「おやおや。苦戦してるじゃないか、シール」
二人の同時必殺技がクリーンヒットするかと思われたとき、インペリアルリボンズのすぐ横に桃色のドアが出現した。扉が開き、怪人態に変化したノン・プリシャスが出てくる。ピエロ怪人の両手には、マシンガン型の武器が構えられていた。
「手を貸してあげるよ。――『ストライク・アウト』!」
前回、百合・BLレンジャーと交戦したときにコピーしていた必殺技である。マシンガンから射出された何発もの光弾が、斬撃やビームを相殺した。ついでにネトルにも一撃を浴びせ、その衝撃で精神干渉の効果が解ける。黒いオーラが、波が引くように抜けていった。
「コピー能力を持ってる奴がいると聞いたが、お前も虚無英雄会の回し者か?」
「分かりきったことをわざわざ質問しないでほしいな。尺稼ぎのための台詞みたいで、無粋じゃないか」
裕介の問いを飄々とした態度で受け流し、ノン・プリシャスがシールの元へ駆け寄る。火花を散らすドライバーを見て状況を察したらしく、小さく頷いた。
「心配になって見に来てみれば、性癖の不一致による故障か。やれやれだな。シールは戦闘能力が特別高いわけじゃないんだから、無理して前線に出ず、サポートに徹していても良かったのに」
「私だって英雄会の役員だ。雑魚二人さえ潰せずに、役員を名乗れようか、いや名乗れない」
「性格の不一致」と同じノリで性癖の不一致とか言い出したり、謎に反語だったり、ツッコミどころは多かったがツッコめる雰囲気ではなかった。裕介と美明日、ネトルは黙って成り行きを見守った。
「……ともかく、このドライバーで長時間戦うのは厳しいだろう。ボクが戦略的退化を行い、使いやすいドライバーに変えてあげよう」
怪人がインペリアルリボンズのベルトに手をかざすと、その色が変化した。最初よりも赤を主体としたカラーリングになっている。
「リボンズドライバーを模倣した時点で、その構造は把握済みだ。リボンミックスは使えないが、性癖の不一致が発生せずパワーも高い、旧型ベルトにしておいたよ」
「助かる」
ノン・プリシャスから渡された新しいスタンプを手にし、シールがほくそ笑んだ。上部のボタンを押すと、「カブト!」と音声が鳴る。バイオリン調の怪しく美しい待機音が流れたのち、ベルトに押印した。
「……変身」
『制限! 封印! 縦横無尽! 超次元ライダー・シール!』
軍服っぽいデザインのアーマーに、カブトムシが右肩から抱きついたような意匠が付いている。顔の左側にその角状のパーツが見られた。口元には、ガスマスクに似た呼吸装置。
また、各部に「KEEP OUT」と記された黄色いテープがぐるぐると巻かれているのは、おそらく封印作品のイメージなのだろう。
クワガタの意匠がカブトムシに、リボンの装飾がテープになっていることを除けば、オーバーリボンズに少し似ている。
「もはや不意打ちは通用しない。真正面から叩き潰してやろう!」
高らかにそう言い、シールはもう一度スタンプを押印すると、ベルト側面のボタンを押した。
『シーリング・インパクト!』
カブトムシの角状のエフェクトを纏った、強烈なパンチを繰り出す。
「コピー能力使いも来た以上、俺たちだけじゃ対処しきれないかもしれない。一旦退いて、態勢を立て直す……ぞ?」
咄嗟に横に跳んで避けようとしたオメガ珈琲シルバーらだったが、なぜか体がぴくりとも動かない。
「――無駄だよ。たった今、君たちの『回避動作』は封印した」
白い仮面の男の笑い声が響く。直後、彼の渾身のパンチ技が炸裂した。
今度は、裕介たちが爆炎の中に呑み込まれる番だった。
爆炎が晴れても、オメガ珈琲シルバーと超次元ライダー来部、ネトルの姿は見当たらなかった。
「私としたことが、跡形もなく粉砕してしまったか。敵を殺した証を残せなかったのは無念だが、まあ、私が強すぎたのだから仕方ない。フッ……」
「馬鹿。粉砕したんじゃなくて逃げられたんだよ」
得意げにべらべら喋り出したシールを、ノン・プリシャスが小突く。
「ていうか、お前のその力はボクが与えてやったものだろう。あたかも自分の力で勝ったように報告されても困るんだけどな」
「私が上手く使いこなしたのは確かだ」
ああ言えばこう言う。ピエロ怪人はため息をついた。
「とにかく奴らを追うよ、シール。ボクたち役員が二人がかりで戦ったのに取り逃がしたとなれば、会長に失望されかねない」
「しかし、追跡手段がないだろう? ゲートが開いて迎えが来るまでには、まだ時間がある。今すぐ追うのは難しい。ここは一つ、名古屋観光でもしてから帰ろうではないか」
虚無英雄会の関係者の中には、ゲートを自在に開くことのできる者がいる。構成員を戦場へ送り込み、撤退させるのは主に彼の役割だ。が、あらかじめゲートを開く時間を決めて送迎してもらっている都合上、戦闘が早く終わったとしても少し待たなければならないのである。
変身を解き、白い仮面の男はすたすたと歩き出してしまった。ノン・プリシャスが慌てて後を追う。
「悠長なことを言っている場合か⁉ 外部顧問に連絡して、ゲートを開く時間を早めてもらえば良いだろう!」
「敵がどこへ逃げたのかも分からないのにか?」
シールは足を止め、怪人と腕を組んだ。
「急がば回れだ、ノン・プリシャス。……そう、生きていることがプレシャス! 楽しければ良いさ。私たち二人で、名古屋の観光名所で楽しく遊べば良いでショータイム!」
「お、おい、離せ! 何だよショータイムって⁉」
「さあ、まずは名古屋城に突入だ。楽しい観光がスタートアップするぞ。果てなき観光魂で挑もう!」
命がけの観光に、今日も旅立つ者がいる。
じたばた暴れるノン・プリシャスを引きずり、仮面の男は「アタック!」と叫んで走り出した。
今回、ご迷惑をおかけした作品
・ボウケンジャー