「というわけで、俺たちが尋問しに来てやったぜ!」
取調室にて、張り切っているのは裕介と美明日。反対に意気消沈し、囚人服姿で手錠を付けられて椅子に座っているのは、リョウマとノン・プリシャスである。
「さあ、虚無英雄会の会長について知っていることを吐くんだ。さっさと話さないと、ネトルに頼んでお前たちを操らせて、裸踊りでも何でもさせてやるぜ!」
机の上に手を突き、裕介は威勢よく言った。
「裸踊りだと⁉ くっ、殺せ……」
かつてノン・プリシャスに変身していたお嬢様っぽい女性は、俯いて奥歯を噛みしめた。今度はどんな創作物の影響を受けたのやら。やっぱり、女騎士が敵に捕まる系のやつだろうか。
「ちょっと、早川くん。リョウマはともかくノンちゃんは女の子なんだから、裸踊りなんかさせたら可哀想だわ」
「ご、ごめん」
美明日が割とガチで不機嫌になったので、裕介は平謝りした。彼女がこの調子では、ネトルを尋問に駆り出すわけにいかなくなってしまう。
ついスルーしてしまったが、ノンちゃんというのはノン・プリシャスのことだろうか。略称がなんか可愛い。本名が何なのかも地味に気になる。
「ていうか、そもそもネトルの能力をそんなしょうもないことに使ってほしくないのだけれど」
「はい、すみませんでした」
頭が上がらなくなった彼はさておき、囚人二名はびくびくしていた。
「わ、私は何も知らないぞ。グリイザ会長は、あまり自分のことを語らない方だったからな」
「くっ、殺せ……」
青ざめて首を振るリョウマと、botのように同じ台詞を繰り返すノンちゃん。女騎士が出てくる本の影響は凄まじいようだ。独房にどんな本持ち込んでるんだよって話なんだけれども。
「嘘をついてるんじゃねえだろうな。本当に知らないのか?」
「だから知らないと言ってるだろう⁉」
「くっ……」
しらを切っている風でもなく、何度問い詰めても同じような回答しか返ってこない。埒が明かず、だんだんと裕介たちは消耗してきた。
不意に、取調室のドアがノックされる。入室してきたのはトウマだった。
「ワラカスフンドが都心部に現れた。大量の機械怪人を率いて移動している」
「何っ⁉ 分かりました、俺たちもすぐに……」
「いや、二人はこのまま尋問を続けてくれ。下手に動いて刑務所の警備を怠り、囚人たちの脱走を許すようなことがあってはならないしな。特にリョウマは前科がある」
トウマはすぐに踵を返し、後ろ手にドアを閉めた。
「今回は俺たちだけで対処する。何かあればすぐ連絡してくれ。では、失礼」
「……クックック」
裕介と美明日がトウマから伝達を受け、自分たちから目を離している一瞬の隙を突き、リョウマは懐からリモコンのようなものを取り出していた。
「私は諦めていないぞ、百合・BLレンジャー。今度こそ完璧に脱獄してやる!」
「な、何だそれは⁉」
振り向いた裕介へリモコンを向け、眼鏡をかけたインテリ風男は饒舌に語った。
「油断したな。私の原典の能力は、何もドライバーによる変身だけではない。このリモコンを向け、コマンドを唱えながらボタンを押すと、相手の変身能力を封じることができるのさ! 原作再現のためには自分と相手がお互い生身の状態でないと使えないから、今までは使わなかったがな!」
「得意になってるところ悪いんだけどよ」
「ん、何かな? 私の強さに恐れ入ったか?」
「お前のその能力って、シールの封印能力の完全下位互換じゃね?」
「なっ……」
愕然としているリョウマ。こいつ、今まで自覚なかったんだろうか。
「だってそうじゃん。封印できる対象が『変身能力』限定な上に、お互い生身の状態じゃなきゃ使えないんだろ。カードゲームで例えるなら、パワーインフレに完全に置いていかれた数年前のカードって感じだぜ」
「おのれ、言わせておけば。目にもの見せてやろうじゃないか。キルプロセ……」
途中までコマンドを唱えた男の口は、動かなくなった。彼がべらべら喋っている間に美明日がネトルの力を借り、精神干渉で体の自由を奪ったのである。たちまち、リョウマは取り押さえられた。
なお、そんな騒動が起きている最中も、ノンちゃんはじっと目を閉じて歯ぎしりしていた。リョウマが脱獄しようとどんなに頑張っても、自分は絶対に逃げようとしない姿勢だけは評価したい。
かくして、尋問は不完全燃焼に終わったのである。そしてリョウマの刑期は伸びた。
「出て来い、百合・BLレンジャー。吾輩が相手だ!」
杖からビームを放ち、ビル群を片っ端から粉砕する。何百体もの機械怪人を従え、ワラカスフンドは都内の大通りを進軍していた。
文字通りの「大通り」、しかも車道のど真ん中を歩いている。車が向かって来ようものなら全員がよってたかって攻撃してぶっ壊し、強引に我が道を突き進んでいた。
奇妙なのは、狙ったのが東京都の中心部ではなかったことだ。最初こそ新宿近辺に出現したものの、そこではほとんど暴れないまま移動を開始している――ヒョウガの通う大学へと向かって。
我が物顔で道路を闊歩するワラカスフンドたち。彼はなぜか、車や建造物を破壊するたびに悲しげな表情を浮かべていた。「本当はこんなことをしたくない」というかのようだった。
「……やめろ、ワラカスフンド!」
進軍を続ける虚無英雄会の前に立ちはだかったのは、裕介と美明日を除く百合・BLレンジャーの面々である。
「随分と凝った趣向だな。なぜ、俺の通う大学を狙う?」
「単に人口密集地を攻撃するだけでは、芸がなかろう。それに、お前をおびき出して潰すにはこうするのが手っ取り早い!」
ヒョウガの問いに、歯車を頭と背に付けた怪人は笑う。
「零騎士を倒して、吾輩は前回の失敗を挽回する。グリイザ様に再び認めてもらうのだ!」
「そうか」
青年はすっと目を細めた。瞳の奥では、怒りの炎が静かに燃えている。
「……奴は俺を挑発しているらしい。諸先輩方、俺がケリをつけます」
「分かった。やってみろ」
ケイイチロウがヒョウガの肩を叩いた。
「機械怪人は俺たちに任せておけ」
「騎士転生!」
「警察チェンジ!」
「怪盗チェンジ!」
「『BLファイヤー』!」
「レッツ、モーフィン!」
『DEEP! DROP! DANGER! アメリカン・ファイター! リボンズ!』
『ダレン・マジェスティ!』
変身を終えた一同は散開し、ヒョウガはワラカスフンドと、それ以外の面々は怪人たちとの戦闘に突入した。