視界の端には、地面に突っ伏してすすり泣いている初老の男の姿がある。その傍らには、雷神のごとき外見の怪人が勝ち誇っている。
先刻、グリイザを精神的に苛め抜いていた様子からしても、クロードの性根が相当腐っているのは明らかだ。英雄会を裏切って単独で世界征服を目論む輩を、野放しにはしておけない。というか、そもそもこいつがいなければ、英雄会が原典の入手経路を確立し、騒動を起こすこともなかったのである。
「久々にあれで行くわよ、カイリ。クロードを止める!」
「任せろ!」
「「デュアル・百合&BL・ウェーブ!」」
金銀のアーマーの上に、フリルが付いた白と黒の衣装を重ね着。百合ブラックとBLホワイトに強化変身した二人は、さっそく必殺技でクロードをぶっ飛ばそうとした。
「百合とBLの、美しき魂が!」
「邪悪な心を、打ち砕く!」
「「百合&BL・マーブルスクリュー‼」」
手と手を繋ぎ、もう片方の手に白と黒の稲妻を集める。螺旋状に融合しながら撃ち出された一撃が、クロード怪人態へと迫った。
「俺たちも行くぞ!」
「磨き上げれば、オーラは無限!」
「全力集中、推し推しカノン!」
「ファイア~!」
ケイイチロウ、サクヤ、トウマ、ウミカの四人で、小型飛行機型バズーカを召喚して構える。そこから光を帯びたエネルギー弾が発射された。
「こんな終盤オブ終盤にラスボスがのこのこ出てくるとは、飛んで火にいる何とやらだぜ。――『珈珈弾』!」
『ネトルティ・パーフェクトフィナーレ!』
「『零の撃弾』!」
珈琲サイブレードを召喚して茶色の光弾を飛ばす裕介と、ネトルティ来部へ変身してビーム技を繰り出す美明日。零騎士ヒョウガも稲妻を帯びた弾丸を浴びせかけ、一同は遠距離攻撃をクロードへ連続でヒットさせた。たちまち、怪人は爆発に呑まれる。
「……オーケー、戦隊たち。ここからが真骨頂だぜ!」
しかし、彼は余裕だった。
爆炎の中から出てきたとき、獅子に似た頭部が割れて素顔が覗いている。もしや、あれは怪人に変身するタイプの原典ではなく、「怪人のような見た目の鎧を纏う」タイプの原典だたのだろうか。
「零騎士ブルブラックが倒れてミスター・ヒョウガがその意志を継いだように、俺の原典は二段階の変身が可能だ。アーユーレディ?」
「俺の最初の戦いのことも知っているのか⁉ めちゃくちゃ情報通だな……」
「ヒョウガくん、最初の戦いって? ブルブラックっていうのは誰なん??」
「ええと、話すと長くなるんですけど」
サヤに話しかけられ、零騎士がしどろもどろになっているのはさておき、クロードは二回目の変身を開始した。内側から弾き飛ばすようにして鎧を脱ぎ捨てると、彼はなぜか侍のような和服姿になっている。片手には、プテラノドンの頭部に似た籠手型変身アイテムが。
「ブレイブ、イン!」
電池型アイテムを籠手に装填し、謎のフレーズを口にする。
「いざ、尋常に。『超竜チェンジ』!」
どこからか三味線の軽快な音が鳴り響き、クロードはリズムに乗って踊った。やがて「ファイヤー!」と叫び、籠手型アイテムのトリガーから指を離す。光に包まれ、彼はプテラノドンモチーフの金色の戦士へと変わった。胸部のアーマーには稲妻の紋様がある。
「ルーカスは金色の追加戦士の原典を使っていたっけな。俺も少し参考にさせてもらった。その名も……雷鳴の勇者。『キョウリュウクロード』!」
ポーズとともに名乗りを上げていく。
「天、怒りて悪を斬る。荒れるでござる。止めてみよ!」
言うが早いか、キョウリュウクロードは背中の羽を展開した。翼竜のものを模した翼で自在に空を舞い、百合・BLレンジャーを翻弄する。
「『クロード砲・乱れ撃ち』! さらに、『クロード飛翔斬り』!」
空中から、籠手型アイテムを操作してビームを連射。怯んだところに降下し、籠手に付いた短い刃で斬りつけていく。
「まだまだ行くぜ。『クロードフィニッシュ・雷電残光』!」
プテラノドンの嘴を模した長剣を召喚し、それに電池型のアイテムを三本セット。雷を帯びた斬撃が放たれた。どういうわけか、斬撃が「CLAUDE! YEAH!」という英語の文字の形をしている。
「……やりづらいな」
グリイザと違い、クロードにはサヤに攻撃しない理由がない。長剣で攻撃を弾き、サヤを守りながらヒョウガは呟いた。
「一撃一撃の威力がずば抜けているわけではないけど、機動力が高すぎる。これだけの人数を相手に一歩も引かないなんて、只者じゃない」
「オフコース! この原典も英雄会の下っ端に貸していたやつなんだが、中古だと使い勝手が良いぜ。ハハッ、蹂躙するってのは気持ちいいよなあ?」
「――調子に乗らないで。空を飛べるのは、何もあなただけじゃないわ!」
高く飛び上がったネトルティ来部が、クロードへ突進。すれ違いざまにNTRブレードで斬りつけた。
「『BANG・解』。『大紅蓮NTR丸』!」
攻撃と同時に、氷結の効果も発動したらしい。斬られた脇腹のアーマーが、パキパキと音を立てて凍りついた。キョウリュウクロードの飛行速度が、少し鈍る。
「オー、マイ! なかなかやるな。バット、俺の使える原典はこれ以外にもたくさんあるぜ」
ふとグリイザを一瞥し、彼は仮面の下で意地悪な笑みを浮かべた。
「滑稽だな、ミスター・グリイザ。別に世の中に絶望していなくたって、原典は扱えるんだぜ。新品にこだわらず、中古で集めればな。お前ら虚無英雄会が死ぬほど苦しんで虚無を得てきた時間は、俺に言わせれば全部無駄なんだよ。ウェイスト・オブ・タイムだぜ!」
「……なんかこの展開、既視感あるのよね」
ツカサがカイリに囁いた。
「ダレンと戦ったときのこと、覚えてる? 彼もクロード同様に色んな原典を司っていたけど、性癖の能力が明かされたのは最後の最後だったわ」
「クロードの野郎も、まだ切り札を隠してる可能性があるってことか」
「ええ。警戒すべきだわ」
「意外としょうもない性癖かもしれねえけどな?」
何だか、先行きが分からなくなってきた。