「了解!」
通報があればいつでも駆けつけなければならないのが、ヒーローの辛いところだ。料理はまだ半分くらい残っていたけれど、急いで会計を済ませて三人は店を出た。告白したが玉砕、元気をなくしてしまったナオヤを引きずっていくのに苦労した。
(……あれっ?)
パトカーを運転して現場へ向かう道中、ツカサはふと思った。ケイイチロウはなぜ、彼女が「お取込み中」だと知っていたのだろう。「お前たちも早く現場に向かえ」と言っていたのも引っかかる。まさか、ツカサとナオヤがデートしていたという情報は、BL警察側にも伝わっていたのだろうか。
(そ、そんなわけないわよね!)
最悪の可能性も考えられたが、ツカサはなるべくそれに意識を向けないようにした。今は目の前の戦いに集中すべきだ、と自分に言い聞かせた。
SSソルジャーは国会議事堂を襲って国家機能を潰すつもりだったようだが、彼はまず、経済に打撃を与えるところから着手した。
手から伸びた機械の触手を振るい、エンダーは宝石店で暴れていた。ガラスケースを叩き割り、ネックレスなどの装飾品を次々に奪っていく。
「東京卍帝国の洗脳効果が薄れ始めている今では、同人誌の価格は下降する一方。ならば、こういった装飾品の方が、長期的に見れば一定以上の価値を保てるはず。それを根こそぎ奪い、人間たちに混乱と絶望を与えてやりましょう」
ダイヤモンドの指輪をつまみ上げ、エンダーはしげしげと眺めた。
「しかし、人間はなぜ、こんなちっぽけで脆いものに高い価値を認めているのやら。私にはよく分かりませんね」
「ちっぽけだからこそ、守らなきゃいけないのよ!」
ちょうどそのとき、百合&BLレンジャーが襲われた店の中へ突入した。エックスチューナーの銃口を向け、ツカサがエンダーを威嚇する。
「おや、これはこれは」
エンダーは指輪を無造作に放った。
「直接お会いするのは初めてですね。私は高次元生命体のエンダー。創る、形成するという意味のエンダーです。以後、お見知りおきを」
「いや、どういう意味だよ」
すかさずカイリがツッコんだ。高次元生命体はやることなすこと滅茶苦茶なので、ツッコむ側も大変である。
「前置きはこのくらいにしましょう。あなたたちとの戦いでお腹を壊し……いえ、ダメージを受けたため、マジェスティ・次元大魔王はお怒りです。彼に代わり、この私があなたたちを始末してあげましょう!」
宝石店の襲撃は、経済の麻痺よりもどちらかというとヒーローをおびき出すことを主目的に行われたようだ。懐から懐中電灯型のアイテムを取り出し、エンダーは不気味な笑みを浮かべながらそれを操作した。中央についた、大きなダイヤルのようなパーツをガチャガチャ音を立てて回転させる。
よく見ると、そのダイヤルには三種類の動物の絵が描かれていた。
「BLウルフさん。百合クロコダイルさん。ノーマルライノスさん。お待たせしました。闇の力、お借りします!」
エンダーの体が光に包まれたのち、黒、金、銀三色のアーマーを纏った戦士が現れた。
「……世界の王者! 『セイヘキ・ザ・ワールド』!」
誰に促されたわけでもなく、自分からちゃんと名乗ることも忘れなかった。それにしても、「ムラムラ」ほどではないにせよ、ひどい名前である。
「私にはもう、手ぶらでマジェスティの元へ戻る資格はない。今度こそ必ず、あなたたちの世界を終わらせます!」
そう言って、エンダーは再び懐中電灯型のアイテムのダイヤルを回した。やがてワニの絵のところで回転が止まると、黒のフェイスアーマーがバイザーのように上がり、その下から金色の別のアーマーが現れた。
虚空から出現した専用武器・セイヘキザガンロッドを手に、「セイヘキ・ザ・ワールド」ことエンダーは襲いかかってきた。
「怪盗チェンジ!」
「警察チェンジ!」
「『BLファイヤー』!」
対して、結集した七人の戦士たちも一斉射撃で迎え撃つ。が、ザワールドはロッドを巧みに振るって弾丸を防ぎ、突っ込んできた。
「『百合クロコダイル・セイヘキザフィニッシュ』!」
何やら必殺技の名前のようなものを叫び、ロッドを宝石店の床に打ちつける。刹那、ワニの姿を模したエネルギーが放たれ、ツカサたちへ激突した。七人は怯み、後ずさる。
「こいつ、ヤバいな。何でワニが百合なのかはさっぱり分かんねえけど、相当強いぞ」
呟いた百合エックス・カイリのアーマーからは、白煙が立ち昇っていた。
「当然ですよ」
さらにフォームチェンジを行い、セイヘキ・ザ・ワールドの顔部分のアーマーが銀色に変わる。新たに狼の力を宿したガンロッドを銃へ変形させ、エンダーは七人を狙った。
「マジェスティが私に授けた能力は、『相手の百合・BL・ノーマルに対する情熱が強ければ強いほど、自分の攻撃力が上がる』というもの。性癖への情熱を捨てない限り、あなたたちに勝ち目はありません!」
次元妖怪ムラムラと戦った際、大魔王は「ムラムラの力があれば、もう一度百合やBLのブームを起こせる」「人間は我々の介入なしにブームを起こすことなどできない。大人しく支配を受け入れろ」と甘い言葉を囁いてきた。一方、ツカサやカイリは「百合やBLを愛する情熱は、元々自分たちのものだ」「お前たちの介入は必要ない」と反論。大魔王の提案を退け、見事ムラムラを撃破したのだった。
おそらく、大魔王がセイヘキ・ザ・ワールドを差し向けたのは、前回の意趣返しの側面が強いのだろう。お前たちの百合やBLへの情熱を逆利用してやる、というわけである。
なお、「ノーマル」とは、百合やBLではなく男女の恋愛という意味だろう。
「ちなみに、ワニが百合である理由は、百合の間に挟まる男を噛み砕くためです」
親切にも、エンダーはカイリの質問に答えてあげた。
「説明になってねえよ。なら、狼がBLなのは?」
「子供の頃、母親に教えてもらいませんでしたか? 男は狼だと。……『百合ウルフ・セイヘキザバースト』!」
「うわっ!」
「きゃあっ!」
続けて、ガンロッドから狼を模した光弾を放つ。あまりの破壊力に、七人はガラスを突き破って店の外まで吹っ飛ばされた。
「……一体、どうしたらいいの?」
うつ伏せに倒れたまま、BLエックス・ツカサが呻く。
「あたしたちの中に百合やBLへの情熱が宿っている限り、あいつの攻撃力は上がり続けるってことでしょ? 倒すためには、その情熱を捨てろってことなのかしら」
「できるわけないだろ、そんなこと」
瓦礫を挟んで、彼女の隣に横たわったカイリが返す。
「大魔王め、本当にいい性格してるな。前回は、敗北して百合・BLをブーム続行するか、勝利してブーム終了するかの二択。今回も、敗北して情熱を持ち続けるか、勝利して情熱を捨てるかの二択を押しつけられたわけだ」
なかなかにいやらしい精神攻撃だ。勝っても負けても、相手にダメージを与えられる作戦というわけか。
今回、ご迷惑をおかけした作品
・仮面ライダービルド
・ウルトラマンオーブ