1 光球の降臨
メビウスと零騎士の決闘から、わずか三日後。
突如、都心上空に巨大な光の球体が現れた。道行く人々は足を止め、眩しそうにそれを見上げている。
市民からの通報を受け、百合・BLレンジャーはただちに現場へ向かった。ヤバそうな臭いがプンプンしたので、名古屋にいる早川裕介、来部美明日にもお呼びがかかった。
「一体何なんだよ、あのでかいのは」
「生き物なのかどうかも分からないけど、今のところは何もしてこないわね」
カイリたちがサングラスをかけて謎の光球を睨んでいると、不意にそれは声を発した。
「――私は神だ」
「はあ??」
そういえば、メビウスは「神の親衛隊のルーキー」だったんだっけ。すると、親玉がいきなり出てきたのだろうか。あまりにも急展開すぎて、打ち切りになりかけの連載漫画みたいである。
戦隊側の困惑を知ってか知らずか、自称「神」の光球は滔々と語った。
「諸君が驚くのも無理はない。何せ私は、人間が崇めている神とは全くの別物なのだから。私は超次元界、及び高次元界を統べる神だ」
『地球平面説。天動説。あなたたちの世界の言葉では、この世界の在り方はそう表現されるんでしょうね』
『最初に超次元界の在り方を決めた、神にも等しい力を持つ超次元生命体が、そういう風に世界を形作ってしまった。だから、こんな歪な姿なのよ』
「まさか……」
美明日は息を呑んだ。超次元界へ初めて乗り込んだとき、お菊が教えてくれた世界の在り方を、記憶力が良い彼女は真っ先に思い出していた。というか、伏線回収が遅すぎて常人はまず気づかないと思う。シンプルに回収が下手くそである。
「別世界の神が、俺たちに何の用なんですか」
警戒心を露わにヒョウガが問うと、神は「無論、戦だ」と言う。
「かつて私は、最初に超次元界を球体として形作った。だが、その球状世界に発生した命の中には、徐々に力の劣るものが増えてきた。数が増えるにつれ、種族としての戦闘能力はゆるやかに衰えていった。私にはそれが我慢ならなかった」
だから棲み分けを行ったのだ、と続けた。
「私は世界を別の次元で二つに分け、それぞれを半球状に作り直した。そして強い者だけを『超次元界』へ住まわせ、弱い者をそれより一段劣る『高次元界』へ移住させた。私の理想とする完璧な世界に、軟弱な生命体は不要なのだ」
「何てめちゃくちゃな神だ……」
うへえ、とサクヤが顔をしかめる。普通の親なら「出来の悪い子ほど可愛い」的な感情が湧きそうなものだが、神に常識は通用しないらしい。
高次元生命体と超次元生命体がよく似た生き物でありながら、前者が後者より明らかに弱かった理由もここで判明した。やはり伏線回収が遅すぎて、何なら後付け設定なんじゃないかと疑われるレベルである。
「より優れた種である超次元生命体が住む世界に、私はしばらくの間、概ね満足していた。しかし残念なことに、彼らは人間界への侵攻にことごとく失敗したのだ」
「うん、知ってる」
複雑な表情で頷くツカサ。
無貌の差し金で送り込まれた、次元大魔王を中心とする高次元生命体たち。無貌とその配下。彼女を崇拝する支持派。レベッカを修羅に変えた悪魔、ルーカス。虚無英雄会を陰で操っていたクロード。色んなことがあったけれども、何だかんだで彼らは倒された。
「人間界を征服してくれるのではと期待していた無貌もルーカスもクロードも、皆戦隊に敗れてしまった。私は、自らの創造物が下等生物ごときに負けた事実に耐えられなかった。そして悟ったのだ。――変幻自在の肉体と長い寿命を持つ私の最高傑作、超次元生命体でさえも、所詮は失敗作だったということにな!」
「お前、恐ろしいほど毒親だな。育児の本でも読んだ方が良いんじゃねえのか?」
裕介は軽く煽ってみた。が、見事にスルーされた。
「私は決意した。まずは人間界、次に超次元界、高次元界の順で、一度三つの世界をリセットする。今の世界にある命を使い、さらに強い生命体を生み出す!」
「……ちょ、ちょっと待ちなさいよ。百歩譲って超次元界と高次元界を作り直したいのは分かるとしても、何であたしたちの世界までリセットする必要があるわけ? 人間界はあんたが作った世界じゃないわ」
「諸君らの存在自体が不快だからだ」
ものすごく理不尽な答えが返ってきたので、ツカサはげんなりしていた。何だろう、どう足掻いてもこの光球とは分かり合えない気がする。
「私の作った超次元生命体が欠陥品だったのは認めるが、まあそれはそれとして、愛しい我が子たちを倒し続けている人間たちを許すわけにはいかないのだ!」
「思った以上に捻くれてた⁉」
お菊は「神にも等しい力を持つ超次元生命体」と言っていた。あえて「神」と呼ばなかった理由も何となく察せられる。こんな風に拗らせた奴が神だとは思いたくない。
「本来は私自ら造った親衛隊のルーキー、メビウスに裏工作を行わせてじわじわと潰すつもりだったが……倒されてしまっては実力行使に出るより他にない。さて、前置きはこれくらいにして、戦を始めようではないか」
長い自己紹介を終え、光球は輝きを増した。何をする気なのかは不明だが、百合・BLレンジャーも変身アイテムを構えて準備する。
「おいおい、その丸っこいボディーで戦うつもりかよ」
またしても裕介は煽ってみた。最近あまり出番がなかったので、無駄に張り切っているのかもしれない。
「神である私は実体を持たない。この球体も仮の姿だ。代わりに、私が新たに造った作品たちが相手をしよう」
刹那、戦隊の前に二体のマネキン人形のようなものが現れた。それは少しずつ形を変えていき、半裸の男性の姿になる。いずれも見知った、できればもう二度と見たくなかった顔をしていた。
「後書きのようなもの」を書いた時点での作者は完結させる気満々だったのですが、あれから他のアイデアが色々出てきまして、結果的に連載が続くどころか新章突入してしまったことをお詫び申し上げます。