ノン・プリシャスは怪人態のまま、白昼堂々、BL警察本部に乗り込んできた。
「動くな! BL警察だ!」
すぐに警官隊に包囲されるが、無視して歩き続ける。発砲されても、金属質な皮膚には傷一つつかなかった。
やがて、ケイイチロウとサクヤ、ナオヤが出てきた。少し遅れて、ツカサとカイリ、そして百合レンジャーのトウマとウミカも駆けつける。
「てめえ、虚無英雄会か。何しに来やがった!」
「仰々しいお出迎えだね」
百合・BLレンジャーたちに前後左右を囲まれた怪人は、ニヤリと笑った。カイリに罵声を浴びせられても全く怯んでいない。
「ボクは虚無英雄会の役員、ノン・プリシャス。英雄会の実質的なナンバーツーだ。今日ここに来たのは、お前たちと交渉するためだよ」
「なるほど、和平交渉か。いいぞ、さっさと降伏してくれ」
「いやお前らがするんだよ⁉」
これを見ろ、とピエロのような外見の怪人は、懐からトランプを取り出した。それには赤い心臓のイラストが描かれている。
「ボクの原典には、相手の心臓を奪ってカード内に封じ込める能力がある。このカードにはお前らのお友達、ピーター・バーガーの心臓を封印した。トランプを少し引き裂いてやるだけで心臓は破裂し、ピーターは死ぬ。お友達の命が惜しければ、無駄な抵抗はやめることだね!」
「……は?」
ノン・プリシャスはてっきり、人質を取られた百合・BLレンジャーは大人しくなるものと思っていた。ところが、この戦隊きっての大馬鹿者カイリはというと、意味が分からないとでも言いたげにぽかんとしている。
「お前、ハッタリをかますの下手くそすぎないか? いきなり現れて、ボクはトランプに相手の心臓を封印できますだなんて言われて、信じられるわけねえんだよ。どうせあれだろ? 手品用の真っ白なトランプか何かに心臓の絵を描いて、俺たちを騙そうとしてるんだろ! よし皆、構わず総攻撃だ!」
「ちょ、ちょっとやめなさいよ!」
慌ててツカサが止めた。
「もし本当にピーターの心臓だったら、あんたどう責任取るのよ⁉」
「……ええい、お前たち、ボクをスルーして話を進めるんじゃない!」
ついにキレたピエロ怪人は、ツカサたちの技や性癖をコピーしたようだった。推し推し砲そっくりのバズーカを召喚し、狙いを定める。
「そこまで疑うのなら、自分の体で僕の能力を味わってみればいい。お前たち全員叩きのめして、一人残らず心臓を奪ってやる。このコピー能力でね!」
「何でそんな回りくどいことするんだよ。普通に攻撃して倒せばいいだろうが! ……知らないのなら教えてやる。大体の作品において『すぐには殺さず、じっくり痛めつけてやる!』って息巻いてる悪役は、じっくり痛めつけてる途中に反撃されてやられるんだぜ!」
「いちいち揚げ足を取るな⁉」
どうもこの二人、性格の相性が悪いようだ。
カイリたちは散開し、「警察チェンジ!」「怪盗チェンジ!」「BLファイヤー!」と変身。バズーカの一撃をかわし、VSチューナーやBLディフェンダーの銃口を怪人に向けた。しかし、ピーターの心臓を人質に取られていては、思うように反撃できない。皆、躊躇いが地に銃を下ろした。
「職業柄、何人かの詐欺師を逮捕してきたが、こいつは嘘をついているようには見えないな」とケイイチロウ。
「心臓を奪う能力があるのは本当だろう。だが、俺たちの心臓をすぐに奪取しようとしないところを見るに、能力発動には何か条件があるに違いない」
「ご明察。ボクの力は、対象にトランプを接触させないと発揮できない。だから基本的には、弱らせて動きが鈍った敵へのダメ押しという使い方になる。――何、心配はいらない。すぐにボコボコにしてあげよう!」
ノン・プリシャスの左手に黒い稲妻が、右手に白い稲妻が出現し、二つが融合して巨大な雷の槍になった。
「『百合&BL・マーブルスクリュー』!」
「あ、あたしたちの技を⁉」
百合ブラックとBLホワイトの合体技をも模倣し、怪人は繰り出した。攻撃範囲が広すぎて避け切れず、ツカサたちは大きく吹き飛ばされた。警察本部の建物の壁を突き破り、外へと転がり出る。
「まだまだ行くぞ」
ピエロ怪人は彼らの後を追い、強い日差しが降り注ぐ中へ踏み出した。今度はVSチューナーを二丁召喚し、両手に構えてトリガーを引く。
「『BL・一撃ストライク!』 からの、『百合・イタダキストライク!』」
刹那、VSチューナーが改良版であるエックスチューナーに変化した。そのまま必殺技を連続で放つ。
「そして、『スペリオル・受け攻めショット!』『エクセレント・ネコタチエックス!』」
「うわああ~っ⁉」
光弾四連発を喰らい、当然ながら無事では済まなかった。カイリたちはもうボロボロで、アーマーには無数の傷が刻まれている。
「さらに、『スーパー・スペリオル・受け攻めショット!』『スーパー・エクセレント・ネコタチエックス!』」
威力が通常の倍以上になっている強化技もぶっ放したため、派手に爆発が起こった。戦士たちの体が宙を舞う。
なぜ最初から強化バージョンの技を使わなかったのかは謎だが、まあ色々な理由があるのかもしれない。販促の都合なのか頻繁に連続フォームチェンジする、昨今の特撮ヒーローみたいな感じだったりして。べ、別に、かっこいいから良いんだけどねっ!
「とどめだ。『百合&BL・ネクサス・ビッグバンバスター』!」
ノン・プリシャスの販促、もとい原典の力をフル活用した猛攻は止まらない。召喚したVSチューナーやエックスチューナーを、推し推しカノンを中心に一つに合体させた。完成したバズーカ型武器はなかなかのビッグサイズだったため、怪人はふらつきながらかろうじて抱えていた。やはり、合体武器は皆で協力して使うからこそである。
「あ、あれは! 文字数にして四十万字以上も前に、一回だけ使われたきりのやつじゃねえか! 覚えてる人ほぼいねえだろ、あんなの!」
「メタ発言やめなさいよ⁉ ていうか、あんなの言うな!!」
次元大魔王との最終決戦のとき、百合・BLレンジャーは全員の武器を合体させて「百合&BL・ビッグバンバスター」という新武器を作った。けれどもバスターによる攻撃は大魔王のバリアで防がれ、決定打にはならなかった。
そんな折、ツカサとカイリが一度は手放したVSチューナーをケイイチロウらが保管していたことが明らかにされる。二丁のVSチューナーを追加で合体させ、絆の力を込めた「百合&BL・ネクサス・ビッグバンバスター」とし、ようやく大魔王を撃破したのだった。
さすがにあれを喰らったらまずいと思ったのか、ナオヤが前に出た。
「おい、ノン・プリシャスとやら。お前、俺の技をまだコピーしていないのはどういうわけだ。さてはコピーできないのか? お前の原典も、万能ではないようだな」
「お前の魂胆は分かってるぞ、BLファイヤー。ボクを挑発して自分の技を真似させる代わりに、『百合&BL・ネクサス・ビッグバンバスター』の発射を中断させたいんだろう? 人生、そう上手くはいかないよ!」
怪人は嘲笑し、バスターを構えた。エネルギーの奔流が放たれんとする。
ピーターの心臓が敵の手中にある以上、反撃することもままならない。ここまでか、とツカサは思わず目を瞑った。