「ねえ、ダレン。BLACON・SUNには私たちの留守を任せてあるのよね?」
「ああ。そのはずだ」
「つまり、今ゲートを開こうとしているのはBLACON・SUNではない?」
「ということになるな」
一体、誰が人間界に降り立とうとしているのか。皆が息を呑んで見守る中、ドアから現れたのは、黒い肌にドレッドヘアの、野性味も感じさせるが端正な顔立ちの男だった。
日焼けで黒くなっているのではなく、遺伝によるもの。おそらくこの超次元生命体は、黒人のモデルか何かの姿を模倣しているのだろう。
「よう」
はたして男は片手を挙げ、気さくに挨拶してきた。
ちなみに、話しているのはバリバリの日本語。超次元生命体にとって言語の習得は容易いのだと思われる。
「あなた、何者?」
「俺はクロードだ」
警戒心たっぷりのお菊の問いに、クロードはほとんど間を空けずに答えた。
「おっと、失礼。お前らが知りたいのは俺の名前というよりも、俺の立ち位置とかそういうアレだよな。オーケー、オーケー。俺は虚無英雄会の外部顧問として、これまで陰ながら彼らのバックアップをしてたんだ。これで満足か?」
「洋画の吹き替えみたいな喋り方ね……」
オーバーな身振り手振りを交え、おどけて冗長に話す様は何だか非現実的だった。フィクションの中から飛び出してきたみたいだ。山〇宏一さんっぽさもある。
『リボンダーマン、及び彼が変身するオーバーリボンズのデータは、外部顧問の協力で揃っている。君の使う技なんて、全て把握済みなんだよ!』
「リョウマと交戦したときから怪しいと思っていたけど、やっぱりバックには超次元生命体がいたようだね」
ピーターが顔をしかめた。
あのときリョウマは、ピーターが超次元界で一度使用したきりだった技をなぜか知っており、余裕で対処してきた。普通の人間が掴んでいるはずのない情報を得ていたのだ。
「イグザクトリー!」
大きく頷き、クロードは両手を広げる。
「君の目的は何だ? どうして虚無英雄会に味方している?」
「俺の目的はズバリ……中古の原典を大量に手に入れることさ!」
「えっ?」
「ん?」
ドヤ顔で言われても、ピーターにはピンと来なかった。大体、中古の原典って何なのだ。響きがなんかダサい。
「しょうがないベイビーだ、解説してやるぜ! いいか、『中古』ってのは、一度誰かが使ったってことだ。それに対して『新品』は、まだ誰も使っていない原典を指す!」
かなりのハイテンションで解説を始めたクロード。彼はダレン以上に空気を読めないようだ。
「ここでのポイントは、中古の原典は新品よりも少ない虚無の量で使えるってことだ! 俺の目的は、虚無英雄会に属する人間たちに新品の原典を提供し、使用者が無力化されたところで中古化された原典を回収すること。そうすれば、より少ない虚無でより多くの原典を扱えるからな!」
大変だったんだぜ、とドレッドヘアの黒人は額の汗を拭う素振りをしてみせた。
きっと彼は、超次元界で原典を見つけては人間界へ送ってを繰り返していたのだろう。あらゆる原典を司っていた無貌が倒されて以後は、原典を一つ調達するのにも困難を極めたはずだ。何というかお疲れ様である。
「そして俺は、集めた中古の原典の力で人間界を征服する! 全人類は俺にひれ伏し、俺の奴隷として一生を終えるのさ。イエーイ! ヒーハー!」
「ヒーハーじゃないよ。どうしてそんなことをするんだ⁉」
急に話の方向性が変わった気がして、ピーターはずっこけそうになりながら尋ねた。
「簡単なことさ、ベイビー」
クロードはどこからか煙草を取り出し、吸い始めた。
「ミスター・ダレンと同じく、俺は超次元界の貴族の生き残りでな。無貌やルーカスのせいで家族を皆殺しにされて、何もかも失っちまった。俺はずっと、復讐の機会を窺っていた」
「だから、僕が『ミステリー』のスタンプを使うところも見ていたっていうのかい? ルーカスと戦っている様子を観察しつつ、隙があれば自分がルーカスを仕留めるために?」
「ザッツ・ライト! ……だが、俺には圧倒的に力が足りなかった。強大な力と力がぶつかり合っている戦場に、ほとんど立ち入ることすらできず眺めるだけだった」
気だるげに煙を吐き出す。
「強くなるためには、どうしても強い原典が必要だった。それも、なるべくたくさんの種類が。ハウエバー、無貌やルーカス同様のやり方で強くなってはいけないとも思ったのさ。奴らは虚無の総量を増やした代償に、失ってはならないものを失っている。そうだろう?」
「まあ、確かにそうかもね」
クロードの主張は、暗にダレンを批判しているようでもあった。ゆえにピーターは肯定しきれない。
世間から忘れ去られることで虚無を増やしたという点で、ダレンはルーカスと似ている――意図的に忘れられようとしたのか、そうでないかという違いはあるけれども。
「俺は決めたんだよ、ミスター・ピーター。虚無の総量を増やす以外の方歩で強くなろうって。中古の原典を集めて集めて集めまくって、誰にも負けない力を手にしようってな。そして俺の手で世界を管理、掌握し、真の平和をもたらすのさ!」
煙草をポイ捨てし、ドレッドヘアの男は叫んだ。良い子は真似してはいけない。
「奴隷だの管理だの言っておいて、何が平和だよ。自由があってこその平和じゃないか」
もちろん、そんな主張が受け入れられるはずもなかった。
「も、もしかして……」
一方でカイリは、両手を震わせていた。
「俺が今までくどいくらいハードオンネタを擦っていたのは、実は、クロードが『中古』原典を集めていることに繋がる壮大な伏線だったのかーっ⁉」
「んなわけないでしょうがーっ!!」
すかさずツカサのツッコミが入った。
「何でもかんでも伏線扱いするオタクは、敬遠されるわよ。後付けの可能性も全然あるじゃない!」
「でも伏線ってことにした方が面白いだろ?」
「シャラップ、ベイビーたち。残念ながら俺はハードオンに全く興味がないぜ!」
いつも通りの言い争いにクロードが割って入り、バッサリ斬り捨てた。カイリは「信じられない」といった顔で彼を呆然と見ている。
「興味がねえ……だと? 今後十年は成長するだろうと予想されている、今まさに伸び盛りな中古市場に? さては人間じゃねえだろお前!」
「あんたは超次元生命体相手に何を言ってるのよ⁉ 尺の無駄だからちょっと黙ってなさいよ!!」
「ミス・ツカサの言う通りだ。さて、話を戻すぜ。俺の目的はこれで分かってくれたよな。で、なぜ今このタイミングで出てきたかだが……」
クロードの全身が、稲妻に包まれた。雷鳴轟く中から現れたのは、獅子の頭部に、虎柄の布を身につけた雷神のごとき真っ赤な肉体の戦士であった。長い角や爪も備えている。
「ミスター・グリイザ。俺はお前を助けに来たわけじゃない。キルするために来たのさ!」
召喚した七支刀の切っ先を、倒れている初老の男へ向けて言い放つ。
「他の英雄会メンバーの原典は全て回収した。あとはお前だけだ。制御できなくなっているその最強の怪獣の力を、お前を殺して完全に奪い去る!」
※次回の更新は1週間後の予定です。