残留思念を食べ終わったキメラは、天空を駆けてどこかへ走り去ってしまった。
「す、すごいわね、ダレン。あの強敵二人を、たった一人で倒しちゃうなんて……」
ほとんど出る幕のなかったお菊はべた褒めだったけれども、ダレンは楽観していない。
「無論、代償もある。さっきの合成獣の戦士の原典を、私は今後二度と使えない。二度と使えないということは、歴代二号戦士の力のすべてを使えず、つまりは完全な状態のマジェスティになれないということでもある。パワーダウンは免れないだろう」
それはともかく、と頭上の光球へ視線を戻す。
「あとは貴様だけだな、神とやら」
「――自分が何をしているか、分かっているのか? ダレン、君は今、神に反逆している。君が生まれ育った世界のすべてを造ったこの私に、牙を剥いているのだぞ!」
お気に入りだった配下を二体とも倒され、自称「神」は怒り狂っているようだった。
「確かに、私が今在るのは貴様のおかげかもしれない。だが、貴様は神などではない。力が強すぎるだけの、ただの超次元生命体だ!」
一方、ダレンも凛として反論する。
「民が無貌の圧政に苦しんでいるときに、貴様は手を差し伸べようとさえしなかった。民を救わぬ神は、神ではない!」
「……ダレン、これを!」
そのとき、お菊が新開発のスタンプをリボンズドライバーへ押印した。
『オオクワガタ! リボンミックス!』
黄金の長剣を召喚し、ダレンへ渡す。完全態のマジェスティになれない分、パワーを補うためにとっておきの追加装備を寄越してくれたに違いない。
「ありがとう、お菊。共に、あの自称『神』を倒そう」
「――笑止。君たちごときに勝てる相手ではないことは、分かっているはずだろうに」
巨大な光球が不規則に明滅する。
「所詮、民は道具。私が神だ!」
光球の真下に、新たなマネキン人形が出現した。
「ダレン。君は彼女と戯れているといい」
自称「神」がその台詞を言い終えたのと同時、マネキンは女性の姿へ変わった。猫耳カチューシャや猫の肉球模様のバッグを装備した彼女は、ダレンにとって忘れられない人物であった。
「キャサリン……」
「ごめんにゃあ、ダレン」
彼女は悲しそうに笑い、腰のベルトへバックルを装填した。
「私、ダレンを倒さないといけないにゃ。変身」
『BEAT!』
刹那、マゼンタとシアンをメインカラーとした猫っぽい見た目の戦士へ変貌する。胸部にはスピーカーやイコライザーを模した装甲を備え、手にはギター型の武器を構えていた。
「やれ、キャサリンの残留思念。その男を殺すのだ」
冷酷に命令する光球を、ダレンは怒りを剥き出しにして睨む。
「貴様……どこまで死者を愚弄すれば気が済むのだ!」
「君はルーカスやクロードとは仲が悪かったろうからね。もっとおあつらえ向きの相手を用意した。何なら、亡くなった君の妻、エリザベスの残留思念を使っても良かったんだぞ?」
「黙れ。貴様ごときが、妻の名を口にするな!」
『ダレンリバイブ・剛烈!』
砂時計型アイテムで変身したダレンは、お菊から受け取った長剣を振り上げ、キャサリンへと突進した。ギターから放たれる破壊音波をかいくぐり、一気に距離を詰める。
「マジェスティになれないからといって侮るなよ。まずは彼女を無力化する。次は貴様だ、自称『神』!」
「ダレン、私も……」
助太刀しようとしたお菊だったが、不意に振り向いたダレンの、意味ありげな視線を受けて足を止める。
「待て、お菊。貴様には他に頼みたい仕事がある。それに――」
彼の視線が前方へと戻される。ダレンの振るう長剣と、キャサリンのギター型武器が激突した。
「話せば長くなるが、生前の彼女とは交流があったのでな。ここは任せてもらえないか」
「分かったわ。けど、必ず勝ちなさいよ!」
お菊は小さく頷き、踵を返した。
「かつての仲間との一騎打ちを望むか。だが、君一人で勝てる相手ではない」
走り去るリボンズを見送り、光球はダレンを嘲笑う。
「私は超次元界を形作った、いわば最強の存在だ。その力は全盛期の無貌をも凌駕する」
「……何が言いたい」
キャサリンと激しく斬り結びながら、ダレンは問うた。
「分からないか? 力で無貌を上回っているということは、原典へのアクセス権限も彼女以上ということだ。自分で作り出した人形に、私はありとあらゆる原典のパワーを授けることができる」
「神」の放つ光の中から新たなバックルが生まれ、キャサリンの元へ飛んで行く。
「元々が空虚な人形だから、虚無のキャパシティーもあり余っている。存分に原典を活用したまえ、私の可愛い傀儡よ」
「ありがとにゃん☆」
魔法陣が描かれた青いバックルをセットし、キャサリンが回転させる。「FANTASY!」と音声が鳴り、バックルと同色の形態へフォームチェンジした。
「それがどうした!」
長剣の柄のレバーを操作し、ダレンが灰色の斬撃を飛ばす。しかし、キャサリンの肉体はその攻撃をすり抜け、何事もなかったかのようにパンチを繰り出してきた。意表を突かれ、後退するダレン。
「彼女は既に死んだ超次元生命体。本当は存在しないゆえに、原作寄りの透過能力を使えるのだ」
楽しそうに語る光球の下で、二人の戦士のバトルは続いた。けれども、ダレンの物理攻撃はキャサリンに当たらず、形勢は明らかにキャサリン有利であった。