零騎士ヒョウガに、強化フォームはない。基本形態のままで様々な技を繰り出せる一方、派生フォームは特に持っていない。それは今までの戦闘でも明らかだった。
「ホワイ? 通常なら、強化フォームを持たない零騎士は変身解除するレベルまで弱っていてもおかしくないはず。なのに、なぜ姿が変わらない⁉」
あの鎧が超次元界由来のものだから、装着しているヒョウガも「年下好き」の影響を受けにくくなっているとか? いや、さすがにそれはないか、とクロードは考え直した。そんなことを言い出したら、超次元生命体が作ったドライバーを使用しているピーターはどうなる。彼だけ変身解除されて、零騎士は無事なのはおかしい。
「そ、そうか分かったぞ。デバフがかかってはいるが、目に見える形で表れてはいないんだろ? さっきリボンズがリボンミックスできなくなっていたように、『零のたてがみ』とかの派生技が使えなくなっているんだろ⁉」
「『零のたてがみ』」
「ぐあああああ~っ⁉」
仮説を並べ立てながら零騎士へ詰め寄ったクロードは、焦りと興奮で隙だらけだった。ヒョウガの手からいきなり放たれた火炎を避けることもできず、熱い熱いと悲鳴を上げている。
「ふ、不意打ちとは卑怯な奴だぜ」
やっとのことで顔についた火を消し飛ばし、武神ソードは荒い息を吐いた。
「まさか、派生技も普通に使えるとは。全くデバフを受けていないように見えるな」
「せやで、ヒョウガくん。何でヒョウガくんにはデバフが効かへんの?」
黒い鎧の背中に隠れたまま、サヤが無邪気に尋ねる。彼女の言葉に、青年は逡巡を見せた。
「よく分かりませんけど、たぶん……俺が『年下』よりも『年上』が好きだからです。『年上好き』の性癖の力が、『年下好き』のデバフ効果を打ち消したんじゃないでしょうか」
ややあって、絞り出すように言う。
「……! それって、どういう意味なん?」
いつもは狐みたいに細いサヤの目が、大きく見開かれた。心なしか頬も火照っている。
意を決して、ヒョウガは振り向いた。華奢な彼女の肩に手を置き、頭部の鎧だけ装着を解除。心臓が早鐘を打っているのを感じつつ、口を開く。
「この際、思い切って言います。サヤさん。俺は、あなたのことが好きです」
おおっ、とツカサたちからどよめきが漏れた。クロードは「ヘイ! ラスボスが目の前にいるんだぞ! 俺を無視して告白イベント発生とはどういうつもりだ!」と怒っていたが、うるさいのでスルーして続ける。
「誤解のないように補足すると、サヤさんが年上だから好きなんじゃない。サヤさんだから好きなんです。あなたの優しさと笑顔が、俺を支えてくれた。苦しい戦いの中でも、ずっと」
「ヒョウガくん……」
サヤの顔は真っ赤だった。恥じらうように俯き、それから、満開の桜のように美しい笑顔で答える。
「ありがとう。……うちも、好きやで? ヒョウガくんのこと。こんなにかっこよくて可愛いナイト様なんて、他におらへんもん」
六角形の結晶体が埋め込まれた鎧の胸部に、サヤは真正面から飛び込んだ。目を細め、ぎゅっと抱きしめる。
「うちも精一杯ヒョウガくんのこと支えるから、ヒョウガくんもうちのこと助けてな?」
「は、はい! もちろんです!」
どぎまぎしている青年を見上げ、サヤは「ほんまに可愛いわあ」と、いつものにへら~とした笑みを向けた。
「……貴様の相手は私だ」
若い二人の恋路を邪魔させるわけにはいかない。ダレンマジェスティはクロードに突進し、ヒョウガとサヤから引き離した。
「恋に落ちている男女の間に割り込むとは、無粋なこと極まりない。最終回で結婚式を挙げた戦士の力で相手しよう」
どういうギミックなのか、マジェスティの口元のアーマーから携帯電話型の銃が分離した。テンキーを素早く押すと「ラ・イ・ジ・ン・グ」と音声が流れ、アーマーが弾け飛ぶようにしてフォームチェンジする。胸部に太陽の意匠を持った、聖職者モチーフで青と金と白の戦士に変身した。
「貴様の命、神に返しなさい!」
「黙れ。死ぬのはお前だぜ、ダレン!」
ライジングダレンとでも言うべき形態もまた、専用武器「ダレンカリバー」を召喚。銃と剣を構え、武神ソードと戦い始めた。
「あたしたちも行くわよ!」
「基本フォームだって、できることはあるはずだぜ!」
百合・BLレンジャーもダレンに加勢した。お菊も続こうとしたが、あることを思い出して足を止めた。熱く抱き合っている二人に、そっと囁く。
「邪魔してごめんなさい。けど、良いニュースがあったからどうしても伝えておきたくて」
「えっ?」
困惑した表情のヒョウガへ、お菊は微笑んだ。
「これは推測だけれど、『年上好き』性癖の能力はデバフ無効化じゃないわ。もっとすごいものよ」
「覚えてる? あなたが初めて零騎士として戦ったときのこと」
「ブルブラックさんの意志を継いだときですよね?」
「ええ。実を言うと私、あなたがブラッコを倒せるとは思っていなかったの」
別に見くびってたとかそういうのではなくてね、と付け足すお菊。
「だって、元無貌支持派の第二位だったダレンと私が、二人がかりで挑んでも倒せなかった相手だったのよ。しかも、初代零騎士ブルブラックでも歯が立たなかった。装着者が交代しただけで圧倒できちゃうなんて、よく考えると変よね」
「……ええと、つまり?」
「『年上好き』性癖の能力は、『年下好き』とは真逆の性質のものなんじゃないかしら。相手が自分より年上である場合、年齢差に応じて自らの攻撃力・防御力をアップさせるのよ。これなら、ブラッコに勝てたのも説明がつくでしょ?」
ブラッコに勝利し、逆に虚無英雄会相手には人並みに苦戦したのは、相手が超次元生命体か否かの違いがあったからだ。超次元生命体であれば年齢差が大きくなるのは必然だが、同じ人間ならそうはいかない。初老のグリイザが相手ならそこそこパワーアップできていたのかもしれないけれど、残念ながら攻撃自体が当たらなかった。
「なるほど。合点がいきました」
頷き、ヒョウガは再び頭部を鎧で覆った。
「お菊さんは、俺の『年上好き』のバフが、クロードの『年下好き』のデバフを相殺したんだと考えているんですね?」
「相殺するどころか、むしろ上回っているのかも」
青年の全身から滲み出る強者のオーラとでも言うべきものを感じ、お菊は言う。
「今のあなたには、性癖的にも性格的にも相性ばっちりな、サヤさんというパートナーがいる。でも、ルーカスに家族を殺され、復讐のために孤独に生きてきたクロードは、性癖はあってもそれをぶつけられる相手がいない。あなたの『年上好き』への情熱は、彼の『年下好き』に対する情熱を上回っているはずよ。自信を持ちなさい」
相反する性癖の使い手同士が激突したとき、勝つのはより情熱が強い方である。ちなみに、記憶操作を受けていた時期の百合レンジャーとBLレンジャーが互角に戦っていたのは、彼らの性癖への情熱もまた互角だったからだ。
「……分かりました」
いってらっしゃい、とサヤに優しく背中を押されながら、長剣を構えた戦士は戦場へ戻る。
「今この場で、クロードのデバフの影響を全く受けていないのは俺だけです。だから、俺が突破口を開きます!」