百合レンジャーvsBLレンジャー   作:クリスタルスカイ

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40 哀しき長剣

 さて、裕介と美明日がどうなったかと言うと、二人は今レンタカーに乗って東京へ向かっていた。

 

 シールに「回避動作」を封印されてまともに動けなくなっていた彼らを救ったのは、レッド・クイーン、ブルー・クイーン、イエロー・クイーンの三人である。この前名古屋に来たとき、急遽関東へ戻ることになってあまり観光できなかった彼女たちは、今日たまたまそのリベンジに来ていたのだ。で、オメガ珈琲シルバーと来部、ネトルが苦戦しているのを発見し、どさくさに紛れて彼らを連れて退却。レンタカーを借りて移動を開始したのだった。(なお、座席数の関係で、ネトルは美明日と再び融合している。)

 

 

 結局、ゴークイーンズは今回も観光を中断したわけだが、まあ非常事態なので仕方ないだろう。ハンドルを握るレッド・クイーンも、助手席と後部座席のブルー、イエローも残念がっている様子はない。

 

「ありがとな。お前ら、何だかんだでいざって時に頼りになるよ」

 

 運良くゴークイーンズが居合わせたから良かったものの、あのままだとかなりヤバかったと思う。後部席に美明日と並んで座る裕介が、礼を述べた。

 

「オーッホッホッホ! 私たち、準レギュラー的ポジションと言っても過言ではないのですわ~!」

 

 ハンドルから片手を離し、口元に当てる。いかにもお嬢様っぽい笑い方をするレッドを見ながら、一同は内心ひやひやしていた。ほら、一応、今走ってるの高速道路だしね。ちゃんと前見とかないとね! 正義の交通ルールを守りましょう!

 

 

「それにしてもグッドタイミングでしたわね。私たちはこのまま東京に帰り、お二方も向こうで百合・BLレンジャーと合流できるわけですから」

 

 ここまで車を走らせる中で、ゴークイーンズ側も大体の事情は聞いていた。ブルー・クイーンが微笑む。

 

「無貌やルーカスが相手でも一歩も引かず、虚無英雄会にも一矢報いる、私たちのこの大活躍。何なら、百合・BLレンジャーに加入させていただいても良いのですわよ~!」

「いや一歩も引かなかったってことはねえだろ。何ならルーカスのときはほぼ瞬殺されてたろ、お前ら」

 

 裕介に指摘され、ブルーは明後日の方向を向いて口笛を吹き始めた。本当に調子の良い奴である。

 

 

「加入するついでに、こんなしょぼいレンタカーじゃなくて、専用マシン『ゴークイーンオー』や『SMシュリケンジン』を作ってくれても良いのですわよ~!」とイエロー・クイーン。

「もうタクシーやレンタカーで移動するのはこりごりですわ~! 深刻な予算不足ですわ~!」

「まさか、予算目当てで戦隊に加入したいんじゃないでしょうね? ……まあともかく、英雄会の刺客は振り切れたみたいだし、何とか関東でツカサたちと合流できそうね。良かったわ、本当に」

 

 美明日が肩をすくめる。

 ゴークイーンズがもし本当に百合・BLレンジャーに加わるとしても、ツカサたちの承認を得ないことには始まらないだろう。自分たちの独断で決められることではない。

 どうなるかは分からないまま、一行は着実に東京へ近づいていた。

 

 

「お、おのれ、シール……」

 

 疲れ切った表情で、パンツスーツの女性がゲートから降り立った。

 彼女は人間の姿へ戻ったノン・プリシャス。やっとのことでシールを振り切り、外部顧問に鬼電して、東京の某大学へゲートを繋げてもらったところである。

 ノン・プリシャスは使命感に燃えていた。いや、上司からの叱責を恐れて焦っていたとした方が正確かもしれない。役員二人がかりで任務に失敗した以上、何らかの方法で名誉挽回を図らないとまずいのだ。吞気に名古屋城内を冒険しているシールの気が知れない。

 

 

(もう、こうなったら相手は誰でも構いませんわ。百合・BLレンジャーの中で一番倒しやすそうな人物……最近加入した、零騎士とやらを先に屠って差し上げましょう。彼の首を献上すれば、会長も機嫌を直して下さるに違いありませんわ!)

 

 新顔の零騎士ヒョウガは、まだ戦闘経験が浅いはずだ。場数を踏んで踏んで踏みまくっているツカサやカイリに比べれば、遥かに倒しやすいだろう。そう考えたお嬢様は、零騎士を狙うだけでなく、より確実に倒すために卑怯な手段を取った。

 すなわち、彼の大切な人を狙ったのだ。

 

 

 今日の仕事を終え、サヤは帰り支度をしていた。同僚たちに「お疲れ様でした~」と挨拶してから退室し、さりげなく学内に目を配りながら通用門に向かって歩く。

 

(……おらへんなあ)

 

 学生たちの中に、ヒョウガの顔はなかった。

 大学の事務職に就いてからというもの、学内で彼のことを半ば無意識的に探してしまう。そんな自分の気持ちに、サヤ自身が一番驚き、戸惑っていた。

 

 

(何なんやろ、この気持ち。気づけばヒョウガくんのことばかり考えてまう)

 

 考え事に夢中になっている彼女は、背後にパンツスーツの女が立ったことにも気づかなかった。

 

(まさか、ね。だってうち、今まで年下の男の子と付き合ったこととかないし)

 

 一旦はそう自分に言い聞かせたが、僅かに頬を赤く染め、否定する。やはり自分の心に嘘はつけない。この間、手を繋いだときに胸が高鳴ったのは、ヒョウガだけではなかった。

 

 

(……ま、まあ、ヒョウガくんに関して言えば、からかいがいがあって可愛いわ。それに……ちょ、ちょっとかっこいいかもって思ってまうことが、全くないわけやないけど)

 

 門へと続く階段を降りながら、心も弾むようだった。

 

 

 そのとき、サヤへ忍び寄っていたノン・プリシャスが怪人態に変化した。取り出したトランプを、彼女の首筋に近づける。他の学生たちは怪人に気づいて騒ぎ、逃げ出しているが、サヤはまだ気づいていない。

 あと数センチで肌に触れる。そうすれば、サヤの心臓はノン・プリシャスの手中に収まる。ピーターの心臓を人質に取って百合・BLレンジャーを追い詰めたときのように、彼女はサヤの命を使って零騎士を叩きのめしてやるつもりだった。

 

 

「――いい加減にしろ」

 

 怪人化し、五感が常人よりも研ぎ澄まされているノン・プリシャスにはかろうじて聞き取れる程度の声量で、彼は言った。

 怪人が動きを止め、ゆっくりと振り返る。予期せぬ展開に、トランプを接触させる作戦は諦めた様子だ。

 サヤには特に何も聞こえなかったようで、そのまま通用門から出て行った。後に残った二人は睨み合った。

 

「人質を取っておびき出すまでもなかったようだね、零騎士」

 

 

 すぐにはそれに答えず、ヒョウガは階段を降りて彼我の距離を少し詰めた。

 

「昨日、顔合わせをして百合・BLレンジャーに加えてもらったときに、諸先輩方から話は聞いている。お前、先輩たちにも同じことをしたらしいな。大切な仲間の心臓を奪うなんて、卑怯な真似をして。ワンパターンなんだよ」

 

 さらに一歩詰め寄り、長剣ゼロライアットを召喚する。

 

「何より、あの人を傷つけようとしたことが許せない」

「心配しなくても、お前が大人しくやられてくれれば彼女に手は出さないよ」

 

 

 ピエロ怪人も双剣を構え、ニヤリと笑った。一触即発の空気の中、ヒョウガが「騎士転生」と唱えて黒い鎧を装着する。

 

「……二度とサヤさんには触らせない。二度とサヤさんの前には立たせない! お前は俺が倒す!」

 

 




※次回の更新は1週間後の予定です。
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