百合レンジャーvsBLレンジャー   作:クリスタルスカイ

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15 転売ヤーとの戦い?(後編)

「これ買います。こっちキャンセルで」

 

 今日も今日とて、俺は中古屋のレジで転売ヤー相手に接客していた。太った中年の男はデジカメを二つ状態確認して、うち一つを購入することに決めたらしい。

 

「はーい」

 

 気だるげに返事して、俺は買わなかったほうのデジカメを売り場に戻した。良かったな、デジカメくん。お前はあの悪い大人に買われずに済んだんだ。ちょっとだけ高めの売価設定にしておいて正解だったぜ。

 

 

 男はデジカメとオーディオ機器、それから家電をいくつか買うと、足早に退店していった。きっと次の仕入れ先へ向かうのだろう。

 

(……何でこう、転売ヤーって冴えない中年オヤジばっかりなんだろうな。普通にサラリーマンとしてやっていけなくなって、脱サラ&まあまあ最悪な転職した組か?)

 

 せめて女性、それも美人なお姉さんが転売しているのなら、接客していて楽しいだろうになあ。そんな煩悩まみれでレジを売っていた俺の視界に、刹那、信じられないものが映った。

 

 

「これと、これと、これとこれと」

 

 レジカウンターへ、次々に商品を置いていく。その多くは小型家電だった。うちは家電はあまり専門的に扱っていないので、相場より少し安めの値段にしている。そこを狙い撃ちしてきた。なかなか手練れの転売ヤーである。

 

「それと、これとこれ。あと、これとこれと、これも買いますっ♡」

 

 いやめちゃくちゃ美人なお姉さん来たな。何なら、思わずダイカイガンしてバッチリ二度見しちゃったまである。俺のハートが一発闘魂してブーストし、グレイトフルで無限なパワーが溢れ出したように感じた。

 

 

 女性にしては結構な高身長。たぶん、一六〇センチ後半はあるだろう。狐みたく細くてキュートな目と、ゆるくカールした毛先が印象的だ。そして、スタイルもかなり良い。服の上からでも分かる。

 イントネーションが若干関西っぽいのは気のせいだろうか。まあ、俺九州出身だし、関西弁を生で聞いたことはほとんどないんだけどね!

 

 

「は、はいっ」

 

 思わず声が上ずりそうになった。ヤバいな、世界は広かった。こんなに綺麗な人が転売ヤーなんかやっているのか。一体、どういう事情があって転売ヤーになろうと思ったんだろう。年齢は俺とそう変わらなくて全然若いし、雇ってくれそうな会社もたくさんありそうなのに。

 これほどの美貌の持ち主、しかも転売ヤーがうちの店に来店したことは、今までに一度もない。何とかしてこの人に「良い店だな」と感じてもらって、また来てもらえないものだろうか。俺は強くそう思った。もう、中年男性の転売ヤーばかり相手にするのに飽き飽きしていたのだ。

 

 

『良いか? 女ってのはな、解決策を求めるために「最近こんなことがあったの」的な話をするんじゃねえ。ただ話を聞いてもらいたい、そういう生き物なのさ』

 

 思い出せ。大学時代、バイト先にいたチャラそうな先輩の名言(?)を。女性の扱いに長けた先輩の一挙手一投足から、学べるだけ学ぶんだ。

 

『だから男は、女相手に自分の話ばかりベラベラしちゃ駄目だぜ。基本的には、まず女に喋らせて、それに相槌を打ったり質問したりして、深掘りしていく。そうするとかなりスムーズに会話が続くし、女も「話を聞いてもらえた!」と感じて満足するからウィンウィンだ。俺はこの方法で五人の女を』

 

 クソッ、割とどうでもいいところまで思い出してしまった。個人的に、人数自慢をする男って大体ヤバい奴だと思います。能ある鷹は爪を隠すんだよ。

 

 

 とにかく、相手から話を聞き出すのがコミュニケーションの鍵だということは頭に入った。が、その頃には既に、商品をレジ袋に詰め終わっていた。狐っぽくて美人な転売ヤーと話す機会があと僅かだと悟った俺は、焦りからか、めちゃくちゃなことを口走ってしまった。

 

「あの……転売とかってされてるんすか?」

 

 うわ、我ながら最悪。さっきのバイト先の先輩よりもひどいまである。確かに相手から話を引き出すのは一つのテクニックかもしれないけど、普通に失礼な質問をしてまで相手に話させるのはナシだろ。

 はたして女性は、ちょっとびっくりしたように目を軽く見開き、それから困ったように微笑みを浮かべた――元々目が細い人だから。言うほど見開いたわけではなかったけれど。

 

 

「うーんと。OL? でもあるし、自営業でもあるんよ~」

 

 小首を傾げ、律義に答えてくれる。正社員として働きつつ、副業として転売を選んだらしい。なかなかに手堅い。

 てか、俺みたいに人生設計ミスった弱者男性にも優しいなんて、女神なの? 神が降臨したの? 

 

「ありがとな~。また来るわあ」

 

 

 てな感じで呆然としている俺を置き去りに、女神は商品を山と抱え、にこやかに退店してしまった。香水の残り香が、鼻を僅かに刺激した。まるで、嵐が過ぎ去って朝が来る場所のようだ。何も変わらないほど穏やかだけれど、何かが始まっているラウンドゼロ状態である。

 

(……働く理由、一つ増えちまったな)

 

 正直嫌なことも多い仕事だが、あの女性転売ヤーが定期的に来てくれるのであれば、モチベも上がるというものだ。

 

 

 ネオ超次元生命体を百合・BLレンジャーが撃退し、お菊とダレンが超次元界へ帰ってから一か月が経った。

 

「どうしたんです、サヤさん? この山のような家電製品は……」

 

 ヒョウガとサヤが交際を始めてからも、今日でちょうど一か月。「一か月記念だし」とサヤから自宅に招かれ、ヒョウガは緊張した面持ちで彼女の住むタワマンの一室へやって来ていた。

 

「中古で買うとすごいお得やって、カイリさんに教えてもろたんよ~」

 

 玄関ドアを開けた途端に目に入った家電たちに、彼は困惑している。サヤが得意げに説明してあげた。

 

 

「ヒョウガくん、知っとる? 中古品の相場って、新品の半額以下であることが多いんよ」

「でも、安いのには理由があったりとかするんじゃ?」

「それが、そうでもないんよ~。うちが買ってきたのは未開封の、ほぼ新品の家電ばかりやし。新品同然なのに定価の半額で売ってたから、思わずたくさん買っちゃったわあ」

「……何のために?」

 

 女性の一人暮らしに、これほど多くの家電が必要なのだろうか。釈然としないヒョウガの顔を覗き込み、サヤは悪戯っぽく微笑した。

 

 

「いつか、ヒョウガくんと一緒に住みたいなあ思て♡」

「そ、そんな。まだ付き合って一か月なのに、気が早いですよ」

 

 と言いつつも、顔は真っ赤な青年だった。サヤがコーヒーメーカーの箱を手に取って「うちと一緒に、夜明けのコーヒー飲もな?♡」なんて囁くものだから、ますます赤くなる。

 あの中古屋の店員は何か勘違いしていたようだけれど、別に転売目的で買ったわけではなかった。

 

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