「ところで、おねロリってのは素晴らしいものでございやす。例えば、ある時点で妹が五歳、姉が十五歳だったとしやしょう。妹が『お姉ちゃん好きー!』と言いやすが、それは英語のLikeの意の好き。恋ではありやせん」
「う、うん」
「ところが、十年経って妹十五歳、姉二十五歳になったときに妹がまだ『お姉ちゃん好きー!』という気持ちを持っていると、それはもうLikeじゃなくてLoveでやすぜ。しかも、高校生になって体力がありあまっている妹に対し、社会人の姉は仕事でへとへと、体力がない。十年前は幼い妹を姉がほとんど一方的に可愛がっていやしたが、攻守の関係性が逆転していやす。これこそが、真のおねロリの魅力! シン・おねんロリオンだと、あっしは信じていやす!」
「そ、そうなんだ」
やっぱり分かり合えないかもしれないなあ。少なくとも、趣味の領域においては。
ピーターも百合の心得は持っていたが、年齢差のない同級生同士のものを好んで読むため、ロリーニンジャーの性癖に完全に共感できたわけではなかった。
今の話から推測するに、ギター型の武器の攻撃属性が変わるのは、おねロリの関係性逆転に発想を得ているのかもしれない。「おねマジック」と「ロリマジック」、名前はふざけているが十分すぎるほど強力な技だった。
「おねロリの話の続きはまた今度聞くとして、君はどうして僕を攻撃するんだ? 僕が次元大魔王の手先だなんて、変な言いがかりをつけないでくれよ。僕は親愛なる隣人、リボンダーマンだ」
「言いがかりではございやせん!」
これをご覧下さいやし、とロリーニンジャーは二枚のプリクラ写真を取り出した。そのうち一枚は、ツカサとカイリが次元大魔王と笑顔で写っている。もう一枚は、リボンダーマンと大魔王が「マスクを被れ、強くなる」という文字と一緒にツーショットで写っていた。
「この写真が何よりの証拠でございやしょう。表では敵対しているように見せかけて、裏では大魔王と日米のヒーローは繋がっていたんでやんす。全部、高次元生命体の作戦だったんやすぜ」
プリクラを握るロリーニンジャーの手は、震えていた。
「正直、もうどうしたらいいのか分かりやせん。あっしが憧れていたヒーローたちは皆偽物で、悪の手先だったなんて信じられやせん。人類に未来はあるんでございやしょうか。でも、せめて……大好きなヒーローだからこそ、あっしが自分の手で葬ってやると決めたんでございやす!」
おねロリを通り越して、ヤンデレじみた発言さえ飛び出してきた。
「成敗!」
ロリーニンジャーがソードガンを構え直した瞬間、リボンダーマンはバスの屋根に伏せた。ロリーニンジャーはきょとんとした顔をした直後、歩道橋の桁に頭をぶつけて気絶した。
もうすぐバスが歩道橋の下をくぐるのを悟ったリボンダーマンは、頭をぶつけないように姿勢を低くしたのだった。
何はともあれ、戦わずに敵を無力化することには成功した。気を失ったロリーニンジャーを抱き上げ、リボンダーマンはリボンを伸ばして振り子のように移動した。
(彼が意識を取り戻したら、一度落ち着いて話をしてみよう。そうすれば誤解も解けるかもしれない)
ビルからビルへ移動しつつ、ピーターは考えた。
あんなプリクラを撮った覚えはないし、そもそも彼は大魔王と直接会ったことすらない。写真は間違いなく作り物だろう。ロリーニンジャーは魔王に騙されているのだ。言葉を尽くして誠心誠意向き合えば、きっと分かってもらえる。
気がつくと、ロリーニンジャーは公園の芝生の上で寝ていた。いつの間にか変身も解け、青年キンジ・オネガワの端正な素顔が露わになっている。
「はっ。あっしは、一体……」
「目が覚めたかい?」
隣に寝転んでいたのは、リボンダーマンことピーター・バーガーだった。今は赤いリボンの衣装ではなく、高校の制服を着ている。
「君は歩道橋の桁に頭をぶつけて気絶したんだ。で、ここまで運んできて寝かせたってわけ」
「あっしを倒すチャンスだったのに、どうして助けたんでございやしょう?」
キンジは上体を起こし、不思議そうな顔をした。
「あっしには、ピーター坊ちゃんの考えていることがよく分かりやせん。大魔王の手先がやることだとは、とても思えやせん」
「ロリーニンジャー、君はきっと大魔王に騙されているんだ。これを見てほしい」
そう言って、ピーターは制服のポケットから一枚の写真を取り出した。キンジがしげしげと写真を覗き込む。
「何ですかい、これは?」
「日本を離れる前、僕がツカサたちと一緒に撮った写真だよ」
リボンダーマンの左右にツカサとカイリが並び、手首からリボンを撃ち出すときのポーズを真似して笑顔で写っていた。国際空港で撮ったものらしく、三人のバックにはお土産屋さんらしき店が見える。
「信じてもらえないかもしれないけど、かつて僕は彼らと力を合わせ、高次元生命体ベノムという強大な敵と戦った。この写真は、その戦いを終えた後に撮ったものだ。悪の手先なんかじゃない。あのとき、僕たちは確かに、正義のために戦ったんだ」
「さっきのプリクラ写真では、坊ちゃん方は魔王と仲良しこよしでございやしたが……」
おかしいな、と首をかしげつつ、キンジはジャケットの内ポケットをまさぐった。二枚のプリクラを取り出したのも束の間、それは灰になってさらさらと零れ落ちてしまった。
「ややっ、プリクラが消えた!」
「これで分かっただろう。君が受け取ったプリクラは、大魔王が作り出した偽物だったんだ。君は騙されたんだよ」
ピーターが所持していた写真こそが本物。大魔王に渡された写真は捏造。事実を突きつけられると同時に失敗を悟り、キンジは「ヒーハー!」と奇妙な叫び声を上げて頭を抱えた。
「ああ、何てことでございやしょう。つまりあっしは、大魔王を倒すために日本へ渡り、その大魔王にまんまと騙されて、すぐに帰国してしまったわけでございやすね。一体、何ドルの旅費を無駄にしたのか……。どうせ日本へ行くなら、観光してから帰るべきでやしたねえ」
「後悔するところ、そこなの?」
騙されたことよりも、旅費がかさんだことを悔やんでいるようだ。まあ、ともかく反省してくれたのなら良しとしよう。
「とにかく、分かってくれて何よりだよ。これでもう僕たちが戦う必要はない。本当に倒すべき相手は、君を騙した高次元生命体だ」
ピーターはキンジへ手を差し出した。
「たぶん、君も僕と同じで、偶然超人的な力を得たんだと思う。『大いなる力には、大いなる責任が伴う』――亡くなった叔父の言葉だ。戦う力を持っている者は、正しい目的のためにそれを使わなきゃならない。これからは一緒に戦おう!」
「喜んで!」
先の非礼をお詫びしやす、と頭を下げつつ、キンジも手を差し伸べる。二人は固い握手を交わした。