「フフフ……ハハハハハ! この程度で私を倒したつもりか? 愚かな!」
自身の体から発するエネルギー波で周囲の炎を振り払い、シールは嘲笑した。
「ダレン、君は勘違いしている。私が君相手に封印を使わなかったのは、種類指定による封印が難しかったからではない。あえて封印せず、君に攻撃させることで『足フェチ』性癖を発動させるためだ!」
彼の性癖の能力は、「敵の足が自分に接触すると、自分の強さがその触れ方に応じて上がる」というもの。裕介や美明日との戦いで使用したときは、ライダーキックで思いっ切り蹴られたのでせいぜい一段階しか上昇しなかった。それでもリボンズからインペリアルリボンズへ進化できたのだから、なかなか強力である。
「攻撃パターンこそ豊富だが、君のそのトリッキーな技は、パンチ主体の近距離攻撃と土星や独楽を飛ばす中距離攻撃に大別される。封印することはさほど難しくなかったのさ。けれど、封印してじわじわ追い詰めるより、パワーアップして一気にケリをつけた方が早いだろう? ……さあ、見せてやろう。私の最強形態を!」
足フェチ性癖の効果で、シールはナックル型の新たな変身アイテムを召喚した。トリガーを引くと「ブラックアウト!」と音声が流れ、続いてコーラス調の待機音。
「虫唾が走るなあ、ダレン。君の全てを壊してやる!」
『クリムゾン・アップ! クリムゾンシール!』
黒い、悪魔のようなシルエット。右半身には赤く鋭利な装飾がいくつかある。もはやカブトムシ要素はどこにもなかったが、「KEEP OUT」の黄色いテープは相変わらず各所に巻いていた。
「……盛り上がっているところ、申し訳ないが」
パワーアップしたシールに、虚無英雄会会長が声を掛けた。
「ダレンたちはもう撤退しているよ。君がブツブツ言っている間にね」
「何ですと⁉」
我に返り、慌てて辺りを見回すシール。爆炎は完全に消えており、ついでに百合・BLレンジャーの姿も消えていた。
「彼らは君の封印能力について情報共有していた。足フェチ性癖の能力についても把握していたとしても、おかしくはあるまい。あのダレンという男は、こういう展開になることを想定した上でキック技を使ったんじゃないかな。君が強化変身している隙に、仲間を連れて逃げるために」
「そ、そんな……」
クリムゾンシールへの変身を解き、白い仮面の男はがくりと崩れ落ちてしまった。かなり落ち込んでいるらしい。
「能力を出し惜しみした挙句に、逃亡を許すとは。そういうのを『宝の持ち腐れ』というのだよ」
グリイザはため息を吐いた。
ホテルの朝食バイキングが好きだ。
早起きして一番乗りした者に最も多くの食事の選択肢が与えられる、まさに「早起きは三文の得」を体現したようなシステム。その土地の名産をふんだんに使ったメニュー。食べたいだけ食べられる、自由と幸せ。朝起きるのが楽しみになる。
しかもメニューが毎日少しずつ変わるから、連泊しても飽きが来ない。
全メニューを少しずつ食べるなんて贅沢な楽しみ方も可能だが、せっかくだからしっかり食べたい。おかげさまで、私は毎朝ついつい食べ過ぎてしまう。
惜しむらくは、朝なかなか起きられなかったり、ロビーまで下りていくのが面倒だったりして、朝食バイキングに行かない人も一定数いるということだ。あのバイキングの楽しさは、ぜひ一度味わうべきだと思う。
「……ふむ。少し太ったか?」
「太ったか、じゃないわよ⁉ あと、何なのよさっきのエッセイ風の独白は!」
自身のお腹に僅かについてきた贅肉を、しげしげと指でつまむダレン。その向かいの席に座ったお菊は、ツカサみたくツッコミを入れた。
グリイザに完敗し、シールの追撃から逃れて以来、虚無英雄会に目立った動きはない。長期戦になる可能性も考慮し、ダレンとお菊は都内のホテルにしばらく滞在することにしたのだった。そうしたら、人間界の食事に慣れていなかったダレンはあっという間に朝食バイキングにはまってしまったわけである。今日で三泊目、いつもご飯が美味しい。
なお、二人はダブルルームに一緒に宿泊したわけではなく、シングルを二部屋借りている。レジスタンスでも別々のテントで寝ていたし、そういう仲ではない。
それに、お互いに恋人や妻を亡くしているため、新しい恋に踏み出すにはまあまあな決断力が要求されるのだ。お菊の恋人、原典無しは無貌配下の三武神アマエマックスに殺され、ダレンの妻、エリザベスも無貌に惨殺されている――元はと言えば全部ルーカスのせいなわけだが。
「美味しいですわ~!」
「ご飯は笑顔ですわね!」
「やっぱりホテルで出てくるオムレツは、別格の完成度と美しさですわ~! ケチャップのかけ方さえも一種の芸術のように思えますわ~!」
宿泊客に交じってバイキングを楽しんでいるゴークイーンズは、わざわざ高い料金を払ってまで食べに来たらしい。混ぜ込みご飯にサンドイッチ、スパゲッティを主食として、朝から割とガッツリ食べている。元を取る気満々なのか、ティラミスとかやたら高そうなスイーツもちょこちょこつまんでいた。
なぜ彼女たちが来たか。それは、ダレンら二人が泊っているこのホテルが、次の作戦会議室として選ばれたからである。ついでにご飯も楽しんでいくスタイルだ。
「おはよっ」
バイキングが終わる時間が近づくと、ツカサたち百合・BLレンジャーの面々もぞろぞろとやって来た。まだちょっと眠い目をこすりつつ、ダレンの部屋へ移動する。
一部屋に十人以上が入るとかなり窮屈で、ベッドに腰掛けられなかった人たちは仕方なく立ちっ放しだった。だが三日間でだいぶ傷も癒えたので、辛そうにしている者はいない。
「皆、朝早くから集まってもらってすまない。作戦会議を始めよう」
口火を切ったのはケイイチロウ。