けれども、なぜか光弾が銃口から出てこない。してやったりとばかり、シールは笑い声を漏らす。
「君たち、アクションゲームをプレイしたことはあるかな? □ボタンが通常攻撃、△で特殊攻撃、×でジャンプ、〇で必殺技といったように、アクションゲームでは各ボタンの操作でキャラクターを動かせる。私の原典、封印作品の能力は、敵の行動パターンの『段階的な封印』だ」
聞きながらカイリは、ハードオンのジャンク品売り場で見かけたコントローラーを思い出していた。「□ボタンが効きません」などの表示があり、どれも何かしらの不具合を抱えていた。
「たとえば、コントローラーの〇、△、□、×のボタンが一つずつ効かなくなっていくように、私は戦闘開始から時間経過とともに、相手の動きを一つずつ封印していくことができるのさ。私との戦闘が終了するまでの間、君たちの必殺技は使えないよ」
仮面の男はご丁寧にも能力を教えてくれたが、戦隊の動きを制限しているだけで、自分から攻撃してくる気配はない。もしかすると、封印以外にこれといった能力を持たないのかもしれない。
が、その封印がチート級の強さなのだ。必殺技が使えなくなるだなんて、たまったものではない。
「だったら通常攻撃で……」
「おっと、それもダメだ」
仕方なく、普通の銃撃を行おうとしたトウマ。けれど、引き金を引いてもカチカチ音がするばかりで、弾が出ない。
「ちょうど今、『遠距離攻撃』も封印させてもらったよ」
有効な攻撃手段を失いつつある百合・BLレンジャーをよそに、シールはノン・プリシャスを連れて退却を始めていた。仮面の男のものであろう高級外車に、二人して乗り込む。
あくまでも追撃するとしたら、ダッシュで追いかけてから近接攻撃を浴びせるくらいだろうか。しかしそれも、「近接攻撃」自体を封印されたら無意味。むしろ、傷を癒したノン・プリシャスがコピー技で攻撃してきて、返り討ちに遭うかもしれない。
「英雄会の優秀なメンバーを失いたくはないので、今日のところは失礼させてもらうよ。いずれまた会おう」
外車で颯爽と走り去った二人を眺め、一同は変身解除。皆、複雑な表情を浮かべていた。
「……あのシールって奴、虚無英雄会のボスってわけではなさそうだったな。あれくらい強い奴が、まだ何人か残ってるのかよ」
カイリも悔しそうである。まあ、この言い方だと「ノン・プリシャスはそうでもなかったぜ」と思っていそうだが。
「私たちレジスタンスも協力するわ」とお菊。
「ピーターの心臓を本人の元に返したら、今度はダレンも連れて来ようかしら」
「ひとまず、戦力を充実させた方が良いのは確かだな」
ケイイチロウも賛同した。
「可能であれば、名古屋から早川裕介と来部美明日も呼ぼう。それから、後は……零騎士だな」
ピーター・バーガーを人質に取り、卑怯なやり方で百合・BLレンジャーを追い詰めたノン・プリシャス。しかし、お菊の助太刀によりピーターの心臓を奪還。連携攻撃でコピー技を破り、戦隊側が形勢逆転した。
そこに現れたのは、虚無英雄会役員のシール。ノン・プリシャス以上に凶悪な封印能力は、百合・BLレンジャーの技を使用不可能にしてしまうのだ!
戦え、百合レンジャー! 頑張れ、BLレンジャー! 正義の力を結集し、悪を倒すんだ!
「……そうか。分かった、すぐに向かう」
スマートフォンでの通話を終え、裕介は美明日へ真剣な眼差しを向けた。
彼らは今、オメガ珈琲本店が開発した新メニュー「オメガ珈琲ゼリー」を食べていたところだった。が、ゼリーを食べかけのまま会計を済ませ、足早に店を出る。
「カイリたちから連絡があった。虚無英雄会の連中、思った以上に厄介だそうだ。俺たちにも協力してほしいらしい」
「構わないわよ。受け持っている講義は休講にしておけばいいし」
非常勤とはいえ、まあまあ適当な勤務態度である。しかし、やはり講義よりは世界平和の方を優先しなければなるまい。
「来い、珈琲ライナー! 来部ファイアー!」
携帯電話型の変身デバイスを構え、裕介は巨大メカを呼んだ。いつぞやのお菊のように新幹線に乗って行く手もあるが、これを運転した方が早く東京まで行けるからだ。
「……来ないわね」
「来ないな」
「遅延してるのかしら?」
「いや、公共交通機関じゃないんだから」
なかなかメカがやって来ないので、二人は心配になってきた。もしや、ルーカスが仕込んだままになっているコクピット内BGMが暴走して大変なことになっているとか、だろうか。
「――君たちの『巨大メカ操縦』は封印した」
すると背後に、白いスーツに同色の仮面を身につけた男が現れた。
「東京へ行きたければ、この私、虚無英雄会のシールを倒してから行くことだな!」
「さっきカイリから電話で聞いたぜ。相手の動きを段階的に封じてくる、面倒な能力持ちがいるってな」
敵に気づき、二人は素早く振り返った。手慣れた様子で裕介は携帯電話型の、美明日はスタンプ型のアイテムを操作する。
「インストール。『オメガ珈琲シルバー』!」
『パーフェクト・アップ! 超次元ライダー・ネトルティ来部!』
両者の構えた武器の銃口が、シールへ向けられた。
「いくら敵の行動を制限できたとしても、有効な攻撃手段を持っていないのなら、俺たちを倒すことはできないぜ。足止めがせいぜいだ」
「それとも無貌支持派の第一位と第三位のコンビみたく、アタッカーとサポートで役割分担しているわけ?」
仲間は連れてきていないようだけれど、と美明日が肩をすくめる。するとシールは、白スーツの内ポケットからリボンズドライバーそっくりのものを取り出した――どうやってその小さなスペースに収納していたのかは謎だが。
「確かに私には、封印以外に原典のパワーが使えない。元々表に出してはまずい性質のものばかりだから、どうしても直接的にダメージを与えるというよりは間接的な効果になってしまう。だが、弱点は補強することができる。ノン・プリシャスにコピー能力を応用してもらい、私はピーター・バーガーと同じドライバーを用意しておいたのさ」
ピーターの性癖と技をコピーした際、ノン・プリシャスはリボンズドライバーの構造をも理解した。能力の応用で複製したドライバーを、今回単独任務に向かったシールに貸し与えたというわけである。
「変身できるのは君たちだけではない。あまり舐めた口をきかないでもらおうか」
右手に構えたスタンプの上部を、シールは強く押した。「リボンダー!」の音声が響くと、白い仮面の男がスタンプを掲げ、ベルトに押す。
『DEEP! DROP! DANGER! アメリカン・ファイター! リボンズ!』
蜘蛛の糸のようにリボンを全身に纏った、赤と黒のヒロイックなアーマーの戦士が誕生した。