1 冒険の終わりと始まり
ゼニスの体内へ千年以上も閉じ込められていた、何体もの超次元生命体。彼らのその後は、十人十色の結末だ。
自我を失った状態での幽閉とはいえ、千年も体の自由が効かないのは相当なストレスである。よって、ある者はそのストレスを発散しようと奮起していた。
彼女の名は「ロシュツジカ」といい、魔法少女系の原典を使用する。マイクロビキニにミニスカートといった出で立ちに、水兵服っぽいジャケットと水平帽を着用した少女だ。
「ロシュツジカ」という名前の通り、彼女の性癖は「露出狂」。その能力は、「裸体を他人に見られているとき、見られている部位と、見られている時間に応じて技の威力が上がる」というものだ。マイクロビキニ+ミニスカートで露出多めなのは、いざというときに性癖のパワーを存分に使えるようにとの考えあってのことかもしれない。
「皆~! 今日はロシュのために集まってくれて、ありがと~~!」
彼女は今、旧貴族居住区に無許可でライブステージを設立し、マイク片手に好き勝手に歌いまくっていた。
「それでは聞いて下さい! ロシュの新曲、『ラブリー♡ロシュ』!!」
なお、千年間も表舞台から姿を消していたロシュツジカのことを覚えている者はほぼおらず、ゆえに観客は純粋な彼女のファンというわけではない。ただ単に、「なんかやかましいのがいるぞ」くらいの認識で群がっただけだ。要するに野次馬である。
「ダレン、こっちこっち」
「やっと見つけたぞ、お菊」
その野次馬の中には、ダレンとお菊も含まれた。ゼニスの体内にいた超次元生命体が騒いでいると聞いて、念のためにとパトロールに来たのである。人混みの最後列に身を潜め、様子を窺う。
めいっぱい元気に歌っているロシュツジカの姿を見て、お菊は囁いた。
「これは私の推測だけど、彼女、本当に歌が好きなんじゃないかしら。大好きな歌を千年も歌うことができなかったんだもの、これくらいはっちゃけるのも分かる気がするわ」
「ああ。無害な女だとは、私も思う。ただ……」
渋面をつくり、ダレンがため息をつく。
「ロシュはラブリ~♡ ラブリー・ロシュ~♡ 皆キュンキュン、メロメロリン♡ 超絶キュートな変態ガール♡ その名はロシュロシュ♡ ロシュツジカ♡ 聞こえるわ、あなたのハート♡ ドクドク&バクバク鳴ってるわ♡ 恋してもいいのよ、ロシュに♡ 恋愛NGだけど♡」
「歌詞がダサすぎる上に、あれだな、歌が絶妙にいじりにくい程度に下手だ……」
「皆のアイドル、ロシュツジカ♡ あなたのハートを、ずきゅんばきゅん狙い撃ち♡ ぞっこんロックオン、ラブハート♡ ずきゅんばきゅん狙い撃ち♡ ぞっこんロックオン、ラブハート♡」
他の観客たちも、途中から死んだ魚のような目をして聞いていた。無言で去っていく者もちらほらいる。
とはいえ、去る者に対して怒ることもせず、ロシュツジカは最後までしっかりと自分の歌を歌い上げた。笑顔を絶やさず、とても楽しそうに。
千年ぶりに大好きな歌を歌えて、彼女は幸せに包まれていた。
「そろそろ行くぞ」
「ええ」
「……特に何のトラブルも起きていなかったが、パトロールに来た甲斐がなかったわけではないな」
お菊を連れて踵を返し、ダレンが微笑を浮かべる。
「自称『神』、ゼニスを倒したことで、私たちはあの少女の笑顔を守れた。それが確認できただけでも良しとしなければ」
またある者は、半狂乱になって暴れていた。
彼の名は「クヴァル」。電球のような形の頭部が特徴的な超次元生命体で、細身のロボットを思わせるハーフメカニカルボディーを持つ。顔には青い発光器官、胴には金色のマント状のパーツが備わっていた。
「……終わりだ。殺される。ゼニスはいつか必ず甦り、私を追ってくる。いたぶって、弄んで、絶望するまでしゃぶり尽くして殺す。私が生き残るためには、これしかない!」
超次元界の辺境にある小さな村へ降り立ったクヴァルは、手にした杖をめちゃくちゃに振り回した。その先端から放たれた黒い光線が、木造の小屋を次々に粉砕していく。
「ご覧下さい、ゼニス様! これが私の罪滅ぼしです!」
悲鳴を上げて逃げ惑う住民たちには、目もくれない。電球頭のメカ怪人は両腕を広げ、天を仰いで、体が記憶している恐怖に声を震わせながら叫んだ。
「日没までに、超次元界の生物どもをすべて滅ぼしてご覧に入れましょう。貴方の言う『失敗作』は、私が狩り尽くします。……ですから、どうぞお助け下さい! 成功報酬として、どうか私の命を!」
元々クヴァルは、善良な超次元生命体だった。頭が切れた彼は魔法の研究もしており、千年前は実力派の魔法使いとして名が通っていた。
だがあるとき、生きながらえるために自分たちを取り込もうとしたゼニスに反逆し、こてんぱんに叩きのめされた。思い出すたびに寒気を感じ、体がガタガタと震える。それくらい屈辱的で、完全な敗北を喫してしまった。
ゼニスの体内から解放されて以降も、クヴァルの心に巣くった恐怖は消えていなかった。自称「神」が死んだことを信じられず、仮に一度倒されたのだとしてもいつか復活すると思い込んでいた。端的に言えば、錯乱状態に陥っていたのである。
「生き残るためなら、私はプライドも何もかも捨てる。こんな腐り切った世界のことなど、どうでもいい! すべてを滅ぼした後で、高次元界にでも人間界にでも高飛びすればいいだけのことだ!」
「――そうはさせないよ。」
すると、どこからか声がした。辺りを見回すメカ怪人。
彼が今しがた破壊した小屋。炎を上げて燃えるその中から、一人の小柄な女が歩み出た。
「魔法を悪いことに使うのは、見過ごせないね。」
使用している原典に従い、エルフの魔法使いの外見をしている。銀色の長い髪をツインテールにし、麻呂眉とエルフらしい長い耳が印象的だ。纏っているのは、魔法使いのローブをガーリーなデザインに仕立て直した感じの白い服。
表情の変化が少なく、淡々としている様には見覚えがあった。
「エルフの魔法使いだと? それに、セリフの末尾に必ず『。』が付く、やや独特な喋り方……まさか貴方は、『葬送のフィリーレン』⁉ まだ生きていたとは!」
今回、ご迷惑をおかけした作品
・「魔法少女にあこがれて」