、BLファイヤーへ近づく。
一方のナオヤは、頭部を保護するマスクの一部が割れ、目元が露出していた。こちらも相当な打撃を負い、膝を突いている。
「ロボットだから痛覚がないのか。便利な体だな」
「痛みを感じないのは事実ですが、そもそも、この程度はダメージのうちに入りませんよ」
破壊されたはずの左腕がみるみるうちに再生し、元通りになった。僅か数秒で腕が新しく生えたように見えた。
「私の性癖は少々特殊で、『四肢欠損性愛』といいます。英語だと『アポテムノフィリア』。その名の通り、手や足を切り落とす行為に興奮したり、あるいは手や足が欠損している人間に魅力を感じたりする性癖です。この能力により、私は四肢を大きく破損した場合、瞬時に再生することができる。あなたの攻撃は無意味だったというわけです!」
無限に近い再生能力により、何度でも欠損時の興奮を楽しめますよ、というコンセプトっぽい感じの性癖だ。シンプルながら強力である。
「おっと、またニコチンが。とどめを刺す前にちょっと失礼しますよ」
緊迫した戦闘の最中だというのに、ロボットはまた煙草を取り出して一服し始めた。再生できるから余裕なのだろうか。マイペースな奴だ。
というか、この短期間にニコチンが切れるってまあまあヤバくないか。かなりのヘビースモーカーの可能性がある。
「……俺の武器、BLディフェンダーで攻撃しても、すぐ再生されてしまうか」
優雅に一服しながら剣を振り上げたグレーを睨み、ナオヤは呟いた。
「だったら、お前の武器を借りるまでだ!」
横に転がって斬撃をかわすと、先刻ロボットが取り落とした銃を拾う。振り向きざまにそれを連射すると、グレーは大出力のビームを浴びてボディーからスパークを散らした。
「何っ⁉」
よろめき、手からBLディフェンダーがこぼれ落ちる。
疾駆してグレーの懐へ潜り込んだBLファイヤーは、愛用の武器を掴み取った。そして、剣を両手で握り、ロボットの腹部へ深々と突き刺す。
ソードモードのBLディフェンダーを静かに引き抜くと、ロボットの燃料と思しき液体が腹部の風穴から滴った。穴は塞がることなく、緑色の液体を垂れ流し続けている。やがて、グレーは力尽きたように仰向けに倒れた。
「手足は再生できても、やはり胴体までは修復できないようだな」
瀕死のロボットの脇に屈み、ナオヤは変身を解いた。グレーの口に煙草が加えられているのを見て、懐から取り出したライターで火をつけてやる。ナオヤ自身は非喫煙者なのだが、飲み屋でたまたま貰ったライターだった。
「……グレー。お前のしたことは決して容認できない。だが、お前のその妙に文化人なところだけは、嫌いではない。せめて最期は、大好きな煙草を吸って逝け」
「と、トランガ様。もう一つお願いしてもよろしいでしょうか」
「何だ」
声を震わせて懇願するグレーを一瞥すると、彼は両手を合わせて頼んできた。
「百合・BLレンジャーには、最近某リユースショップに通っている者がいると聞きます。ジャンク品の安いレコードで構いません! どうか! どうか死ぬ前にレコードを聴かせて下さい! ……あ、やっぱり、もし在庫があれば一万円以上のプレミア価格が付いているレコードもお願いします! あとワインも! できればロマネコンティをお願いします!」
「しれっと二つもお願いするな。いずれも却下だ」
「そ、そんな~⁉ 待って下さい、陛下!」
欲望丸出しでお願いしてきたロボットを冷たくあしらい、ナオヤは腰を上げて立ち去った。ついでに煙草も取り上げて捨てておいた。グレーの悲鳴が聞こえたが気にしない。もう間もなく機能停止するだろうし。
たぶんこいつ、SNSとかでも欲しいものリストを公開して隙あらば買ってもらおうとするタイプなんだろうな。いやまあ、高次元界にSNSがあるのかは知らんけども。
何はともあれ、パトカーでの移動を妨害してきた変な奴らは無力化した。やっと仲間たちの元へ向かえる。
「おう、ナオヤ。遅かったな」
パトカーから降りると、ケイイチロウとサクヤが男に手錠をかけているところだった。トウマとウミカもそれを見守っている。
「零騎士やオメガ珈琲シルバーのところに出現したのと同系統の、本で変身する剣士だ。今、変身解除させて逮捕したところだった」
「そうか。良かった」
四人とも特に苦戦した様子もなく、ナオヤはほっとした。何なら、さっきの高次元生命体の方が面倒な相手だったかもしれない。虚無英雄会と高次元生命体の襲撃が同時刻に起きるとは、運が悪い。
犯人の男をパトカーへ乗り込ませるのを手伝うため、ナオヤは戦隊の同志へ駆け寄った。
かくして、久々に高次元界からやって来た刺客は、BLファイヤーの手で撃破された。傀儡の王としてではなく、皆を守る戦士として、ナオヤは生き続ける道を選んだのである。
戦え、BLファイヤー! 頑張れ、滝沢ナオヤ! 君のいるべき場所は、やはり人間界より他にない!