「すみません、少し確認して頂きたいことがあるのですが」
大会を見に来ていたヒョウガとサヤに気がつき、運営は二人を招集。問題のプレイヤーのデッキを押収し、偽造カードではないかどうか見てもらった。大会は一時中断され、物々しい空気が漂う。
「……うーん」
ゼロカードのホームページから「カードリスト」を引っ張り出し、ヒョウガはスマホと押収したカードを見比べながら唸った。
「おかしいですね。カード名はここに載っているものと同じなのに、書いてある能力が少しだけ違う」
「では、やはり偽物⁉」
「それがそうとも言い切れないんです。もしかするとゼロカードを刷っている工場でミスがあって、誤字のあるカードが一部で出回ってしまったのかもしれない。だとすると、一応そのカードは『公式が作ったもの』という扱いになりますから、すぐに回収することは難しいですよ」
プレイヤーから許可を取り、スリーブからカードを出して細かく見てみたりもした。が、偽造カード特有の印刷の荒さなどは見当たらず、やはり公式が刷ったカードとしか思えない。
「返してもらえます? 僕、次の試合があるので」
ハンドルネーム「毎日の未来」と名乗ったプレイヤーは、確認が終わるやいなや、ひったくるようにしてヒョウガからデッキを奪った。
こうして「毎日の未来」が失格になることはないまま、大会は続行。彼は瞬く間に強敵をなぎ倒し、相手から「いかさまだ」「訳が分からない」などと罵られても素知らぬ顔をしていた。
一方ではムーヴォも順調に勝利を重ね、ついに決勝戦へ進出した。相手は「毎日の未来」であった。
「毎日の未来」がインチキをしている疑惑が出たからか、負けて試合を終えた参加者は帰り支度を始めている。幸か不幸か人がまばらになってきたため、カイリたちはムーヴォのすぐ側で応援することができた。
「頑張れよ、ムーヴォ!」
「変なカードを使う人なんかに、負けちゃダメよ!」
熱心に応援する二人の傍らで、ヒョウガは不安そうな表情だった。
「……いくらムーヴォちゃんが強くても、彼には勝つのは難しい気がします。あれはバグレベルの強さですよ」
「そうなのか? 俺らは遠巻きに見てただけだからカードの効果までは分からなかったけど、一体どんな効果だったんだよ?」
「今『毎日の未来』さんが使ったのが、問題の効果です」
カイリの問いに、彼は小声でカードを指差した。
「――『ロスト∞(無限)』を発動。相手の山札を無限の枚数、墓地に送る」
「むげん?」
ムーヴォは無限の概念が理解できていないようで、きょとんとしている。
「つまり、デッキを全部墓地に送るということだ」
「……ええーーっ⁉」
時間差でショックを受け、敗北。泣き出してしまったムーヴォには一瞥もくれず、「毎日の未来」は席を立ってスタッフに詰め寄った。
「これで優勝は僕ですね。さあ、景品を寄越して下さい」
「し、しかしですね」
「――待て!」
口ごもった女性スタッフを手で制し、そこへヒョウガが近づいた。後方ではカイリも「バカヤロー! 何てひどい戦い方だ!」と不平を言っている。
「ゼロカードの企画を立ち上げた者として、今の試合を見過ごすわけにはいかない。優勝者へのプロモカードを、お前みたいな奴には渡さない!」
「何っ?」
両者は睨み合い、一歩も引かない。
「僕は優勝したんですよ。それに、このデッキに使っているカードは、さっき貴方たちに調べてもらっているはず。偽物だと断定できないのに、なぜ優勝を取り消すような権限があるんです?」
「確かに、偽造カードだという証拠はない。だけど、本物だという確率が限りなく低いのも事実だ。あのカードには本来、『ロスト5』の能力が描かれているはずだった。5と∞を書き間違えるなんて、普通はあり得ないじゃないか!」
「……チッ。疑われてしまっては仕方ない。今すぐできることは何だろう?」
「毎日の未来」は舌打ちし、上着を脱ぎ捨てた。左腕に装着した赤いブレスが露わになり、それを掲げて「メビウ~ス!」と叫ぶ。
刹那、男は∞のマークのように輝く光に包まれ、赤と銀のボディーを持った超人に変わった。ただし巨大化はせず、等身大にとどまっている。
「うわーっ⁉」
逃げ惑うスタッフやトレカプレイヤーらを鼻で笑い、彼は告げる。
「僕は神の親衛隊のルーキー、名は『メビウス』。これから始まる大いなる計画のため、偽のカードで優勝してプロモカードを入手、高値で売りさばいてやるつもりでしたが……バレてしまったので作戦変更です。こうなったら力づくでカードを奪ってやります!」
今回、ご迷惑をおかけした作品
・ウルトラマンメビウス