クヴァルが知っているということはつまり、彼がゼニスに取り込まれるより前からずっと生きている、かなり長寿な超次元生命体ということになる。
「辺境の地で、魔法の研究や魔法関係の原典集めばかりしてきたからね。おかげで、無貌絡みの戦乱に巻き込まれることもなく長生きできているよ。」
エルフ自体が長寿な種族というのも、関係しているのかもしれない。
「邪魔をするというのなら、たとえ相手が著名な魔法使いであっても容赦はしませんよ」
杖を構え直し、クヴァルは威嚇するように言った。
「フィリーレン。確かに貴方の実力は本物だ。しかし、私だって負けてはいないはずです。何せ私は千年前、最強の魔法を完成させた天才発明家だったのですからね!」
かつてクヴァルはゼニスに完敗した。が、それは魔人形態になって本気を出した彼に負けただけであって、マネキン人形と残留思念で作り出された傀儡どもには一歩も引かなかった。むしろ優勢だったのだ。クヴァルには、敵を一撃で葬ることすら可能な、文字通り「必殺」の魔法があったのだから。
その名も。
「とくと味わいなさい。――『超次元生命体を殺す魔法』ッ!」
そのまんまだった。
単純明快。杖から発射する黒い光線が命中した直後、相手は死に至る。さらに貫通効果を有しているため、相手が防御を図ってもお構いなしにダメージを与えられる優れものだ。
「?」
けれども、エルフの魔法使いには効かなかった。彼女は即座に魔法のバリアを展開し、いとも簡単に光線を防いでしまう。
「ああ、なるほど。千年前はそういう呼び名だったっけ。今では『一般攻撃魔法』と呼ばれているけど。」
ぽんと手を叩いて何やら納得しているフィリーレンを、クヴァルは苛立ちと困惑を露わに見つめていた。
「一体、どういうことです? なぜ私の『超次元生命体を殺す魔法』が、貫通しない⁉」
「クヴァル。この千年で、魔法に関する原典の種類はぐんと増えた。それはもう数え切れないくらいだよ。種類が増えれば、既存の魔法への対処法も自然と編み出される。クヴァルが開発した魔法は、現代では単に『一般攻撃魔法』として広がっているよ。それに対して有効な防御術式とセットでね。」
「ば、馬鹿な! そんなことがあってたまるものか。それじゃ、まるで私が……パワーインフレに付いていけなくなった弱者みたいではないですか!!」
唸り、突進するクヴァル。走りながら、杖から「超次元生命体を殺す魔法」を連射するも、すべてバリアに弾かれてしまった。
「こうなれば……『杖を電磁レイピアに変える魔法』ッ!」
魔法の撃ち合いでは勝機がないのを悟り、怪人は接近戦に切り替えた。彼は頭脳派だが、決して近接戦闘が不得手なわけではないのだ。自分の杖をレイピアへ変換する。
「諦めて引き下がってくれたなら、命まで取るつもりはなかったんだけどな。」
フィリーレンは彼の繰り出した突きをバックステップでかわし、右手をすっと持ち上げた。いつの間にか中指に指輪がはめられ、腰には人の手の甲を象ったドライバーが巻かれている。
「仕方ないね。私が集めた、魔法関連の原典コレクション。その一部をお見せするよ。」
ドライバーへ指輪をかざすことで、魔法を発動することができるのだ。千年前には存在しなかったシステムである。
『エクスプロージョン・ナウ!』
「ぐわ~っ⁉」
何の前触れもなく、クヴァルの周囲の空間が大爆発した。無様に吹っ飛ばされるメカ怪人。
「つ、強すぎる。ここは一旦撤退を……」
「逃がさないよ。」
『テレポート・ナウ!』
再び、ドライバーへ指輪をかざす。形成されたワープホールをくぐって、フィリーレンはクヴァルの進行方向へ先回りして現れた。そして左手に握った瓶を素早く振り、中身の液体を怪人へぶっかける。
「うわっ、何だ⁉」
液体がかかるやいなや、機械の肌から煙が立ち昇った。どうやら溶解液らしく、金色のマントやらメカニカルな装備やらがじわじわ溶けていく。
「『服だけを溶かす薬』。魔法ではないけれど、私のお気に入りのコレクションだよ。」
むふー、と微笑むフィリーレン。彼女にはガラクタみたいなものを収集するきらいがあった。集めた魔法も、およそ戦闘には向かなさそうなものが大半を占める。
「こんなものをかけて、悪ふざけのつもりで?」
「違うよ。」
真剣な表情に戻り、魔法使いは凛として告げた。
「私の性癖……私の名前の一部にもなっているそれは、『スコポフィリー』。他者が衣服を脱ぐのを見ることで興奮する性癖だよ。そしてその能力は、『相手の身に着けているものが相手の体から離れるたびに、自分の技の発動速度を上げる』というものなんだ。」
フィリーレンは何も、ふざけて「服だけ溶かす薬」を使ったわけではない。強制的に脱衣させるあの薬は、彼女の性癖のパワーを引き出すにはうってつけなのだ。何なら常に持ち合付いているまである。
メカ怪人の鎧を剥がしたことで、エルフの魔法使いの技の発動速度はぐんと上がった。
「おのれ……『電磁レイピアをハンドガンに変える魔法』ッ!」
狼狽したクヴァルは、またしても魔法で武器を変形させた。しかし、その銃口から光弾が発射されるよりも早く、フィリーレンの技が決まった。
「遅い。」
『イエス!』『キックストライク! アンダースタンド?』
白い破壊エネルギーを帯びた跳び蹴りが、性癖の力で超加速された状態で繰り出される。瞬く間に彼女の細い脚がクヴァルの胸板を穿ち、華麗なライダーキックを叩き込んでいた。「エクスプロージョン」のとき以上に派手な爆発が発生し、怪人の全身が吞み込まれる。
「決まったね。」
パンパンと手をはたき、むふーとドヤ顔をするフィリーレン。けれども、勝負はまだ決していなかった。
「――ゼニス様、ありがとうございます。この狩り、必ずや成功させてみせます!」
爆死したかに思われたクヴァルが、肉体をむくむく膨張させて一気に巨大化したからである。身長数十メートルはあろうかという巨体を見上げ、フィリーレンは相変わらずの無表情で問うた。
「どうして大きくなったの? 魔法を使ったわけではなさそうだけど。」
「ゼニス様に取り込まれても、私はただではやられなかった。ゼニス様の肉体から分離、解放される寸前で、あのお方の細胞からエネルギーを抽出しておいたのですよ。コイン状に凝縮したそれを使えば、攻撃に耐えて巨大化することさえ容易い!」
「しぶといんだね。」
電磁レイピアを構えたメカ怪人を眺め、魔法使いは小首をかしげた。
「どうしようかな。このサイズで、かつ高い知性を持った敵と戦うのは久しぶりなんだよね。」
「いくら発動速度が上がろうとも、巨大化して能力値も上昇した今の私には、並大抵の技は通用しませんよ。形勢逆転ですね、フィリーレン!」
クヴァルは勝ち誇り、小さなエルフを踏み潰そうとした。