「何っ⁉」
見覚えのあるアイテムの登場に、ヒョウガは慌てて懐を探る。
いつの間に奪われたのだろう。超次元ライダー・ブラッコを倒したときに戦利品として得たハザード性癖トリガーが、どういうわけか敵の手に渡っていた。
もしかして、あのときか。チョコミントアイスを取られて動揺した隙に、くすねていたのか。チョコミント恐るべし。
「姉を溺愛していた俺には、シスコン性癖がある。そして、その性質はブラコンと似ている。ブラコン性癖を有していた超次元生命体にこのトリガーが使えて、俺に使えないということはないはずだ!」
ヒョウガがハザード性癖トリガーを所持していることを、武神ソードがどこで知ったのかは不明だ。まさか、あの戦いを目撃していたわけではあるまい。超次元生命体の誰かが虚無英雄会をバックアップし、情報を流している可能性も否定できない。
まあ、真相究明は後でいい。まずは目の前の、トリガーを使おうとしている男を止めなければ。
「おい、馬鹿な真似は」
『シスシスコンコン・ズッタンズタン! シスシスコンコン・ズッタンズタン!』『Are you ready?』『オーバーフロー!』
「……ん? 何か言ったか?」
何と言うことだろう。アイテムがにぎやかすぎて、台詞が聞こえなかったらしい。
「まあ良い。シスコン性癖の能力はブラコン同様、『禁断の愛を認めない世界そのものを破壊する』というもの。この溢れんばかりのパワーで、何もかも壊してやる!」
そんなことをしたら世界を救うどころか滅亡してしまう気がするが、自暴自棄になった武神ソードは使えるものは何でも使うつもりらしい。もうめちゃくちゃである。
シスコンの真の力をトリガーで全解放した武神ソードは、身長五十メートルほどに巨大化した。刀を振り回し、高層ビルを叩き切る。
瓦礫が降り注いだので、ヒョウガは咄嗟に長剣をショットガンに変形させ、人々に瓦礫が当たる前に全て撃ち抜いた。制服を着たまま一目散に逃げていた、アイスクリーム屋の店員も無事に守れた。
「ハッハッハ! 素晴らしい力だ。恐怖しろ、そしておののけ! 一切の情け容赦なく、一木一草ことごとく! 俺様が世界を支配する!」
「いや、マジで支配するのかよ。全然平和じゃないな」
姉を殺した無貌と似たようなことをやって、何が世界平和だ。邪悪の王みたいなことを言い出した剣士に呆れつつ「さて、どう対処すべきか」と思案する。今の自分に、巨大な敵とやり合う術はない。
すると突然、空に巨大なゲートが開いた。桃色の扉から牛型モンスターが出現し、猛々しい鳴き声を上げる。
「……ブルブラックの相棒よ。俺に、力を貸してくれるのか?」
問うと、モンスターは力強く頷いた。主君亡き今、ブルブラックの力を継承したヒョウガと共に戦う意志を彼は持っていた。
「そうか、分かった。感謝する。――『騎獣合身』!」
牛型モンスターから放たれたビームを浴びて、ヒョウガも巨大化。鎧の各部が赤色になった姿に変わった。さらに、モンスターが変形したアーマーを着込むようにして合体し、黒、金、赤をメインカラーとした巨大戦士が爆誕する。
「完成。合身獣士、『ゼロタウラス』!」
牛に似た角を備える戦士は、槍型の武装「ツインゼロソード」を構えた。それを見て武神ソードは破壊の手を止め、刀を両手で強く握る。
日が沈もうとしている。
夕日に照らされる街で、両者は互いの隙を探るように、静かに対峙していた。
「……うおおおおおっ!」
静寂を破ったのは武神ソードだった。強く大地を蹴り、土埃を巻き上げながら突進する。
『武神ソード・ストライク!』
気合と共に放たれた一太刀。ゼロタウラスは今度は防御姿勢を取らず、斬り合いを望むかのようにじっと剣を構えている。
武神ソードが距離を詰め、刀を振り下ろす。彼我の距離がほぼゼロになって初めて、ゼロタウラスは動いた。
「――『野牛零断』!」
ツインゼロソードに黒い稲妻を纏わせ、水平に回転しながら敵を切り裂く必殺技を発動する。二人の巨大戦士が交差し、すれ違った。剣を握り締めた姿勢のままで、双方は静止している。
ほどなくして武神ソードが膝を突き、崩れ落ちた。爆発に呑まれ、彼の肉体はパワーを失って人間サイズへと戻っていく。ゼロタウラスも合体を解除した。
日が沈んだ。暗闇に満たされつつある街で、爆発の炎だけが一瞬きらめいた。
「これは返してもらうぞ」
力なく倒れている男の手からハザード性癖トリガーを奪い返し、ヒョウガは言った。もっとも、自分で使うこともないと思うけれども。BL警察本部に提出して保管してもらった方が、悪用されなくて安全かもしれない。
「ううっ。俺はただ、姉ちゃんのために」
歩き去るヒョウガの背を眺めたのち、男は俯き、すすり泣いていた。遠くからパトカーのサイレンが聞こえる。きっともうすぐ警察が到着して、自分はお縄になるのだろう。何でだ。俺はただ、ヒーローになって世界を救いたかっただけなのに。
『――ケイワ!』
懐かしい声が、自分の名前を呼んだ。はっとして顔を上げると、そこには死んだはずの姉が笑顔で立っていた。
『ケイワは昔から不器用で、就活でも苦労してたよね。でも、誰にも負けないものが一つだけあった。それはね、強い心』
「姉ちゃん……」
『ケイワなら、きっとできる。いつか必ず、自分の理想を叶えられるよ!』
亡くなった姉のことを想うばかりに見た、幻だったのかもしれない。しかし、姉の言葉は確かに、ケイワの胸を強く打ったのだった。
「ごめん、姉ちゃん。零騎士の言う通り、俺は間違ってたのかも」
薄れていく姉の姿に、男はぽろぽろと涙を流した。
「罪を償って、もう一度やり直すよ。苦しいこと、辛いこともたくさんあるだろうけど……姉ちゃんの言う強い心で、俺、乗り越えるよ」
※次回の更新は一週間後の予定です。