「何だ。どうなっている⁉」
訳が分からず、ジェントルは後ずさった。
確かに、恋敵へカラフルな光線を炸裂させたはずだ。しかし、肝心のルーカスは戦闘意欲を失った様子もなく、むしろ戦う気満々である。いつの間にか、全身の傷も癒えていた。
「なぜ私の浄化技が効かない⁉」
「驚いたぜ。さっき受けたダメージが全回復して、力がみなぎってくる。……どうやら、これが俺の性癖、『他殺願望』の効果のようだな。瀕死に陥って初めて発動するらしい」
膝を突いてから、ルーカスはゆっくりと立ち上がった。
「浄化が効かなかったところを見るに、相手の能力を封じる能力もあるみたいだな。効果時間がどれくらいなのかは、実戦で確かめるしかなさそうだが」
「『他殺願望』? 何だ、そのクレイジーな性癖は!」
お前が言うな。
憤ったジェントルは、短槍をホイップクリームの絞り袋から元の形状へ戻すと、突きを繰り出してきた。それをひらりとかわし、ルーカスは新たにドライバーを装着した。
「ジェントル。俺とレベッカの愛を断ち切るというのなら、お前を葬る!」
性癖の効果で、原典の力も底上げされているからだろうか。ドライバーは金色で、より神々しい外見に変化していた。これを使いルーカスが変身するのは、以前使ったものと似た見た目でオーバースペックな戦士である。
『LUCAS ACCESS!』
カードをドライバーにスラッシュ。ルーカスの付近に出現した、金属から成る目のような不気味な物体たちが、彼と融合するようにしてアーマーが装着される。
『GENERATE!』『ENFORCEMENT OF VIOLENCE! LUCAS!』
全体的なシルエットは先刻の金と白の戦士に近い一方、色は黒と赤、金がメインだった。胸部をはじめ、全身に小さな目を模したようなパーツが複数備わっている。下半身にはローブも装着されていた。
「愚かな。いかに強力なパワーを振るえても、私に奪われるだけだというのに!」
再度、短槍で攻撃してくるジェントル。
「お前の『ジャック・ライズ』とかいう技はもう見切った。便利な能力だが、相手の変身アイテムに触れなければ発動しないんだろう?」
ルーカスは彼を嘲笑い、ベルト側方のボタンに触れた。「アクセラレート!」と音声が鳴り、自分の時間だけを加速させることによる超高速移動が可能になる。
「対策としては、変身アイテムを使わないタイプの原典で対抗するのが無難なんだろうな。ま、どのみち、触れられなければ良いだけなんだけど」
「ば、馬鹿なぁ~っ⁉」
音速で繰り出される、パンチとキックの嵐。「ジャック・ライズ」が不発に終わったジェントルにもはや為す術はなく、無限に続くかと思われる打撃の連鎖に力なく晒されている。
とどめとばかり、ルーカスはドライバーへカードを一度読み込ませた。
「さっきはよくも俺の必殺技を盗んでくれたな。強化版でお返ししてやるぜ」
『エクスパンジ!』
全身の眼球型パーツが発光し、ジェントルの技に負けず劣らず色とりどりの破壊光線を発射する。視界全てを光線が埋め尽くすほどの、圧倒的な暴力。
「――レベッカは俺のものだ。彼女だけは、誰にも譲らない!」
その奔流を喰らって、ジェントルは呆気なく変身解除されてしまった。
「戦いにおいても、君には及ばなかったか。無念だが、やはり私ではレベッカ嬢にふさわしくない、のかもしれないね……」
崩れ落ち、気を失ったらしいジェントル。ちょうどそのときに「他殺願望」の封印能力が切れたのを感じ、ルーカスは「効果時間は一分くらいか?」と当たりを付けた。
所有者の意識が途切れかけている今、ジェントルの原典は不安定な状態だった。ルーカスは彼の体に軽く触れ、「サウザー」の原典の力を抜き取った。
「俺からレベッカを奪おうとした罰だ。こいつは頂いていくぜ」
そしてただ一人、歩き去る。
ルーカスにとって、ジェントル・ゴージャスとの決闘は様々な意味での転機となった。
第一に、ジェントルの「幸せとは何かの犠牲の上にしか成立しない」という言葉に、己の魂のどこか深い部分が共鳴するのを感じた。
第二に、自身の性癖「他殺願望」の真の力を初めて知った。この戦いを経て、ルーカスは自分の力にある程度の自信を持つようになる。「他殺願望」を切り札にすれば、強敵とも渡り合えるという確信があった。その確信は無意識のうちに彼の気を大きくし、いずれ世界を巻き込んだ行動を起こすことを促す。
第三に、「サウザー」のような能力の原典もある以上、変身アイテムを使うタイプの原典ばかりに凝っていては対応できない場合もあると分かった。それまでは超次元ライダー系の原典を好んでいたルーカスだったが、以降は戦隊や怪獣など、幅広い原典を収集していくことになる。
その後、ネトルトから護身用の原典を貰った際にも、超次元ライダー系を貰うこともできたがあえてロリーニンジャーを選んだ。結果的にはこの選択が正解で、ダレン相手に「サウザー」で無双できた。何だか過去の自分を追い詰めているようで痛快だった。
逆説的に言えば、もしジェントル・ゴージャスが決闘を挑んでいなければ、ルーカスという諸悪の根源がここまで大暴れすることもなかったかもしれない。
略奪愛。罪深い性癖である。