百合レンジャーvsBLレンジャー   作:クリスタルスカイ

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63 奇跡が生んだ勝機!

「家がこの近くで、全部見とったんよ」

 

 何でもないことのように、サヤはサラッと説明する。

 

「この近くって……」

 

 湾岸エリアにはタワマンが建ち並んでいる。お金持ちらしいとは聞いているが、まさかあの中のどれかに住んでいるのだろうか。

 呆然としているヒョウガに、彼女が凛として続ける。

 

「ヒョウガくんはうちが知らんところで、零騎士として頑張って戦ってくれとったんやもんね。今度は、うちがヒョウガくんを守る番よ!」

 

 

 長い歴史を誇る特撮ヒーローもので、いわゆる「正体バレ」回は盛り上がること必至である。百合・BLレンジャーが使っている原典の中にも、そういうのはちらほらある。しかし、「タワマンの高層階から戦いの一部始終を見られていたから正体バレした」などというしょうもない展開は前代未聞というか荒唐無稽というか、とにかく無茶苦茶である。

 

 普通はもっとこう、何やかんやで覚悟を決めたヒョウガが「サヤさん、今まで黙っててごめん。実は、俺……!」的な展開があるはずだ。サヤがヒョウガのために一生懸命だから、絵面的には(かろうじて)何とかなっているが。

 

 

「タイム! ターイム!」

 

 カイリが両手でアルファベットのTの形を作り、グリイザにタイムを求めた。

 

「お前ら虚無英雄会の真の目的が、人類滅亡だってことは承知だ。けど、それを世間に明かす段階は今じゃねえはずだろ。今は百合・BLレンジャーを悪役に仕立て上げ、倒して力を奪う段階のはずだ。ここで一般人を巻き込んで、近隣住民に英雄会の悪行を目撃されちまうのは、お前にとっても都合が悪いんじゃないか?」

「……一理あるね」

 

 はたして、初老の男は不本意ながらも応じてくれた。

 

 

「早く、その女性を離れた場所へ移しなさい。アイテムを奪うのはそれからです」

「やったぜ。まさか本当にタイム取ってくれるとは思わなかったけどな!」

 

 時間稼ぎに成功してウキウキのカイリは、しかしすぐにサヤを避難させるのではなく、ヒョウガの肩を抱いてひそひそ話を始めた。

 

「で、あのサヤって人、お前の彼女なのか??」

「いや、付き合ってはないんですけど」

 

 若干照れながら返すヒョウガ。良い雰囲気ではあるものの、なかなか関係が進展しない状態になっているのは認めざるを得ない。

 

 

「そうか、彼女か。おい皆、サヤさんを守れ!」

「先輩、話聞いてました⁉」

 

 途端にキビキビと指示を出し始めたカイリに、ヒョウガは戸惑っていた。すると先輩が、人差し指を立てて解説してくる。

 

「いいか、よく聞け。百合・BLレンジャーのメンバーには、基本的にまともな彼女ができない。やたらツッコミが多いAカップとか、研究熱心な変人リケジョとか、どいつもこいつも一癖も二癖もある。そんな中、あのサヤという女性は、歴代で一番正統派なヒロインなんだ。絶対に守るぞ! 決して絆を諦めるな!」

「「誰がAカップで変人じゃあーーっ⁉」」

 

 

 すかさずツカサと美明日のダブルパンチを受け、カイリはのけ反った。まあ、いつもの光景である。

 そんなコントも挟んでグダグダだったけれど、一同は「気持ちは嬉しいけど危険すぎるから」とサヤを庇い、後方に下がらせた。

 最後方で彼女を待っていたヒョウガが、照れくさそうに「サヤさん」と切り出す。

 

「今まで正体を隠していて、すみません。そして、ありがとうございます。俺のために駆けつけてくれて」

「ええんよ~。お礼を言わんといかんのは、うちの方やし」

 

 

 相変わらず癒される、にへら~という感じの笑顔を向けて彼女は言った。かと思えば、何かを決意したようにヒョウガへ歩み寄り、ぎゅっと抱きしめる。

 

「さ、サヤさん……?」

 

 ここまで直接的なスキンシップは初めてじゃないだろうか。彼女の柔らかさと温かさに、圧倒されそうになる。

 

「絶対勝ってな、ヒョウガくん。うち、ずっと応援しとるよ」

 

 刹那瞑目し、サヤは囁いた。体を離すと、恥ずかしそうに頬を赤く染める。

 

「……驚かせちゃったら、ごめんなあ。でも、これが今のうちにできる、精一杯のことやから」

 

 

「三文芝居はその辺にしてくれないかね」

 

 こめかみを押さえ、虚無怪人が百合・BLレンジャーへ向き直る。

 

「どこまでも愚かな連中だね。変身すらしていない状態で、何が守れる?」

 

「たとえ刀折れ矢尽きようとも、俺たちの闘志はまだ消えていない」とヒョウガが吠えた。サヤを背中に庇い、生身で長剣ゼロライアットを掲げる。

 

「この魂の全てを賭けて、サヤさんだけは守ってみせる!」

「馬鹿馬鹿しい……」

 

 

 グリイザの頭部が怪しく光る。また光線技か、と一同が身構えたとき、異変は起きた。不規則に揺らいでいたグリイザの肉体が、揺らがずはっきりと視認できたのだ。

 すぐにまた元に戻ったけれども、百合・BLレンジャーはその現象を見逃さなかった。

 

「もしかして……ほんの僅かだけど、彼の虚無の総量が減った⁉」

「きっとそうよ。サヤさんを守ろうとする私たちの姿に、何かを感じ取ったんだわ。だから虚無が減って、原典の力を百パーセント引き出せなくなったのよ!」

 

 ツカサの疑問に答えるかたちで、お菊が興奮気味に言った。

 

 

 ダレンの豊富な手札を持ってしても、傷一つつけることのできない強敵・グリイザ。絶体絶命のピンチに、実はタワマンに住んでいたサヤが駆けつける。

 彼女の介入により、英雄会会長に異変が生じた。サヤは肉体的には非力で、変身して戦うことはできないけれども、彼女の心の強さが奇跡を起こしたのだ。

 

 はたして、虚無英雄会に勝つことはできるのだろうか? 戦え、百合レンジャー! 負けるな、BLレンジャー! どんなに深い夜にあっても、やがて太陽は昇る! どんなに硬いつぼみでも、やがて花となって咲き誇るぞ!

 

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