一通り恋人をからかって満足したのか、サヤはヒョウガをリビングへ案内した。さすがタワマン、部屋の一つ一つが広い。大きくてふかふかのソファ、五十インチはあるだろう大画面のテレビ、本棚などが適度に間隔を開けて配置されている。
中古屋の店員相手に「OLでもあるし自営業でもある」と言ったのも、嘘ではない。彼女はヒョウガの紹介で大学の事務職をする一方、亡くなった夫の財産を相続した資産家でもあるのだ。
「そういえば、カイリさんたちに中古品について教えてもらったとき、今までの戦いについても教えてもらったんよ」
ソファに並んで座り、サヤは思い出したように言った。
虚無英雄会が出現した辺りから戦士になったヒョウガは、それ以前、ルーカスが引き起こした一連の激闘について詳しくない。サヤに至ってはもっと詳しくない。ニュースで報道されている、ごく限られた情報しか知らないレベルだ。「今じゃサヤさんも戦隊の一員みたいなものだし」と、ツカサらが色々教えてくれたのである。
その教えてもらった話を、今度はサヤがヒョウガにも伝えた。
要約すると、すべては「他殺願望」という性癖に取りつかれたルーカスという超次元生命体が始めたことだったのだ。己の性癖を満たすためだけに、彼は大勢の命を奪ってきた。
「……悪魔みたいな奴ですね」
聞き終えて、ヒョウガは呟いた。
「せやなあ」
サヤも頷き、不意に恋人を見つめる。
「なあ。ヒョウガくんは、うちにしてほしいプレイとかあったら遠慮せんと言うてな? こじらせて、ルーカスみたいになってもあかんし」
「プ、プレイだなんて、そんな。俺はただ、サヤさんといられるだけで幸せです。多くは望みませんよ」
「ヒョウガくん……」
照れて頭を掻く青年と、彼の言葉に胸の奥がキュンとして、頬を染めている美女。二人はなかなかお似合いだった。
『速報です』
そのとき、テレビが告げるニュースが恋人たちの幸せな時間に割って入った。
『「BLフィーバーJ」と名乗る五人組が、都心で出現したとの情報が入りました。警察によると、名前にBLと付いているもののBL警察とは無関係、全く知らない戦隊だということです』
二人は顔を見合わせる。
「事件ですね」
「事件やなあ」
五分後、サヤの運転する高級車の助手席に乗せてもらい、ヒョウガは現場へ向かった。
「BL・ジャパン!」
「BL・コサック!」
「BL・フランス!」
「BL・ケニア!」
「ミス・BL・アメリカ!」
それぞれ赤、橙、青、黒、ピンクの仮面とスーツを装着し、冠した国名に関連した踊りを踊るようにして名乗りを上げる。たとえばジャパンは日本の格闘技風だし、アメリカはディスコ風だ。国際色豊かな五人である。よく見ると、スーツの配色やデザインも、各々の国の国旗をイメージしているようだった。
「「BLフィーバー・J!!」」
声を合わせて叫び、五人の戦士は摩天楼から地上へ、傷一つ負わずに飛び降りた。
「待て!」
そこへ、一台の高級外車が走ってきた。BLフィーバーJの前で急停止し、助手席からヒョウガが下りる。素早く「騎士転生」と唱え、零騎士の姿へ変わった。
「お前たちは何者だ。目的は何だ!」
「虚無英雄会の残党、ってところさ」
リーダーらしいBLジャパンが一歩前に出て、答える。
「元役員のワラカスフンド様が、百合・BLレンジャーを研究していたのは覚えているか? あのお方は、マシンへ人工的にBL、すなわち『薔薇』性癖を植え付けることに成功した。その技術を応用し、装着する戦闘用スーツへBL性癖を埋め込むことによって、我々は『BLフィーバーJ』へ変身できるようになったのだ!」
英雄会が所持していた原典はすべて、一度クロードに回収されたはずだ。が、彼の死後、所有者のいなくなった原典たちが自由になったことは容易に想像できる。そのうちの一つと、ワラカスフンドの遺産を使い、残党たちが懲りずに再結集したということか。
「そして我らの目的は、虚無英雄会の復活!」
BLコサックが続けた。
「一月ほど前、ネオ超次元生命体なるものが現れた。彼らが結局どういう存在だったのかはよく分からないが、確かなのは、二十二年後の未来でも超次元界は発展を続けているということ。我々が百合・BLレンジャーを圧倒する様子を超次元生命体に見ていただければ、彼らはいつの日か必ず接触してくるだろう。そして再び原典の力を供給していただき、英雄会は復活を遂げるのだ!」
「……まだ分からないのか」
黒と金の鎧に身を包んだ青年は、ため息をついた。
「お前たちの組織が上手くいかなかった一番の要因は、戦力を外部委託してしまったことだ。原典の供給を超次元生命体に依存していたから、クロードのようなずる賢い奴に利用されたんじゃないのか」
「な、何だと⁉」
BLケニアが動揺を露わにする。
「お前たちのような悪に、俺たち百合・BLレンジャーは絶対に負けない。――それに、あの未来だって変えてみせるさ。今も超次元界では、お菊さんやダレンさん、レジスタンスの皆が頑張ってくれているんだ。荒廃した世界を、元に戻すためにな!」
「小賢しい。私たちが倒してやるわ!」
ミス・BL・アメリカが憤りを見せたのを合図にしたかのように、五人は一斉に零騎士へ襲い掛かった。各国のダンスや武術を使った変則的な攻撃の数々に、ヒョウガは面食らう。
(一対一ならともかく、五対一でこれをさばき切るのは正直キツいな……)
BLフランスのフェンシング攻撃を長剣で防いだ直後、コサックとケニアの蹴りを喰らう。よろめいた零騎士の胸部に、BLジャパンが空手に似た素早い打撃を見舞った。さらに、アメリカも、小型ナイフを手裏剣のように投げつけてくる。
(このままではまずい)
銃形態にしたゼロライアットでナイフを正確に撃ち落としながら、ヒョウガはしばし考えた。五人の連携は非常に優れている。こちらが「マキシマム・ゼロ・サイクロン」などの大技を出す隙を与えてくれないし、この激しい攻防の中では、先輩方に連絡を取るのも難しい。
ふと、先刻サヤから聞いたルーカスの話が頭をよぎった。彼は対ダレン戦で、怪獣の原典を使うと見せかけて「サウザー」でダレンの力を奪ってのけたという。原典にそんな使い方もあるのかと感心したものだった。
今回、ご迷惑をおかけした作品
・バトルフィーバーJ
※次回の更新は1週間後の予定です。