その日の講義を終えたヒョウガは、帰路についた。特に予定もなかった。強いて言うなら、帰って課題をやるくらいだろうか。
しかし、予定というのは突然できるものである。黒のスーツに身を包んだ男女五人が、学生街で彼の行く手を遮った。
「見つけたぞ、零騎士ヒョウガ。今度という今度は倒してやる!」
「失礼ですが、どちら様で……?」
皮肉ではなく、本当に会った覚えがなかった。困惑している彼をよそに、五人は一斉に「フィーバー!」と叫び、その場でくるりと一回転してみせる。あっという間に、BLフィーバーJへと変身を遂げた。
道行く人々は悲鳴を上げて逃げて行き、あとには戦士だけが残った。
「お前たちは……!」
ヒョウガも長剣を召喚し、身構える。
「驚いたな。この前倒したはずなのに、まさか脱獄を?」
「お前が倒した先代のBLフィーバーJは、現在も服役している。我らは二代目だ」
BLコサックが得意げに言う。言われてみれば、彼の声も前回とは違う気がした。
「我々が使っている原典は、原作において、五人中二人が途中で別の演者に交代する。先代はその特性を活かし、変身解除された瞬間に原典のパワーを他の元虚無英雄会メンバーへ継承させていたのだよ」
じりじりと間合いを詰め、五人はヒョウガを取り囲んだ。
「しつこい連中だな。何度だって相手になってやる」
敵を睨みつけ、ヒョウガはゼロライアットを掲げた。
前回手こずった相手ではあるが、巨大化して半強制的に一対一へ持ち込めば倒せた。五対一ならともかく、一対一なら勝機はこちらにあるはず。そう思い、変身しようとしたのだが。
「騎士、転……」
「――今だ!」
BLジャパンの合図で、学生街に立ち並ぶ定食屋や居酒屋の陰から、リボンダークモノスに変身した元英雄会メンバーらがわらわらと湧いてきた。量産兵たちは手首からリボンを飛ばし、たちまちヒョウガの手足を縛り上げる。
「何っ⁉」
思うように手が動かせず、青年は剣を取り落としてしまった。チャンスと見たBLフランスがそれを拾い上げる。
「先代との戦闘データは分析済みだ。お前に巨大化されると勝ち目がないのは分かりきっていたから、リボンダークモノスを伏兵とし、変身を妨害させたのさ。悪く思うなよ」
さらに、BLケニアは懐から黒いドライバーを取り出した。中央部に赤いリングのようなパーツがあるそれを、身動きを封じられているヒョウガの腰へ押し当て、無理やり装着させる。
「ただ倒すだけでは面白くない。これはクロードが死に、彼の元から離れた原典のうちの一つ。このドライバーでお前を操り、我々の忠実なしもべにしてくれるわ!」
ベルト上部にカードをスラッシュすると、「カンカンカンカン」と踏切の警告音のようなサウンドが鳴り始めた。同時に原典の作用が強まり、いよいよヒョウガの体の自由が効かなくなる。
「さあ、何て言えばいいんだっけ?」
ミス・BL・アメリカが体を屈め、からかうように彼へ尋ねた。
「き、騎士転生……」
「違う!!」
息も絶え絶えに呟いたヒョウガを叱り飛ばし、彼女は憤慨した。
「そこは『フィーバー!』と叫んで、全身を使ってアルファベットのBとLを表現するという訳の分からない動きをするところでしょう!」
「おっと、二人ともハズレだ。正解は『変身』だよ」
リボンダークモノスの一人が言ったのに引っぱられるようにして、ヒョウガも「変身」と唱える。ベルト中央部を操作すると、「ギイッ」と、軋みながら扉が開くような音がした。
『ドレッド・《零騎士》!』
刹那、彼の全身を霧と炎が包み、人骨が巻き付くようなエフェクトとともに変身が行われた。首に白いマフラーを巻いた、黒い獣のような戦士である。
「……よし、計画通りだ」
先刻発言したリボンダークモノスが、同胞たちを見回す。
「これで零騎士ヒョウガは僕たちの操り人形になった。彼の力を利用し、邪魔な百合・BLレンジャーに引導を渡す日が来たようだね」
「クモノス部隊の元隊長もいてくれることだし、戦力は十分。我らの勝利は目前だ」
BLジャパンが彼の肩を叩いた。そして、変身後うなだれて沈黙している「ドレッド・《零騎士》」の手を取り、一緒に連れて行く。
「さあ、鋼鉄のスクラムだ!」
「何だか騒がしいわね」
BL警察本部で書類仕事をしていたツカサだったが、どうも外が気になって集中できない。ケイイチロウ、サクヤと顔を見合わせ、表へ出てみた。
見れば、数十名のリボンダークモノスに囲まれたBLフィーバーJと、謎の黒い戦士が本部目がけて大行進してくるではないか。
「あの国際色豊かな奴らは、先日ヒョウガが倒したと聞いているが」
首をかしげるケイイチロウに、集団の先頭に立つリボンダークモノス隊長が「かくかくしかじかでねえ」と説明する。「なるほど、よく分からない」とケイイチロウ。
「やっぱりクリスマスは鮭じゃなくてローストチキンだよな!」
そこへナオヤ、カイリ、トウマ、ウミカも駆けつけ、百合・BLレンジャーの基本メンバーが勢揃いした。なお、まだ十一月にもなっていないのでクリスマスは随分先である。
「……た、隊長、敵は人数が増えたようであります!」
「構うな。皆で元気に歌えば、怖くない!」
「ははーっ!」
下がりかけた士気を再び上げるべく、英雄会の残党たちは大きな声で歌い出した。
「「地球が、悲鳴~を上げて~るぜ! BLフィーバー! 誰かが、我ら~を呼んでる~ぜ~!」」
「いや誰もお前らみたいな奴呼んでねえよ」
カイリにツッコまれても気にせず、彼らは合掌を続けた。
「「一人一人は~、小さいけれ~ど~! 一つになれば、ご覧! 無敵さ~!」」「「お前も我らのように~! 力合わせろ、BLフィーバー~! J!」」
「真面目にやりなさいよ⁉ ぶっ飛ばすわよ!」
イラッとしたツカサが声を荒げると、残党たちは急にしゅんと押し黙り、行進をぴたりと止めた。まるで将軍か何か、偉い人に叱責されたみたいだった。
「君たち、ページを無駄遣いするのをやめて、正体と目的を明かすんだ!」とサクヤに言われ、渋々BLジャパンが進み出る。
「我らは虚無英雄会の残党……いや、残党という響きは少しダサいな。よし今決めた、我々は英雄会改め、『秘密結社エロス』! 」
「どう考えても秘密結社エロスの方がダサいわよね⁉」
センスの欠片もないBLジャパンに呆れるツカサ。
「で、目的は何なのよ」
「無論、百合・BLレンジャーへのリベンジだ。……やれ、ドレッド・《零騎士》!」
ジャパンを押しのけて前へ出た、漆黒の獣のような戦士にはおよそ意志と呼べるものがなかった。ただ命令に従って戦う、兵器と化している。
「こいつは零騎士ヒョウガを内部に取り込んでいる。攻撃すれば、零騎士もただでは済まないぞ」
「な、何―っ⁉ ヒョウガを取り込んでいるだと?」
オーバーリアクションで驚いてみせ、カイリはしばし考えた。
「……嘘じゃね?」
「本当だったらどうすんのよ⁉」
すかさず相方からツッコまれる。
※次回の更新は1週間後の予定です。