力強く立ち上がると、ヒョウガはゼロライアットを構えて突進した。再びフィールドを展開する暇を与えず、連続で斬りつける。
「ぐああっ⁉」
アーマーから火花を散らし、リョウマは後ずさった。
「せっかく私がスペックを調整してやったというのに。どうしてくれるんだ!」
昆虫性愛の能力を発動し、イナゴの群れに零騎士を襲わせる。だがそれも、彼の手のひらから放たれた「零のたてがみ」の炎に、呆気なく焼き払われてしまった。
「同じ手は食らわない。今度はこっちの番だ!」
長剣をショットガンモードに変形させ、中距離から弾丸を浴びせかける。レモンの戦士の前腕部を集中的に狙うことで、弓矢による反撃を許さない徹底ぶりだった。
とうとう弓を取り落としたリョウマへ、零騎士は剣で斬りかかる。胴を袈裟懸け斬りにし、さらに回し蹴りを入れて吹っ飛ばした。
「……クソッ。これで勝ったと思うなよ、零騎士!」
負け惜しみのような台詞を吐き、レモンの戦士はよろよろと立ち上がった。
「あのまま一対一で戦っていれば、君は確実に敗北していた。そこの変てこな格好をした女どもが横槍を入れなければ、私が勝っていたのに!」
「お前は、一対一の戦闘でなら無類の強さを発揮できるのかもしれない。だが、俺たちが戦隊だということを忘れるな。俺たちは皆で力を合わせ、チームで戦っているんだ」
それに敗因はゴークイーンズだけではない、とヒョウガが言い返す。
「お前が自分自身を強く鍛えていれば、たとえフィールドを破られても俺と互角に戦えただろう。原典の能力に頼りすぎたな」
「こ、この私が、能力頼りの雑魚だとでも言いたいのか⁉ 嘘をつくな! 嘘つき、卑怯者……そういう悪い子供こそ、本当に悪い大人の餌食になるんだよ!」
わなわなと震える手で、リョウマがドライバーのレバーを二度引いた。「インセクト・レモンスパーキング!」の音声とともに、彼の右足に黄色の破壊エネルギーが集中する。
「死ね、零騎士!」
虫食いレモンの戦士は高くジャンプし、強力なライダーキックを放った。同時に性癖の力も解放していたようで、大量のイナゴがヒョウガの動きを封じるべく飛んでくる。
「自分が強くなることで勝とうとせず、相手を弱らせることで勝とうとするお前の戦い方は邪道だ。俺が、王道の戦い方を教えてやる!」
ヒョウガは長剣を両手で構え、その刃に白と黒、二色の稲妻を纏わせた。
「『零の一撃・コスモバージョン』!」
撃ち出された斬撃がイナゴの群れを焼き尽くし、リョウマの跳び蹴りと激突する。一瞬の均衡ののち、零騎士の必殺技が威力で競り勝った。白と黒の雷撃斬はレモンの戦士の腹部にクリーンヒットし、ドライバーを木っ端微塵に破壊した。
変身解除されたリョウマが落下し、ぐったりと倒れ込む。
「虚無英雄会には、私以上の実力者もたくさんいる。いずれ君は敗北し、破滅する。それが君の、運命……」
白目を剥いてもなお捨て台詞を吐くとは、とんでもない精神力だった。
「たとえそうだとしても、俺は運命と戦う。そして勝ってみせる」
あとは警察の出番だ。黒い鎧を装着解除し、ヒョウガは大きく息を吐いた。
鈴子先生が不在で、テロリストまで乱入してきたのだから、当然講義は中止。何なら他の授業も大半が取りやめになって、学生たちはほとんど一斉に下校を始めた。
ヒョウガも、その中に紛れるようにして大学を後にした。すると、肩をぽんぽんと叩かれる。
「ヒョウガくん、大丈夫やったん?」
心配そうな顔で見つめてくるのは、サヤだった。採用されて早速働き始めたらしい。
普段は露出が控えめな彼女だが、最近は暑いからだろう。今日着ているトップスはノースリーブ。日差しに照らされる白い肌が眩しい。心なしか、周りの男子学生の視線もちらちらと彼女へ向けられているような気がした。
「虚無英雄会がテロみたいなことしはったって聞いたけど……」
「俺なら大丈夫です。あの人たちが助けてくれたので」
遠くで人垣に囲まれているゴークイーンズを指差して言う。奇抜な格好をしている三人はたちまち野次馬の質問攻めを受け、脱出できなくなってしまっていた。時折、「下僕たち、早く助けに来いですわ~!」と嘆く声が聞こえる。
サヤはヒョウガの正体を知らないため、そうやって誤魔化しておいた。まあ、嘘はついていない。女王らの援護で勝てたのは本当のことだし。
「なら、良かったわあ」
安堵し、形の良い胸を撫で下ろすサヤ。
と、そのとき、学生たちの人混みが大きく動いた。おそらく、ずっと先の横断歩道で信号が変わったか何かあったのだろう。
「わわっ」
「……危ない!」
人の波に押されてバランスを崩しかけたサヤの手を、ヒョウガは反射的に取っていた。図らずも二人の距離が近づく。
「ご、ごめんなあ、ヒョウガくん」
「いえ。怪我がなくて何よりです」
ほんのり頬を赤く染めている彼女を近距離で見ていると、自分も照れてしまった。別に付き合っているわけではないのに、何だろう、この感じは。
「すごい人やねえ。気を抜くとはぐれちゃいそうやなあ。……もうちょっと、手を繋いどってもええかな?」
潤んだ瞳で上目遣いをされて、断れるはずもなかった。華奢な彼女の手を、優しく握る。
人混みももちろんそうだが、ヒーローではない一般人からすれば、今回の事件は怖くて当たり前だ。サヤが自分を心配する気持ちはよく分かる。そして、彼女自身も虚無英雄会のことを恐れているのだろう。
「――俺が守ります。掴まっていて下さい」
はにかんだように笑い、ヒョウガは言った。サヤの手を握り、人混みの中をかき分けて進んでいく。
「ふふっ。ほんま、頼もしいわあ」
満開の花みたいに可憐な笑顔で、サヤは足取りも軽く彼にエスコートされていた。
「あっ! あのお二方、青春ですわ~!」
どこか遠くの方で、ブルー・クイーンの声が聞こえた。
「どこまでも続くような、青の季節ですわ~! 今でも、青が棲んでいる。今でも、青は澄んでいますわ~!」
「ブルー」だけに。
しょうもないので、無視した。というか何を言っているのか意味不明だった。
虚無英雄会の役員が一人、「インセクト・レモン」使いのリョウマはかくして敗れた。
残る役員は三名。会長職も控えている。彼らと協力関係にある超次元生命体がいる可能性もあるため、まだまだ油断はできない。
戦え、零騎士! 頑張れ、ヒョウガ! どんな困難も、ひゅーっとやってひょい、ひゅーひょいと解決するんだ!