三人が三人とも、背筋が泡立った。こいつは間違いなく、ナンバーツーに匹敵する実力の持ち主だと理解した。リョウマ以上の強敵である。
「二人とも。ここは僕に任せて、民間人の避難誘導をしてくれ!」
チョーカーとハットマンを庇い、ピーターが叫んだ。
「リボンミックスをフル装備したオーバーリボンズなら、奴の再生スピードを上回る速度でダメージを与えられるかもしれない。コピーされて面倒な事態になる前に、速攻で倒す!」
「敵ながら良い発想だ。感謝する」
「分かった。頼んだぞ!」
二人は口々に礼を述べ、散開した。残ったピーターは四種類のスタンプを取り出し、順番にドライバーへ押印しようとした。
「させないよ」
だが、ノン・プリシャスの手首から伸びたリボンが彼の手に絡みつき、操作を阻む。見れば、彼の右手に握られたカードにはリボンのマークが浮かんでいた。
「君の性癖、『緊縛』はコピー済みだ。……『性癖操術』、『癖縛』」
「何⁉」
網のように広がったリボンが、オーバーリボンズを包み込んだ。
どうにかリボンを振りほどき、ピーターがトカゲのスタンプをベルトに押す。背中に装備した巨大な尾を振り回して、網を内側から破った。
「『縛斂』!」
けれども、ハートの怪人は反撃する暇を与えない。圧縮したリボンを矢のように撃ち出し、オーバーリボンズの装甲を穿った。
「『癖緊縛動』!」
さらに、全身にリボンを強く巻きつけることで体温や脈拍を調節、一時的に身体能力を底上げする。ドーピング状態になったノン・プリシャスの拳が唸り、ピーターへ強烈な連打を叩き込んだ。
「くっ……」
「コピーされる前に強力な技で倒すというアイデアは悪くなかったが、相手が悪かったな。ヒーローが必殺技を出す準備をしている間、悪役が待ってくれるのはテレビ番組の中だけだ!」
双剣を召喚し、怪人が戦士へ斬りかかる。「癖緊縛動」の効果で、ノン・プリシャスの動きのキレは極限まで高められていた。僅かな隙を突いて繰り出す斬撃が、次々にオーバーリボンズの装甲からスパークを上げさせていく。
「リョウマが収集した戦闘データは、ボクを含む他の役員にも共有されている。事前に分析し、コピーする準備を整えておくことは造作もなかったよ」
リボンのマークが浮かんだトランプを、怪人は指の腹で撫でるように触った。微かにではあるが、「ミステリー!」と認識音声が鳴った。
ノン・プリシャスの召喚したドローンがピーターを包囲し、一斉に機銃掃射を行う。ピーターは防戦一方で、苦しげに腕で弾丸をガードしていた。
『ミステリー! 電気ウナギ! リボンズ・レクイエム!』
銃弾が雷を帯び、より高速で連射される。電撃によるダメージを受けたオーバーリボンズは動きが鈍り、防御すらままならない。なすすべもなく弾丸の嵐に晒されたピーターに、怪人は接近して回し蹴りを見舞った。
「どうだい? 自分の技で、ボクにやられる気分は!」
『リボンズ・フィニッシュ!』
クワガタの顎の形のエネルギーを伴い、脇腹にキックを叩き込む。その一撃で、ついにオーバーリボンズの変身が解除された。
「ぐあっ……」
膝を突いたピーターの胸に、ノン・プリシャスが一枚の白紙のトランプを押し当てる。間もなく心臓の模様が浮かんだのを見て、彼はニヤリと笑った。
「これで、お前の心臓はボクのものだ。リョウマのように死にたくなければ、しばらくは虚無英雄会と戦わずに大人しくしておくことだな」
ハットマンと買いに行った品々の中にも、この状況を打開できそうなものはない。万事休すだった。
「お前の命はボクの手の中にある。いずれ、このカードを交渉材料にして百合・BLレンジャーをおびき出すとしよう。リボンダーマンを人質に取っていれば、さぞ食いつきが良いだろうな。……ハハハハ。ハハハハハッ!」
息を荒げているピーターを一瞥し、ハートの怪人は悠々と歩き去って行った。
畜生、と呟き、ピーターはアスファルトを拳で殴った。
リョウマを撃破したは良いが、さらなる強敵、ノン・プリシャスが現れた。あらゆる技をコピーする能力を用い、ハットマンやリボンダーマンを難なく退けるほどの実力者である。
はたして、虚無英雄会のナンバーツーである彼女を倒すことはできるのだろうか? そして、心臓を奪われてしまったピーターの運命はいかに?
頑張れ、リボンダーマン! 戦え、オーバーリボンズ! 苦しいときも、スマイルを忘れずに戦うんだ!