当然の疑問だった。あのとき、カイリはツカサに非礼を働いたことを謝っていたはずだ。なのに何故、和解に繋がらなかったのか。二人とも百合派とBL派で対立したまま、戦力部隊に入るまでしたのか。
喧嘩した日の夜から翌日にかけての記憶が、すっぽり抜け落ちているようだった。あまりにも不自然だ、と二人は思った。
「もしかして」
ややあって、カイリが緊張した面持ちで口を開く。
「俺たちの記憶は、誰かに操作されていたんじゃないか。こんなに大事なことを今まで思い出さなかったなんて、絶対おかしいぜ」
「あたしもそう思う。カイリがちゃんと謝ってくれてたのを記憶していたら、あたし、こんな強化服を着てBLのために戦おうとまでは思わなかったよ」
「そうだとすれば、百合派とBL派の抗争がここまでエスカレートしたのにも納得がいく。皆、本当は心のどこかで理解しているはずだ。他人の趣味を否定したり、馬鹿にしたりするのは褒められたことじゃないって。人々の心のブレーキを、誰かが効かなくしているんじゃねえか」
そのブレーキがどういうものかは、各々異なる。カイリとツカサにとっては、メモに書かれた短い謝罪文。相手を理解するきっかけとなりうる小さなエピソードが、人間たちの記憶から抜け落ち続けてきたのだとしたら。何者かが、人々が互いに歩み寄る契機をことごとく奪ってきたのだとしたら。
「やっと分かったわ、カイリ。この戦いに意味なんかない。あたしたちはただ、誰かが人々を扇動して起こした争いの火種に、油を注いできたようなものよ」
「お互い、随分遠回りしちまったな。お巡りさん」
怪盗と警察は苦笑した。それから銃を捨て、戦場から立ち去った。
百合レッドとBL三号が忽然と姿を消してから、半年が経つ。
怪盗戦隊と警察戦隊は二人ずつとなり、もはや「戦隊」と呼べるのかどうかも怪しかったが、活動を続けていた。
「今日こそは逃がさんぞ、怪盗!」
「レッドがいなくたって、BLレンジャーなんかクシャクシャのポイだよ!」
相変わらず暑苦しいBL一号と、チャーミングな女性が変身している百合イエローが、激しい銃撃戦を展開する。二号とブルーも負けてはいない。
「待てっ!」
そこに、二つの影が現れた。
「カイリ⁉︎」
「ツカサ⁉︎」
かつての仲間たちの姿を認め、両陣営から驚きの声が漏れる。それぞれ銀と金のジャケットを羽織った新たな戦士が、第三勢力として見参した。
「今までどこで何をしていたんだ。さっさと一緒に戦え!」
「ごめんね、一号、二号。あんたたちと組む気はもうないわ」
「俺も右に同じだ。悪いな、ブルー、イエロー」
いきなり対決姿勢を明確にしたツカサ、カイリに、怪盗と警察が動揺する。
二人の目的は一つ。百合派とBL派の戦争に終止符を打ち、この戦いを裏で操っている黒幕を見つけ出す。そのために怪盗と警察のテクノロジーを結集し、新たな強化服を開発したのだ。
「まずは、この小競り合いを終わらせよう。行くぞ、ツカサ!」
「ええ!」
今や、高校時代の確執は完全に消え、彼と彼女は互いを認め合える仲になっていた。カイリとツカサが頷き合い、独自にチューンアップを施した改良版VSチューナー、通称エックスチューナーを構える。
「怪盗チェンジ!」
「警察チェンジ!」
刹那、煌びやかなアーマーを持つ金と銀の戦士が顕現し、BL戦隊と百合戦隊はたじろいだ。そのマスクには、アルファベットの「エックス」の文字が刻まれている。
「お、お前たちは一体⁉︎」
「孤高に煌めく怪盗。百合エックス!」
「気高く輝く警察官。BLエックス!」
高らかに名乗りを上げ、ツカサとカイリは二つの戦隊へ銃を突きつけた。
「今目を覚まさせてやる。お前たちにだって、かつては百合もBLも認め合える心が残っていたはずだ!」
「どんなに苦しい道のりでも、あたしたちは必ず実現してみせる。百合とBLの垣根を超えた、『どっちもイケる』世界をね!」
勝つのは百合か、BLか。それとも、両方を愛してやまない者たちか。
今、決戦の火蓋が切って落とされた。