「神の親衛隊だか何だか知らないが、やっぱり偽造カードだったか。――『騎士転生』!」
対するヒョウガも長剣を掲げ、黒と金の鎧を纏った。激突するかに思われた二人だったが、そこに小さな乱入者たちが現れる。
「わあーっ、零騎士だ!」
「本物だあ!」
少し前まで大泣きしていた子供たちが、ヒョウガの変身した姿を見て、寄ってきたのだった。メビウスとヒョウガの戦いをヒーローショーか何かと勘違いしているらしく、わーっと群がって来てヒョウガの鎧を撫でたり触ったりしてくる。これでは身動きが取れない。
「サインちょうだい、サイン!」
「握手してよ!」
矢継ぎ早にリクエストが来るので、ヒョウガは弱ってしまった。メビウスはというと、近くの卓にどかっと腰掛けた。
「罪のない子供たちを巻き込むのは、僕の流儀に反する。決着はゼロカードの対戦で、平和的につけませんか?」
自分で泣かせておいて何を言ってるんだって感じではあるけども、赤と銀の超人の提案にちびっ子たちは大盛り上がり。「零騎士もゼロカードやるのー?」「見たい、見たい!」と期待の眼差しを向けられた。
「……良いだろう」
ややあって、ヒョウガは頷いた。このまま激しい戦闘に突入し、子供に怪我をさせるよりはましだ。
「ただし、条件がある。そっちが偽造カードを使うというなら、こっちは開発者権限を使わせてもらう。来月発売予定のカードをデッキに入れるぞ」
「構わないですよ。ま、少しくらいハンデをあげたところで、ロスト∞で瞬殺でしょうけどね」
ほくそ笑むメビウス。
そんなわけで、ヒョウガと彼は「お互い変身した状態でカードゲームをする」という非常にシュールな状況に陥ったのであった。
なお、ツカサとカイリは「どうすればいいのよ、これ」「見守るしかなくね?」などと話し合っていた。
デッキのシャッフルを終え、山札から手札五枚を引く。ヒョウガの先行で対戦はスタートした。
先行はモンスターで攻撃できないため、場に二体ほど並べるだけ並べ、マジックカードでデッキからカードを一枚手札に加えてターンエンド。メビウスの番になる。
「いきなりロスト∞じゃ可哀想ですからね。まずはこいつで……」
彼が出したモンスターカードには、「ロスト40」と記載されていた。とはいえゼロカードではデッキ枚数が基本四十枚と定められているため、実質的には「ロスト∞」とほぼ同義。手加減しているうちに入らないレベルだ。
「貴方のデッキにダイレクトアタック。デッキを四十枚墓地送りにして、僕の勝ちです!」
「――それは違うぞ」
よく見ろ、とヒョウガは自身のデッキを指差した。そこにはなぜか、まだ十枚以上のカードが残っている。
「来月から発売されるパックには、四十枚のデッキとは別に使う『エクストラデッキ』用カードが多数収録されている。そして俺のエクストラデッキには、『0番目の計画』が4枚入っている!」
「な、何だそのカードは⁉」
「『0番目の計画』には、デッキ枚数を5枚増やした状態で対戦を開始できる効果を持っている。したがって5×4枚で、俺のデッキは最初から60枚あった。ロスト40を受けても、まだまだ戦える!」
「へえ、少しはやるようですね。なら僕はマジックカードで手札を二枚増やして、ターン終了です」
どうにかこのターンはヒョウガが耐えた。けれども、あくまで一時しのぎに過ぎない。 しかもデッキ枚数が増えるのは良いことばかりでもなく、キーカードを引ける確率が下がってしまう。次にロスト∞を喰らったら今度こそ終わりなのは、誰の目にも明らかだった。
ヒョウガの番になり、先ほど攻撃してきたメビウスのモンスターカードを自分のモンスターで破壊した。そして別のモンスターの「リカバー5」効果で、山札を五枚増やす。
「……もう終わりですか? ならば僕のターン、『無限の竜・幻夢皇帝』を場に出してダイレクトアタック。『ロスト∞』を発動し、今度こそ僕の勝ちです!」
嬉々としてキラキラ光る偽造カードを出し、勝ち誇るメビウスだったのだが。
「まだだ!」
山札がなくなった瞬間、ヒョウガは手札から一枚のモンスターカードを出した。
最初の自分の番のとき、彼はマジックカードの効果を使い、デッキから切り札をサーチしていた。そのカードの特殊能力が発動条件を満たすときを、今か今かと待っていたのである。
「『燃え上がる革命・ゼロラゴン』の『革命・零』効果を発動。このカードはデッキが0枚になったときに手札から出すことができる。そしてこのモンスターが場に出ている間、自分はゲームに敗北しなくなる。お前の掴みかけた勝利は、たった今俺が無効にした!」
「ば、馬鹿な。何てチートな能力なんだ。インチキだ! いかさまだ!」
「お前にだけは言われたくない!!」
ゼロラゴンの効果が持続しているため、メビウスはどう足掻いてもこのターン中に勝てなくなってしまった。渋々ターンエンドを宣言する。
「フン。強がっていられるのも今のうちですよ。次のターンにゼロラゴンを破壊すれば、敗北回避の能力は消える。今度こそ僕の勝ちだ!」
「残念だったな。お前に次のターンは来ない」
静かにそう言い、零騎士のターンが始まった。集中してプレイしているからだろうか、彼は既にゾーンへ突入しかかっている。
「ゼロラゴンのもう一つの効果を発動。自分のデッキが0枚である限り、このモンスターには1ターンの攻撃回数の制限がなくなる」
通常なら、各モンスターは一度ずつしか攻撃できない。しかし「燃え上がる革命・ゼロラゴン」は条件を満たせば、無限攻撃することが可能なのだ。
「そ、そんな……」
カードを持つ手を震わせている赤と銀の戦士に、青年は宣言した。
「ゼロラゴンにお前のデッキをダイレクトアタックさせ、『ロスト3』を発動。もう一度攻撃可能になったので、再びアタックして『ロスト3』。さらに『ロスト3』!」
十数回に及ぶダイレクトアタックの果てに、メビウスのデッキは残り二枚となった。ロスト3×∞ということなので、まあ実質「ロスト∞」みたいなものである。けれども、両者には決定的な違いがあった。
「……メビウス。お前は不正なカードを使い、一撃で無限のダメージを与えようとした。だが俺はルールを守り、通常攻撃を何度も何度も繰り返すことによって、あくまでルールの範囲内で無限のダメージを与えた」
とどめを差す直前、零騎士は敵を睨みつけた。
「ロスト3を繰り返せばやがて無限になるように、小さな努力を積み重ねれば、いつか無限大になってなれるかもしれない。お前は地道に努力しようとせず、卑怯な手で勝とうとし、挙句の果てに子供たちを泣かせさえした。お前のような奴に、俺は絶対に負けない!」
「ぐわーっ⁉」
ゼロラゴンのダイレクトアタックを受け、ついにメビウスの山札がなくなる。ヒョウガの勝ちだ。
「ま、まだだ……」
椅子から崩れ落ちそうになりながらも、超人はテーブルに手をついて立ち上がった。
「店を破壊してプロモカードを傷つけるようなことがあってはまずいと思い、巨大化を自粛していました。が、このまま引き下がれば、あのお方に顔向けできません。やむを得ない!」
今回、ご迷惑をおかけしたカードゲーム
・デュエル・マスターズ(元ネタは「13番目の計画」「∞龍ゲンムエンペラー」「燃える革命ドギラゴン」です。)
※次回の更新は1週間後の予定です。
5月21日 追記
サブタイトルを書き忘れていました。大変失礼いたしました。