「マジックハンドでくすぐっても効果が薄いことは、前回の戦いで悟った。したがって、今回はくすぐらない!」
開幕早々、ワラカスフンドは宣言した。
この前だって、あれは比較的アーマーが軽装であるゴークイーンズ相手だから効いたのであって、零騎士の厚い鎧をくすぐっても効果はゼロだったろう。そもそもくすぐり攻撃自体が弱いのも一因だが。
「代わりに、純粋な打撃武器として使う!」
言うが早いか、ワラカスフンドはマジックハンド付きの杖で殴りかかってきた。ヒョウガも長剣ゼロライアットで迎え撃つ。
目算だが、リーチはこっちの方が長い。自分の斬撃が先にヒットすると確信していたヒョウガだったが、刹那、何の前触れもなくマジックハンドが大きく伸びた。先端で胸部を強打され、驚きながらも後退する。
「……そういや、伸び縮みするんだったな。そのマジックハンド」
ワラカスフンド本体は恰幅が良く、動きはさほどスピーディーではない。しかし、その弱点をリーチの長さがカバーしている。一見すると地味な能力だが、意外とやりづらかった。
ヒョウガの心を読んだかのように、怪人は得意気になった。
「伸び縮みするだけというのは、なるほど地味な能力かもしれん。だが、それはすなわち、吾輩の攻撃のリーチは変幻自在だということ。吾輩が念じれば瞬時にこの杖は長さを変え、攻撃の届く範囲を変える。何人たりとも、吾輩の攻撃を予測することはできない!」
さらに打ちかかってくるワラカスフンド。零騎士は剣で打撃を受け止めようとした。が、思うようにいかない。
上段から大振りな一撃が来ると見せかけての、マジックハンドを縮めての短い突き。あるいは、縮めた状態からいきなり伸ばして意表を突き、鋭い打撃を浴びせてくる。如意棒もびっくりのバリエーション豊かな攻撃を受け、次第にヒョウガは追い詰められていった。
幸運だったのは、「マジックハンドは元々打撃武器として設計されていない」ということだ。杖部分で殴られればそこそこ痛いが、マジックハンド部分で叩かれてもそこまでは響かない。……まあ当たり前のことだけど、特撮作品ではマジックハンドが打撃武器みたくなってダイカイガンしてるときもあるからね! 一応ね!
「吾輩の棒術、見せてやる!」
短く縮めた杖を、ワラカスフンドが手の中でくるりと回す。石突の方を前に向け、その状態で出し抜けに伸ばした。杖部分で思い切り突かれる。もちろん、痛い。
「どうだ、零騎士。吾輩が本気を出せば、ざっとこんなものだ。名誉挽回に燃える吾輩の、心の叫びを聞け!」
「……会長に取り入るのに必死だな、ワラカスフンド」
だいぶ押されているが、ヒョウガは平静を装って言った。
「お前はどうして虚無英雄会に入った? なぜ、人類に絶望した?」
尋問に協力できなかった分、少しでも敵から情報を引き出しておきたかった。あわよくば、ついでにグリイザの過去についても話してくれたりして。
「ふむ。吾輩は、他の連中とは少し違うのだよ。人間関係に苦しんだことがないわけでもないが、あくまでも『人並みに』苦しんだだけ。普通に生きていれば皆味わう不幸を味わったに過ぎない。それで思い詰めて、人類に絶望するほどでもなかった」
はたして、怪人は乗ってきた。
「ただ、吾輩の心はどうしようもなく乾いていた。人の生み出した文化や科学といった英知には強く心惹かれても、人間という生物そのものに興味を持ったことは一度もなかった。――やがて吾輩は、人を憎むようになった。自らが創造したものを平気で蔑ろにして破壊する、英知の価値すら知らぬ大馬鹿者どもをな!」
お前だって破壊してるじゃないか、と言いかけて、ヒョウガは台詞を呑み込んだ。先刻、街で破壊活動を行っていたときのワラカスフンドの表情は、悲しみをたたえていたからだ。
人を憎み、虚無英雄会に参加したまでは良かった。けれども彼は人類を滅ぼすために、自らが憎む人間と同じような、いやもっと酷いであろう行動を取らざるを得なかったのである――おそらくは、グリイザ会長の命令で。目的と矛盾する手段がジレンマになり、この男もこの男なりに悩み苦しんでいるのかもしれない。
「……そうかよ」
振り下ろされた杖の一撃を、零騎士の剣が静かに止めた。
慣れれば何のことはない。刃を杖の中央部、伸び縮みしない場所に一度軽く触れさせ、その後で相手の出方に応じて素早く刃を滑らせる。伸ばしてくるのならば、マジックハンド部へ向かって滑らせればガード可能。縮めてくるなら、逆側に動かせばいい。防御を二段階で行うことで、ヒョウガはワラカスフンドの攻撃に対応できるようになっていた。恐るべき順応速度である。
なぜ、これほどにまで的確に順応できたのか。それは、彼自身が異常に高い集中力を発揮したからだった。
淡々と告げる。
「大馬鹿者はお前だ、ワラカスフンド。大学を狙ってしまった時点で、お前は俺の逆鱗に触れている。怒りは俺の集中を研ぎ澄まし、ある種の『ゾーン』に突入させてくれる」
以前にも、ノン・プリシャスを撃破したときに同じ現象が起きた。卑劣にもサヤを狙う怪人に、零騎士の怒りが爆発したのである。サヤが事務仕事をしているはずの大学へ向けて進軍されて、ゾーンに入らない理屈がない。
「――俺が望みさえすれば、運命は絶えず俺に味方する」
『百合・パワー!』『BL・パワー!』『ノーマル・パワー!』『年上・パワー!』
長剣の柄に出現した四つのボタンを、ヒョウガが順番に押していく。黒い仮面の奥で、彼の目が冷たくワラカスフンドを睨んでいた。
「な、何をする気だ⁉ ……おいお前たち、やってしまえ!」
凄まじい殺気を感じ、機械であるはずのワラカスフンドの皮膚が泡立つ。慌てて、後方に控えていた怪人たちを零騎士へ襲いかからせた。その数、数十体。
「太陽が素晴らしいのは、塵さえも輝かせることだ」
『オール性癖・コンバイン!』『マキシマム・ゼロ・サイクロン!』
ゼロライアットをショットガンモードに変形させ、ヒョウガは銃口から竜巻上の巨大エネルギー波を撃ち出した。あまりの反動に、零騎士自身も数メートル後ろに吹き飛びかける。
直線上の敵を残さず殲滅するほどの威力。諸先輩方の力を少しずつ借りての強化必殺技だとはいえ、でたらめな破壊力だった。薔薇クラッシャー、薔薇ハッカーといった「薔薇」系の機械怪人――皆、頑丈な皮膚を持っていた――が、瞬時に爆発の中に消えてしまう。爆発の余波を受け、ワラカスフンドも無様に地面を転がった。