ゼニスは倒された。あとは怪我の応急処置をして、人間界へ帰るだけなのだが。
「なんか忘れてるような気がするのよね……」
お菊に手当てを受けながらツカサが首をかしげていると、遠くから「おーい!」と声がした。ゴークイーンズとBLACON・SUNが、手を振りながら走ってくる。そういえばこいつら、バールノクスとかいうのと戦っていたんだっけ。
「私の『レッド・1000キロカロリーパンチ』をはじめ、皆で必殺技を連打して追い詰めたのですわ~!」
「令和産の原典を使う私たちの攻撃なら、バールノクスにも問題なく効きましたわ~!」
「多少反撃も受けましたが、クイーンパレットで回復したので大丈夫でしたわ~!」
「バールノクスめ、俺の『ライダー・ブラコンキック』でかっこよくとどめを差そうとしたのに、急にマネキン人形に戻ってしまうとは。許さん!」
口々にやかましく喋り始めた四人に、ツカサは「ゼニスがやられたからバールノクスも消滅したんだと思うわよ」と教えてあげた。大体において、怪人が倒されたらその能力も効果を失うのが戦隊あるあるだ。そういう感じである。
「何っ! 自称「神」はもう倒されてしまったのか⁉ 許さん、いや許せる!」
勝手に憤っているBLACON・SUNを、ダレンが「ちょっと手伝え」と手招きした。
「貴様と俺で同時にゲートを開き、手当てが終わった者から順に人間界へ帰還させる」
「うむ、分かった」
既にケイイチロウら数名は、ゲートをくぐっている。黒いバッタの戦士は二つ返事で頷いた。
久々に再開した百合・BLレンジャーとレジスタンス組だったが、早くも別れの時が近づいていた。
一足先にドアをくぐった裕介に続こうとして、彼女はふと思いとどまった。
「……ねえ、ネトル」
桃色の扉に手をかけ、美明日は自分の中にいる超次元生命体へ呼びかけた。
「もしあなたが望むなら、私と分離して、このまま超次元界へ残ってもいいのよ?」
『どのみち、以前あなたたちに倒された時点で、私は三武神の地位を剝奪されている。もう超次元界に居場所はないも同然だし、こうなったらとことん付いて行ってあげるわよ。地獄までね』
「あなたは以前ああ言っていたけれど、無貌もその支持派も壊滅した今、元三武神だったことに大きな意味があるとは思えないわ。自称『神』を倒して戦いも一段落したことだし、無理に私に付いてこなくても……」
『無理なんてしてないわよ?』
気丈そうな声が、美明日にだけ聞こえる。
『あなたという相棒と一緒にいる方が、私は楽しいの。ただそれだけ』
「そう言うと思ったわ」
ポニーテールを風になびかせ、彼女は微笑んだ。眼鏡をくいと押し上げ、扉を開く。
「これからもよろしくね、ネトル!」
最後に、ツカサとカイリの番になった。
今回の戦いは、人間界の戦隊と超次元界のレジスタンス、どちらかが欠けたら勝利を収めることはできなかったろう。ツカサはお菊と軽いハグをし、カイリはダレンと握手を交わした。
「ゼニスを倒すためとはいえ、裏切ったふりをしてすまなかった。また助けてもらったな。心から感謝する、百合・BLレンジャー」
顔に傷を負った男が、深々と頭を下げる。
「これで本当にお別れね」
涙ぐむお菊に、二人の戦士は首を振った。
「たとえ離れていても、あたしたちは仲間よ」
「またいつか会おうぜ! 今度はピーター師匠ともご一緒したいよな!」
そして、金の装飾が付いた扉を笑顔でくぐっていく。ドアが閉じると同時にゲートは消滅し、百合・BLレンジャーは全員人間界へ戻った。
かくして自称「神」、ゼニスは死んだ。
超次元界にも高次元界にも人間界にも、神はいない。少なくともその一点だけは、三つの異なる世界で共通している。
神が死に、不条理に満ちた世界で、すべての命は今日も生きていくのだった。大切な者たちと共に支え合いながら、ささやかな幸せの中で。
ありがとう、百合レンジャー! お疲れ様、BLレンジャー! 神を名乗る強敵との戦いは、ついに終わった。今日くらいはゆっくり休んで、英気を養ってくれ!