やがて、現着。
瓦礫を挟んだ遠くで、激しい攻防を繰り広げる二人。獣を思わせる鎧の戦士、ドレッド・《和式》が、黒と金の戦士、零騎士ヒョウガを追い詰めている。
「――ヒョウガくん!」
苦戦を強いられている恋人を前に、居ても立っても居られなかったのだろう。タクシーから降りるやいなや駆け出したサヤは、目を潤ませて叫んだ。
「ごめん。うち、やっぱり心配で、来てもうたわ。……ヒョウガくん、頑張って! そんな卑劣な人らに、絶対に負けたらあかん! 皆を守って!」
すると不思議なことに、彼女の懸命な応援を受けた零騎士は、ドレッドを圧倒し始めたのだった。ダメージが回復し、攻撃力も上昇したようである。
「何⁉ パワーを上げたでも言うのか。しかしなぜ、どうやって?」
「人の想いの力で、ヒーローは強くなれる。俺はその力で、皆を守る!」
この距離では、戦士たちの会話は断片的にしか聞き取れない。しかしそれでも、ヒョウガの真っ直ぐな想いはサヤの父にも伝わった。物陰に隠れて戦いの様子を窺いながら、目を見開き、呆然としている。
(……あの黒い騎士が、サヤと交際しているという青年か。何と純朴で、優しさに溢れた若者だ)
もはや、彼が本物のヒーローであることを疑う気持ちは起こらなかった。そんな気持ちは、青年が必死に剣を振るう姿を見た瞬間にどこかへ消えてしまった。あの青年は、優しさと強さを併せ持っている。それが男にとって最も大切なものだと、サヤの父は思っていた。
彼は高校時代、野球部に所属していた。商業高校を出て働き始めてから数年経ったのち、元野球部マネージャーで、卒業後も付き合いがあった女性と結婚するに至る。
『今更やけど、何で俺を選んでくれたんや。俺、別に顔がかっこええわけでもないし、野球がとびきり上手かったわけでもないやろ。何なら、引退前の最後の試合は空振り三振で終わったで』
ある日、彼は冗談交じりに問うた。妻はおかしそうに笑って答えた。
『あんたは誰よりも優しかったからや』
サヤも妻と同じで、恋人の内面を大事にしているのかもしれない。
いや、仮面の下の顔はまだ拝めていないけど、もしかしたらあの青年、顔面偏差値もえぐいくらい高かったりして。ヒーローをしているのなら、肉体的な強さは若い頃の自分以上かも。どないしよ、父さん、敗北感をひしひしと味わっとる。
「ふざけるな。我らは負けない。この力でお前を倒す!」
『ドレッド・ジャパンブレイキング!』
「力は、誰かを守るために使うものだ!」
『マキシマム・ゼロ・サイクロン!』
必殺技を撃ち合い、零騎士が競り勝つ。変身を解いたヒョウガの元へ、サヤは歓声を上げて駆けて行った。勢いあまって恋人にむぎゅーと抱きつこうとして踏みとどまり、ようやく「せや、お父さんのこと忘れとった」と思い出す。
「お父さん、この人がヒョウガくん……」
振り返ったとき、父の姿はなかった。
「あれっ?」
「どうかしたの、サヤさん」
不思議そうな顔のヒョウガに、サヤは慌てて誤魔化した。
「う、ううん。その、あれや、いつかヒョウガくんに、うちのお父さんを紹介したいなー思てなー」
「そ、それはさすがに気が早いような……」
「い、い、いつかの話よ!!」
ヒョウガが赤面したのにつられるようにして、彼女も頬を染める。どこからどう見ても、お似合いの二人だった。
新幹線の窓際の席に座った父は、景色を眺めて物思いに耽っていた。
(……サヤ、お前の言う通りや。顔こそ拝めなかったが、お前が選んだ青年は優しい心を持っている。素晴らしい人やと思う。ごめんな、父さんが間違っとった)
若い二人の邪魔をしないようにと、彼は娘に気取られぬよう戦場から去っていたのであった。
(サヤが青年を心から応援したように、俺もサヤのことを応援しとるさかいな。幸せになれよ、サヤ)
夫が亡くなって気落ちしているものと思っていた娘は、自分が思っていたよりも早く、新しい人生を歩み始めていた。幾つになっても愛しい我が子の将来は明るいようで、表情にこそ出さなかったものの、父は嬉しくてたまらなかった。
帰ったら、妻に報告しなければ。きっと喜ぶやろな――やっぱり多少の敗北感はあるけれど。