「ちょっとくすぐったいわよ」
女の声がした。何か柔らかい布のようなものが蠢き、自分の体をまさぐっている。
「何をする⁉」
ノン・プリシャスは振り返ろうとしたが、ネクサス・ビッグバンバスターを両手で抱えたままではそれは不可能。やがてある一点で動きが止まるまで、されるがままに布に体を探られた。
「あっ、見つけたわ」
不意に、しゅるりと布が引き抜かれた。懐が軽くなったような気配に、怪人が顔色を変える。バスターを投げ捨て、ようやく振り向いた。
「お前、まさかボクのトランプを⁉」
「大正解」
リボンズのアーマーが変身解除される。和服を着た女は色っぽく微笑み、手に持ったカードをふりふり振ってみせた。ピーターの心臓が封じられたトランプだった。
「私は超次元界のレジスタンス組織、イーシュ・バールのリーダー。名はお菊。助けに来たわよ、百合・BLレンジャーの皆!」
お菊のすぐ横には、金色の装飾がついた桃色のドアが出現していた。おそらく、向こうでダレンがゲートを開き、それを通って来たのだろう。
伸ばしたリボンで、狙った獲物を掠めとる。手癖の悪さは相変わらずで、頼もしいくらいだった。
「無貌支持派とルーカスを倒したことだし、人間界のことは人間界で、超次元界は超次元界で上手くやっていきましょう……って決めてたんだけどね、一応」
肩をすくめ、彼女は続ける。
「けど、しょうがないじゃない。虚無英雄会の裏に超次元生命体がいるみたいだって、ピーターから聞いちゃったんだもの。仲間のピンチを見過ごすわけにはいかないわ!」
その仲間たちの方を向いて、お菊は声を張り上げた。
「さあ、人質は取り戻したわよ。ここからは思いっ切り戦って大丈夫!」
「合点承知だぜ!」
威勢よく叫び、カイリがノン・プリシャスを睨む。
「さっきはよくもやってくれたな。俺たちが、本物のネクサス・ビッグバンバスターを見せてやる。行くぞ、皆!」
「おうッ!」
七人が集合し、推し推しカノン、VSチューナー、エックスチューナーを一つにした。超力と絆の力を充填させていく。
「馬鹿め。その技はボクが完璧にコピーした。お前たちがいくら頑張ったところで、威力を相殺して相打ちに持ち込むのがせいぜいさ」
ピエロ怪人は鼻で笑い、先刻投げ捨てたバスターを拾い上げようとした。しかし、彼の膝より下は、いつの間にか分厚い氷で覆われていた。足が動かず、もう少しのところでバスターに手が届かない。
「――『BLディフェンダー・ファイナルモード』」
ツカサたちの後方でバズーカを支えていたナオヤが呟いた。彼は密かに必殺技を発動させ、ノン・プリシャスの動きを束の間止めたのである。
「悪く思うな」
「! しまっ……」
た、と怪人が口走るよりも一瞬早く、百合・BLレンジャー一同はネクサス・ビッグバンバスターを発射した。
「うおおおお! 裸のままの欲望で、パワーを絞り出すぜ!」
「今の現実に、勇気をねじり出すわよ!」
七人の全力が込められた一撃を前に、ノン・プリシャスは同じくバスターで応戦することができなかった。光の奔流をもろに受け、無様にアスファルトの上を滑り、転がる。
光線を浴びた腹部には、大きな穴が穿たれていた。だが、この怪人には再生能力がある。徐々に塞がりつつある傷を手で庇いながら、彼はよろよろと立ち上がった。
「お、お前たち、よくもやってくれたな!」
「こっちの台詞だ馬鹿野郎。てめえの罪、きっちり裁いてやるぜ!」
吐き捨て、カイリは「チェンジスタンバイ!」と唱えた。皆で一斉に「エマージェンシー! 百合・BLレンジャー!」と叫び、防弾ベストとマシンガンを備えた強化形態に変わる。なお原作の都合上、カイリとナオヤだけはブレスや剣型の武装を召喚している。お菊は通常のリボンズに変身した他に変化はない。
「一つ。非道な悪事を、憎み!」
「二つ。不思議な事件を、追って!」
「三つ。未来の科学で、捜査!」
「四つ。よからぬ宇宙の悪を!」
「五つ。一気にスピード退治!」
「六つ。無敵がなんかイイ……からの、無法な悪を迎え撃ち、恐怖の闇をぶち破る! 夜明けの怪盗! 百合エックス!」
「百鬼夜行をぶった斬る。地獄の番犬! BLファイヤー!」
「なみいる悪を、白日のもと暴き出す。光のレジスタンス! アメリカン・ファイター、リボンズ!」
かっこよく名乗りを決めた後、マシンガンの銃口がピエロ怪人へ向けられる。
「お前が何度俺たちの技をコピーしようが、俺たちはお前の強さを超え続ける。かかってこいよ、パクリ野郎!」
「……あまり調子に乗るなよ」
怒りを剥き出しにしたノン・プリシャスは、彼固有の武器である双剣を召喚し、構えた。
「ボクには再生能力がある。マシンガンに撃たれながらも再生してお前たちに接近し、強引に心臓を奪うことだってできなくはないんだ。最低でも二人、いや三人は道連れにしてやる!」
「――その辺にしておきなさい」
一体、いつからそこにいたのだろう。上下ともに白いスーツを着て、顔にも同色の仮面を被った男が、怪人の肩に手を置いていた。
「命を散らすつもりで行う戦闘は美しいが、必ずしも正しいとは限らない」
「シールさん……」
ノン・プリシャスは俯き、剣を握った手をだらりと下げた。
「分かりました。すみませんが、ここはお願いします」
「シール? シールってあの、ペタッと貼るやつ?」
虚無英雄会メンバーと思われる敵の登場で、まず名前にツッコむのがツカサらしいと言えばツカサらしかった。
「stickerではなくseal、つまり英語で『封印』の意のシールだよ」
仮面を被った男は、穏やかにそう言う。
「私が司る原典は、何らかの事情で公開できなくなった、いわゆる『封印作品』そのもの。ポ〇モンのポリ〇ン回なんかが有名なんじゃないかな」
「……なんかこいつ、ヤバそうじゃないか?」
「ヤバそうな能力を持ってそうね」
カイリとツカサが囁き合った。何かされる前に先手を打とうと、仲間たちに合図する。カイリ、ナオヤを除くマシンガン勢が最初に動き、「ストライク・アウト!」の掛け声で光弾を撃とうとした。
「無駄だよ。今、君たちの『必殺技』は封印した」
※次回の更新は一週間後の予定です。