百合レンジャーvsBLレンジャー   作:クリスタルスカイ

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26 交際、反対!?

 ぽんと手を叩いた娘を見て、父は思わずカップを落としそうになった。

 

「な、何やサヤ、立ち直るの早すぎやろ⁉ 仕事って、普通に正社員として採用されたいうことか?」

「せやで~」

 

 いつもの「にへら~」という感じの笑顔である。

 

 

「でもサヤの場合、専業主婦しとった期間がまあまああるやろう。ちょっと語弊あるかもしれんけど、そういう一種のブランクがある状態で、正社員の仕事ってすんなり見つかるもんなんか? まさか、怪しい仕事ちゃうやろな」

「ちゃうちゃう。大学の事務職の仕事や」

 

 父を安心させるように、ゆっくりかぶりを振る。

 

「仕事探しに苦戦しとったところ、ある人が紹介してくれたんよ」

「ほほう。『ある人』とな」

 

 

 意味深な眼差しを投げかけられ、サヤは刹那「どこまで話すべきやろか」と悩んだ。が、冷静に考えて、話さない理由が特に見当たらない。現状、二人の関係はめちゃくちゃ良い感じなのである。ここから破局になる未来は一ミリも見えない。

 

「……あのなあ、お父さん」

 

 心なしかもじもじしながら、彼女はようやく切り出した。

 

「ご報告が遅くなってもうてごめんなさい。うち、今付き合うてる人がいます。ヒョウガくんていう、年下の男の子なんやけど」

「な、何ーっ⁉」

 

 

 父はしばらくの間「半年もあれば恋の一つや二つするじゃけえ」「サヤは道産子ギャルじゃないけどなまらめんこいから、寄ってくる男もおるやろなあ」「せやけど、なんくるないさーとは言えん」などとぶつぶつ言っていた。衝撃がでかすぎたのか、広島と北海道と沖縄の方言が混じっている。

 

「……年下ってえのは、いくつや」

 

 ややあって、やっとこれだけ絞り出した。

 

「二十一歳。大学三年生やって」

「学生と交際しとるんか⁉」

 

 

 父は目を見開き、それから娘の肩に手を置いた。

 

「サヤ、悪いことは言わん。その男はやめとけ。きっとお前は何か、騙されとるに違いない」

「お父さんこそ、勝手なこと言わんといてやっ。うち、騙されてなんかないもん!」

 

 珍しく子供っぽい表情を覗かせ、サヤはむすーっと頬を膨らませた。例えるなら、千年以上生きているエルフの魔法使いの弟子みたいな感じだ。

 

 

 その日はちょっとした言い合いになってしまった。サヤはヒョウガがどれだけ素敵な男の子なのかを熱弁したが、父いわく「恋は盲目。お前はまだ、その男の良い部分しか見えとらん」とのことで、聞き入れてくれなかった。サヤに言わせれば、ヒョウガには良いところと可愛いところとかっこいいところしかないのだけれども。

 

 結局話はまとまらず、近くのホテルに一泊するという父は「また明日説得しに来る」と言って帰って行った。

 

 

 翌日。

 再び訪れた父に、サヤは普通の麦茶を出した。そして「一晩考えたんやけどな」と口火を切る。

 

「ヒョウガくんの一番すごいところを教えたら、お父さんも交際を認めてくれるんちゃうかな思て」

「ほう、どんなとこや。言うてみ。あ、先に言っておくが下ネタはNGやぞ」

「ちゃうわ! お父さんのアホ!!」

 

 サヤが顔を赤らめたのは、(下ネタ的な意味で)すごいところに思い当たる節があったからだろうか。彼女の名誉のために詮索しないでおきます。

 

 

「ヒョウガくんはなあ。まだ学生やけど、ヒーローとして人知れず戦ってるんよ。うちのこと、何度も守ってくれたし。すごく立派な人よ」

「……ヒーロー? 何や、どういう意味の比喩表現や」

 

 けれど、父は信じていないらしい。まあ、仕方ないことではある。実家のある京都北部に、百合・BLレンジャーのようなヒーローはいない。オメガ珈琲シルバーみたいなローカル寄りのヒーローもいない。父にとってヒーローとは身近な存在ではなく、たまにニュース映像で見かけるだけのファンタジーなのだろう。

 

 

「どういう意味って、そりゃあ」

 

 本物のヒーローや、と続けようとしたとき、何を見るでもなく点けていたテレビが速報を告げた。

 

『秘密結社エロスと名乗る者たちが、BL警察本部を襲撃しました。エロスは零騎士を人質に取ろうとしたようですが、百合・BLレンジャーの妨害を受けて失敗。現在、戦隊が対処中との情報が入っています』

「……ヒョウガくんや」

 

 

 人質に取られかけたとのことだが、大丈夫なのだろうか。心配になったサヤは立ち上がり、急いで玄関へ向かった。

 

「うち、ちょっと見てくる。ヒョウガくんにもしものことがあったら大変やもん!」

「見てくるって……おい、ちょっと待ってや!」

 

 タワマンに一人残されるかたちになりそうだった父が、慌てて追いかける。

 

「百合・BLレンジャーが戦っとる場所に行くなんて、危険すぎる。戻った方がええ」

「ヒョウガくんはいつも危険な戦いに挑んどるのに、うちは見てるだけなんて嫌や」

 

 

 エントランスでタクシーを呼び、さっさと乗り込もうとするサヤ。「しゃあない」と根負けした父は、自分が同行するのを条件にして現場へ向かうことを許した。

 

「ちょうどええ機会や。そのヒョウガって男が、本当にサヤの言うような英雄なんかどうか、俺が見定めたる。かっこつけてるつもりで得意になったり、大事なことを全部置き去りにしたりするような奴なら、交際は認めん!」

 

 タクシーの後部座席でそんなことを言うものだから、サヤもつい返してしまった。

 

「そんなことない! ヒョウガくんは、誰かのために強くなって、歯を食いしばって思い切り守り抜ける人やもん!」

 




今回、ご迷惑をおかけした作品
・道産子ギャルはなまらめんこい
・葬送のフリーレン

※諸事情により、1か月ほど投稿をお休みさせていただきます。次回の投稿は5月の半ば頃になると思われます。
お待たせしてしまい申し訳ないですが、よろしくお願いいたします。
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