「ノン・プリシャスが逮捕されたか。いささか功を焦りすぎたようだね」
教会の長椅子に腰掛け、虚無英雄会会長は呟いた。
「だが、彼女のしたことは無駄ではなかった」
会長の意を汲んだかのように、シール含む役員二名が進み出る。リョウマもノン・プリシャスも撃破されたため、四人いた役員も半分になってしまったのだ。
「まだ試作段階ですが、完成に至る日は近いかと」
シールが差し出したのは、大きめのリボンが付いた短剣。変身アイテムであり武器としても使える、通称「リボンスレイヤー」だった。
「……素晴らしい」
会長はそれを受け取り、愛おしそうに撫でた。
「これまでは、『スワッピング・セイレーン』の複製機能を利用して疑似的な量産兵として使っていた。しかし、あれはスワッピング性癖の適合者しか使いこなせず、装着者を探すのが大変なのがネックだった。それに、パワーも不十分だったね。試しに百合・BLレンジャーにぶつけてみたが、全くと言っていいほど歯が立たなかった」
けれどこれは違うよ、と彼は語る。
「私がノン・プリシャスを高く評価し、組織のナンバーツーに据えていたのは、彼女の戦闘能力を買ったからではない。一つには、相手の心臓を奪って強制的に命令に従わせる、非常に高い統率力。そしてもう一つはコピー能力さ。彼女の最大の功績は、ピーター・バーガーの技と性癖、およびリボンズドライバーの構造を完璧にコピーしたことだよ」
ピーター、お菊、無名、また超次元界のレジスタンスたちが全員リボンズドライバーを使いこなしていることから分かるように、あのベルトは装着者の性癖を選ばず、基本的に誰でも変身できる――本来の使用者、ピーターの「緊縛」性癖を帯びているにもかかわらず、である。したがって、特定の性癖を持つ人しか使えなかったスワッピング・セイレーンに比べて、遥かに使い勝手が良い。
ノン・プリシャスのコピー能力によって、性癖に関係なく、誰でもリボンズの力を扱えるようになった。虚無英雄会の戦力はかなり強化されるだろう。
「……で、シール君。なぜこの変身アイテムは、リボンズドライバーとはかけ離れた形状なのかね?」
「申し訳ございません。調べたところ、リボンズドライバーにはレアメタルが使用されているようでして、量産するにはコストがかかりすぎます。そこで基本となる機構はそのままに簡略化し、なおかつ武器として使いやすいデザインにしました」
「ふむ、そうか」
会長は頷き、後方に控えていた部下を「ちょっと、君」と呼びつけた。試しに変身して見ろということらしい。
「はっ」
男は恭しく一礼し、リボンスレイヤーを手に取った。専用のキーを差し込むことで起動させ、短剣を顔の前にかざす。
『Guys Go!』
「緊縛武装」
光に包まれたのち、顔と胸に蜘蛛の意匠を持った白い戦士に変わった。
『リボンダークモノス~!』
アーマーを装着した自身の姿をしげしげと眺め、英雄会構成員が「おっと!」と感嘆の声を漏らす。どうやら変身は成功のようだった。
会長は微笑を称え、シールらに命じた。
「量産化を急ぎたまえ。リボンダークモノスの軍団を作れば、百合・BLレンジャーを倒すのも容易い」
「かしこまりました!」
深々と頭を下げながら、シールは内心ほっとしていた。
(……やれやれ。もしも、「君が名古屋で観光している間にノン・プリシャスがやられてしまったではないか」なんて言われたら土下座するしかなかったが、バレていないようで助かったよ)
ノン・プリシャスは撃破された。しかし、虚無英雄会の戦力はむしろ増強されているかもしれない。新たな戦士「リボンダークモノス」が量産された暁に、百合・BLレンジャーは対抗できるのだろうか?
頑張れ、零騎士! 戦え、ヒョウガ! 全てを統べて、世界の運命を定める、狭間の王様になるんだ!
シールやノン・プリシャスによる妨害こそあったものの、オメガ珈琲シルバーと超次元ライダー来部、そして零騎士ヒョウガは無事に百合・BLレンジャーとの合流を果たした。一同は今、BL警察本部の大会議室にて作戦会議を行っていた。
「本題に入る前に、一ついいかしら?」とお菊。
「皆から状況を聞いて、疑問に思ったことがあるの。なぜ虚無英雄会の構成員は、ああも自由に原典を使えているわけ?」
「なぜって言われてもな。俺たちだって使えてるじゃないか」
向かいの席についている裕介の言葉に、彼女はかぶりを振った。
「原典の使用可能量、すなわち虚無の量は、人間界のパソコンやスマートフォンの『ストレージ』に似ているわ。このストレージの大きさはあらかじめ決まっていて、拡張することはできない。新しくデータを追加したいけれど容量がないときは、元々あるデータを消すしかないのよ」
無貌みたいにね、と付け足すお菊。超次元界に君臨していたあののっぺらぼうは、自身の外見や記憶さえも捨てることで絶大な虚無を得た。だからこそ、誰よりも多くの原典を扱うことができたのだ。
「あなたたち百合・BLレンジャーは、卍帝国によって記憶操作をされたときに一部の記憶を失っている。もちろん今では回復しているけど、操作によって生じた一時的な虚無が、あなたたちへの原典の定着をちょっとだけ促したんでしょうね……はい、というわけで説明終わり!」
「そういう重要な設定はもっと早く出しなさいよ⁉ これじゃ何だか後付けみたいじゃない!」
すかさずツカサがツッコんだ。
「ていうか、説明になってないわよね? だって、虚無英雄会のメンバーの中にも記憶操作を受けた人はいるかもしれないでしょ?」
「確かにいたでしょうね。けど、記憶操作による虚無はあくまで一時的なもの。操作されている間に原典が定着するならともかく、記憶が戻ってしばらくした頃に原典を使い始めるのはおかしいわ。普通の人間には不可能な芸当よ」
お菊は首をかしげる。
「姿形を自由に変えられる超次元生命体ならまだ分かるけれど、英雄会の構成員がどうして原典を我が物にできるのか。私にはそれがよく分からないの」