「やれるものならやってごらんよ。――『零の撃弾』!」
ヒョウガの繰り出した水平斬りをバックステップでかわし、ノン・プリシャスは剣の先端から黒い稲妻を帯びた光弾を放った。
「お前の技は全てコピー済みだ。そして、お互いの使える技がほぼ共通しているなら、再生能力を持つボクに分があるのは自明の理。普通に技を撃ち合うだけで、ボクはお前を叩き潰せる!」
彼女が勝ち誇ったのも束の間だった。横転して光弾を避けた零騎士は、膝立ちの姿勢から「零の撃弾」を放ったのである。素早いカウンターに咄嗟に反応できず、怪人はもろに喰らってしまった。
「何っ⁉」
胸部に光弾を受け、後ずさるノン・プリシャス。
「ならば、これでどうだ。『零の衝撃』!」
「『零のたてがみ』!」
今度は袈裟懸け斬りを繰り出そうとしたが、ヒョウガに妨害された。剣を握る手を狙った火炎放射に、否が応でも回避を強いられる。再生能力があるとはいえ、武器を取り落としては戦いづらいからだ。
「――『零の一撃』!」
隙を逃さず、ヒョウガが踏み込んだ。高く跳び、空中で一回転してから稲妻を纏った斬撃を浴びせる。ノン・プリシャスは双剣でガードしたが威力を殺し切れず、がくりと膝を突いた。
そこへ追い打ちをかけるように、零騎士は唸り声を上げ、かかと落としを敵の肩へ叩き込んだ。なぜか、元々は存在しなかったトゲのようなパーツが零騎士のかかとから生えている。トゲを突きさされている怪人はかなり痛そうで、苦しげに身をよじった。
「『零の一撃・コスモバージョン』!」
かかとのトゲを引き抜き、ヒョウガは近距離から白と黒の二色の斬撃を飛ばした。ノン・プリシャスの体が軽く吹き飛び、大学図書館の外壁に叩きつけられる。
「……な、なぜだ。お前の全ての技は、ボクがコピーしたはずなのに。互角ならまだしも、なぜここまで圧倒的な差が生じる⁉」
抉られた金属質な皮膚を再生させながら、怪人は怯えたように声を震わせた。
「それに、今の妙なかかと落としは何だ。これまで一度も披露していなかった技を、アドリブでやってのけたとでも言うのか?」
「所詮、お前は過去の俺を模倣しただけ。俺は既に、未来も掴んでいる!」
堂々とそう言い返し、ヒョウガは長剣を掲げた。その柄の少し上に、四つのボタンが出現する。
「俺の進化は光より速い。全宇宙の何者も、俺の進化にはついてこれない!」
オリジナルである零騎士の技の威力が、ノン・プリシャスのコピー技を上回ったわけではなかった。むしろ、純粋な威力だけで言えば全くの五分である。勝敗を決したのは、ヒョウガの凄まじい集中力だ。
一度ならず二度、三度も、サヤは虚無英雄会絡みの事件に巻き込まれかけている。自分にとって心惹かれる、大切な存在になりつつある彼女を傷つけさせるようなことは、これ以上あってはならない。燃え滾る闘志を力に変え、彼はいつになく鋭く、的確に攻撃をヒットさせていったのだ。
集中力の高さゆえに、今のヒョウガは一種の「ゾーン」に入ったような状態だった。キャラが若干変わり、俺様系になっている。
『百合・パワー!』『BL・パワー!』
一つずつボタンを押すたびに、音声が鳴る。
『ノーマル・パワー!』『年上・パワー!』
「お前だけ『VS・スワットモード』で武装を出せないのも、なんか仲間外れ感があって嫌だからな。代わりに別のものを付けといてやるよ」
顔合わせのとき、カイリにこう言われ、ゼロライアットをBL警察の科学力でバージョンアップしてもらったのだ。
「四種類のボタンを押すと、それに応じた性癖のパワーが剣に送られる。俺たちの持つ百合とBLの力、裕介と美明日のノーマル性癖の力、そしてお前自身が秘めている年上好きの性癖の力だ。皆の力を少しずつ借りる的なやつだな」
「さ、さすがカイリ先輩。初対面で、俺の性癖をずばり言い当てるなんて!」
「ちょっと観察すれば分かるぜ。……さっきBL警察本部に駆け込んできた、財布を落としたとか言う清楚系JKに見向きもしなかったところを見るに、ヒョウガは年下には興味なさそうだった。同年代のツカサやウミカにも、何の反応も示していない。すると、消去法で年上ってわけだな」
「なるほど。さすがです!」
もっとも、仮に性癖に刺さる異性がいたとしても、初対面でそこまで露骨に反応するわけがない。カイリの言っていることは実は適当で、ほとんど直感で性癖を言い当てたようなものだった。ヒョウガは割と天然なので気づいていないけれども。
「ちなみに、ツカサに反応ゼロってことは貧乳より巨乳派か? いやな、俺も昔はそうだったんだけどよ、最近ではどちらの良さも分かるように……」
「新人相手に一体何の話をしてるのよ、あんたは⁉」
地獄耳のツカサに連行されていく情けない姿を見て、ヒョウガの中でカイリを敬う気持ちが微妙に減少したのは内緒である。
『オール性癖・コンバイン!』
四つ全てのボタンが押されたため、全性癖のパワーが零騎士に集中した。ゼロライアットが輝き、黒い巨大な光の刃が生成される。
「……フン。何をするかと思えば、百合・BLレンジャーの力の一部を借りたのか。離れた場所にいる奴らから少しフォローしてもらった程度で、ボクに勝てると思うな!」
コピー技では勝てないと悟ったノン・プリシャスは、彼女の原典自身の力で攻撃してきた。双剣を振るって光線や光輪を次々に飛ばし、全力でターゲットを潰そうとしている。
「絆とは、決して断ち切ることのできない深い繋がり。たとえ離れていても、心と心は繋がっている!」
百合・BLレンジャーに加入した零騎士は、彼らの絆を重んじる心をも受け継いでいた。次元大魔王との激闘で、最後に決め手となったのはやはり絆だったように。
「男がやってはいけないことが二つある。女性を泣かせることと、食べ物を粗末にすることだ。サヤさんの命を弄ぼうとしたお前だけは、絶対に許さない!」
『マキシマム・ゼロ・タイフーン!』
巨大な刃が一閃され、ノン・プリシャスの放った光線を呆気なく薙ぎ払う。さらに、闇の剣は彼女の胴へ深く斬りつけていた。爆発に包まれるピエロ怪人。
斬られた直後から再生がスタートしてはいた。けれども、傷を癒すのに残された力を全て使い切ってしまったらしく、怪人は再生を終えると同時にぐったりと倒れ込んだ。人間の姿に戻り、手足を投げ出す。
「申し訳ありません、英雄会会長……」
白目を剥いて気絶したパンツスーツの女を見下ろし、ヒョウガも変身解除した。踵を返し、野次馬が集まってくる前に通用門から出る。元々講義を終えて帰るところだったし、何ならサヤと途中まで一緒に帰るチャンスでもあったのだが、虚無英雄会のせいで邪魔が入ってしまったのだ。残念。
歩きながら、BL警察へ電話を入れる。
「お疲れ様です。昨日伺ったヒョウガですけど……はい、英雄会のノン・プリシャスが大学で暴れて……はい、よろしくお願いします。先輩」
以前にも何度か電話したことがあるが、百合・BLレンジャーのメンバーと仲間になったことで距離が近くなっていた。打倒英雄会に向けて、ヒーローたちは前進しつつある。