変な夢を見た。
夢の中で、ヒョウガはなぜか、アイスクリーム屋で働いていた。大きな声を出して明るく接客し、残暑の厳しい中せっせとアイスを売っていた。我ながら仕事熱心だ。
ヒョウガの好きなチョコミント味のアイスは大人気で、すぐに売り切れた。売上が伸びたことを喜び、店員たちは「よくやってくれた」と彼を褒め称えた。
チョコミントは美味しい、とヒョウガ自身は思っているが、どちらかというと人を選ぶ味だとも思う。ミントの清涼感とチョコの甘さが絶妙にマッチしていると感じる人もいるし、その逆の人もいるからだ。ひどい人になると「歯磨き粉みたいな味だ」などと酷評する。
そんなチョコミント味が一般受けして大人気になっているだなんて、青年にとってはちょっとした理想の世界だったろう。
褒められて照れくさそうに頭を掻いているところで、青年は目を覚ました。場所は、都内で一人暮らしをしている学生アパートの一室。
時計を見ると午後六時だった。授業が休講になったのをいいことにちょっと昼寝をするつもりが、爆睡してしまったらしい。ぼちぼち夕食の時間だ。
まだ少し眠い目を擦りながら、ヒョウガは「今日は外食にしようか」と考えた。家で寝てばかりいても運動不足になるし、食事がてら外をぶらぶらして帰ってこよう。
定食屋で簡単に飯を済ませると、アイスクリーム屋の看板が目に入った。さっき見た夢が頭をよぎる。考えるより先に体が動き、気づけばチョコミント味のアイスを買っていた。
(……美味い)
やっぱり、夏はこれに限る。チョコミントの独特なさっぱりした味は、唯一無二。まさに完璧で究極のアイスだ。金輪際現れない、一番星の生まれ変わりみたいな味である。さすがは俺の推しのアイス。
「見つけたぞ」
そんな風にしみじみとチョコミントを食べ歩きしていると、見知らぬ男に横からアイスのコーンを取られた。何するんだ、と言う間もなく、男はコーンを放り捨ててしまった。もちろん、その上に載っている食べかけのチョコミントアイスも一緒に。
「おい、何の真似だ」
どこか疲れたような、心を病んでいるかのような顔をした若い男に、ヒョウガは食ってかかった。
「百歩譲って俺には謝らなくてもいいが、チョコミントに謝れよ!」
「悪いがどちらにも謝罪するつもりはない」
本人に自覚はないけれども、ヒョウガはたまに天然なところがある。その天然ボケを、男は何を聞かれてものらりくらりとかわした。
「零騎士ヒョウガ。お前に決闘を申し込む」
男の腰には、中央に丸いコアが収まったドライバーが装着されている。その両サイドに、短刀をあしらったデザインの変身アイテムをセットした。
『Set・Avenge!』
ドライバーから怪しげな和風サウンドが流れ出したのを見て、ヒョウガは「さては虚無英雄会の手先か」と悟った。
「姉ちゃんの仇だ。……変身!」
親指で人差し指をクラッキングして鳴らす。それを合図にしたかのように、男の左右へ、武者を思わせる緑と黒の鎧が展開された。出現した巨大な黒い手がそれを男の肉体へ強制装着させ、変身が完了する。
『Black・General! 武神ソード!』『Ready……Fight!』
超次元ライダーのような姿の戦士が現れたため、通行人は悲鳴を上げて散り散りになっていく。彼が右手に構えている武器は、やはり刀。詩絵・リンダといいスワッピング・セイレーンといい、このところ刀使いとばかり戦っている気がする。
赤いアイレンズでこちらを睨んでいる剣士に、ヒョウガは呼びかけた。
「姉ちゃんの仇ってのはどういうことだ」
「無貌がこの世界へ侵攻して大暴れしたとき、俺の姉は瓦礫の下敷きになって亡くなっている。俺はあれ以来ずっと、お前らみたいなヒーローもどきが大嫌いだ!」
ヒョウガが零騎士として戦うようになる以前、無貌と百合・BLレンジャーは総力戦を繰り広げた。最終的には、百合・BLレンジャーが自分たちを新たな原典と再定義することで勝利した。しかし、戦いは苛烈を極め、市街地への被害も甚大であった。
男の姉が命を落としたのは、無貌が「マテリアル・無貌バースト」なる必殺技を発動したときだった。質量をエネルギーに変換することによる爆発的な破壊力が、一瞬であらゆるものを粉砕した。逃げ遅れた彼女は、それに巻き込まれた。
「ヒーローなんて頼りにならない。お前たちには人々を守り切れるだけの力はないし、そんな役立たずに頼り切っていた俺たち一般人も馬鹿だった。だから俺は無能なヒーローを倒して、理想の世界を実現するのさ!」
「虚無英雄会から与えられた力を使って、か?」
「そうだ。英雄会の会長様が、直々に力を授けて下さったのさ。あのお方は俺に道を示してくれた。百合・BLレンジャーが有しているオーバーテクノロジーを奪えば、これまでの戦いで失われた、全ての命をよみがえらせることも可能だとな!」
「いや、その理屈はおかしい」
思わず、ヒョウガはツッコんだ。
「騙されてるみたいだけど、オーバーテクノロジー云々はデマだぞ。第一、そんなすごい技術があるならとっくの昔に使っているだろう」
「嘘だッ!」
何だかものすごい迫力ある声で否定されてしまった。どこかでヒグラシが鳴いていたが、その鳴き声をかき消すほどの大迫力であった。
「無貌が人間界に侵攻してきたとき、俺はまだ力を手にしていなかった。お姉さんのことは気の毒だが、怒りを俺にぶつけるのは筋違いなんじゃないか」
信じてくれそうにないので、話題を変えようと試みる。
「それに先輩方は、あの状況でできる限りのことをやって被害を最小限に抑えたと聞いている。だから――」
「黙れ!」
男は刀を大上段に振り上げ、斬りかかってきた。
「お前も百合・BLレンジャーの古参メンバーと同じだ。どうせいつか、誰かを守れずに見殺しにするんだろ。だったら俺が今ここで、お前を倒してやるよ。未来の犠牲を防ぐためにな!」
今回、ご迷惑をおかけした作品
・推しの子
・ひぐらしのなく頃に