ブルブラックの相棒の協力もあって勝利できたものの、ヒョウガの心は晴れなかった。
どうやら虚無英雄会は、人々の心の傷につけ込んで操っているようだ。奴らを倒すことも重要だが、戦乱で心に傷を負った市井の人々を救うことも大切だろう。武神ソードの男のように操られる人を、増やしたくはない。
(そういえば、アイスを食べかけのところで邪魔されたんだったな。気分転換に、別の店でまたチョコミントでも食べ歩きするか)
確か、大学の近くにも系列店があったはずだ。ちょっと足を伸ばしてみようかと思い立ち、電車に揺られてアイスクリーム屋へ。冷房の効いた涼しい店内に入り、一息つく。
列に並び、ほどなくしてレジに到達した。
「チョコミントを一つ」
「せやなあ、うちはバニラ」
特殊な目を持った忍者の一族みたいな名前が、後ろから聞こえた。否、名前ではない。ただアイスを注文しただけだ。
それにしても、つい最近聞いたような声だ。この、おっとりした癒し系ボイスは。
「……って、サヤさん⁉」
狐みたいに細くてキュートな目。くるんと可愛くカールした毛先。一七〇センチ近い長身。露出は多くないが、ゆったりしたデザインでスタイルの良さを際立たせる服装。振り向くと、サヤが微笑を浮かべていた。
「良かったわあ。あの後ヒョウガくん、無事やったんやなあ」
「ええ、何とか」
実は零騎士として戦ってます、とは言わなかった。正体がバレると面倒なことも多いだろうし、もうしばらく秘密にしておいた方が無難だろう。
間もなく、注文したチョコミントとバニラのアイスが運ばれてきた。一人で食べ歩きするつもりだったが予定を変更し、ヒョウガはサヤと二人掛けの席に着いた。
「さっき大学に行って応募書類を出して、ついでに面接受けてきたところなんよ~。たまたまヒョウガくん見かけたから、こっそり付いてきてもうたわ」
「驚かさないで下さいよ」
ヒョウガは苦笑した。サヤの職探しがスムーズに進んでいるようで、自分のことのように嬉しい。
会話の合間にチョコミントアイスをスプーンで掬うと、サヤが不思議そうにこちらを見ているのに気づいた。
「……どうかしました?」
「ヒョウガくんは、チョコミントもいけるんやねえ。うち、チョコは大好きやねんけどミントがあんまり相性良くなくてなあ」
「割と人を選ぶ味ですよね」
「うちの舌が子供なだけかもしれんよ? だからバニラみたいな、シンプルな味ばっかり選んでまうのかも」
そう言って悪戯っぽく微笑み、サヤは「うちの子供っぽい舌、悪い子やなあ」と舌を少し覗かせた。赤い舌がちろちろ動く様は蠱惑的だった。
「……あ、ヒョウガくん、今ちょっとだけ赤くなったやろ? 可愛いわあ、若い男の子は。からかいがいがあるってもんやねえ」
「べ、別にそんなことはないですけど⁉」
全力で否定するヒョウガ。
首を振りながら彼は、「そうだよ、こういう感じでいいんだ」と思っていた。チョコミントを、自分の好きなものや理想とするものを、皆に分かってもらう必要はない。皆それぞれに好きなものがあって、互いの趣味嗜好を尊重し合って生きている。それで良いじゃないか。
好きなアイスの味についてしばらく話していると、サヤは唐突に「せや」と手を叩いた。
「すっかり言い忘れとったねんけど」
「どうしたんです?」
「うちな、面接受けて」
「それはさっき聞いたような……?」
「うん。でな、その場で採用ですって言われたんよ!」
ヒョウガの手を取ってぎゅっと握り、サヤは瞳をキラキラ輝かせた。
「ほんまにありがとうな。ヒョウガくんのおかげやわあ」
「いやいや、俺は応募書類を渡しただけですし。受かったのはサヤさんの実力ですよ。おめでとうございます」
頬が熱いのを感じながら、ヒョウガは謙遜した。
「これからは、大学でも一緒やね♡」
「……は、はい! よろしくお願いします!」
にっこり笑ったサヤはとても美しくて、破壊力抜群だった。ヒョウガは長男だからノックアウトされなかったが、次男だったら秒でノックアウトされたかもしれない。かなりギリギリのところで耐えた。
武神ソードに変身する男・ケイワ。虚無英雄会に騙されて暴れる彼を、零騎士ヒョウガは打ち破った。
そして戦いの後では、サヤが大学事務員の採用試験にスピード合格。二人の関係は進展しそうな気配が濃厚である。一方、敗北したケイワも、心を入れ替えて罪を償うと決めた。
戦え、零騎士! 頑張れ、ヒョウガ! 夢は一人で見るより、皆で見るほど強くなる。正義に仕え、闇を断つんだ!