宴もたけなわといったところで、ツカサが「ここで、ダレンとお菊さんにプレゼントがあります!」と席から立ち上がった。カイリとともに、用意していたリボン付きの箱を二つ取り出す。
ダレンとお菊以外の全員で少しずつお金を出し合って、餞別として渡そうと計画していた品である。なお、準備段階ではサヤが「そのくらい、うちが全部払っとくわあ」としれっと万札を何枚も出そうとしたので、ヒョウガが慌てて止めていた。
「これは何だ」
「え、ありがとう。頂いちゃって良いの?」
プレゼントは完全にサプライズで渡されたので、ダレンもお菊もびっくりしている。
「いつだったか、戦いが終わったら服を買いに行こうって話が出てたろ」とカイリ。
『俺が虚無英雄会の野郎に決定打を与えたら、オンハウスに行ってもらう!』
あのときは、「同じ金額で服を買うならウニクロで新品を買うか、オンハウスで古着を買うか」というテーマで論争になった。論争中にワラカスフンドが街で暴れ出したので、一旦は前述のカイリの台詞でお開きになっている。
ワラカスフンド相手には善戦したものの、直後にグリイザが乱入したせいで皆こてんぱんにやられてしまった。で、「決定打を与えたかどうか」はうやむやになり、新品オア古着論争自体も自然消滅しかかっていたのである。そんなだいぶ昔の伏線を、カイリはようやく回収しようとしていた。
「グリイザもクロードもなかなか面倒な奴らだったが、皆、本当によく頑張ってくれた。決定打は全員で与えたと言っても過言じゃないぜ! ……てなわけで、もう新品だとか古着だとか関係ねえ! 純粋に、俺たちが二人にすげえ似合いそうだなと思った良さげな服を送っちゃうぜ!」
「いや、だいぶ雑に伏線回収したわね。力技すぎない⁉」
お菊にツッコまれても気にせず、カイリはダレンに「ほら、開けてみろよ」と促した。包装と蓋を外して中を覗くと、ダークブラウンのジャケットが一着入っている。
「そいつは古着だが、いわゆるヴィンテージものだ。似合うと思うぜ」
「これは……」
『ダレン様、これを』
今は亡き妻エリザベスから、これとよく似たデザインの上着を贈られたことがあったのを、顔に傷を持つ男は思い出す。
風の強い日のことだった。超次元界の街へ買い物に出かけた帰り道で、不意に手渡された。
『市場で売られているのを見かけて、思わず買ってしまいました。きっと、貴方に似合うと思いましたから。いかがですか?』
美しい金髪を風になびかせ、エリザベスが儚げに微笑んでいたのを今でも覚えている。
嬉しいときも楽しいときも、どこか悲しそうに、寂しそうに笑う女性だった。とても控えめで大人しい性格で、自分の幸せより他人の幸せを常に優先して生きているような妻だった。
己の理想の愛のために世界の全てを壊そうとした男、ルーカス。彼のせいでエリザベスは命を落とし、ダレンは家族も仲間も、一度は全て失った。
だが、心を閉ざした復讐の鬼と化した自分に、百合・BLレンジャーは手を差し伸べてくれた。やり直すチャンスを与えてくれた。エリザベスがくれた愛情の証と同様の、友情の証を自分に贈ってくれた。
「――ありがとう」
涙で視界が滲んだのを誤魔化すように、ダレンは深々と頭を下げた。
「妻が生き返ることはないが、私は新たな友を得た。私が彼女の死後に生きてきた時間は、決して復讐だけではなかったのだな。今、それを改めて実感した」
「うわあ、本当に良いの⁉ こんなに素敵なの貰っても!」
お菊もお菊で、ツカサから新品の赤いワンピースを贈られて舞い上がっている。
恋人の原典無しを亡くして以来、彼女は超次元界に平和を取り戻すため、レジスタンス組織の中心メンバーとして戦い続けてきた。もしかしたら、いつも和服だったのはお洒落に気を遣う時間が確保できなかったからなのかもしれない。
今後も超次元界での環境保護は必要だろうし、また悪い奴らが出てこないとも限らない。けれど、たまには羽を伸ばしてほしい。そんな想いを込めて選んだ服だった。
「えー、ゴホン。それでは、超次元界へ旅立つ二人へ向け、僭越ながら励ましの言葉を送らせていただきたく……」
ナオヤも立ち上がり、予定通り送別会を進行しようとしたときだった。予期せぬイレギュラーが、居酒屋へ駆け込んできたのである。
「父上~~! 母上~~!」
桃色の髪の若い女性が、息せき切ってツカサたちのいるテーブルへ走ってきた。ぜえぜえはあはあと呼吸を整えてから、再び話し始める。
「私よ、父上、母上! 会いたかった!」
「誰だよ、お前? 俺にこんな大きな娘はいないぜ……って、待てよ、もしかして」
眉をひそめたカイリだったが、次の瞬間、大きく目を見開いた。
「ムーヴォよ、ムーヴォ。二十二年後の未来から来た、父上と母上の娘よ!」
「ええっ⁉」
ツカサは素っ頓狂な声を上げた。