「なるほど。状況は理解できたわ」
フィリーレンから事情聴取を終え、お菊は頷いた。
「クヴァルを大人しくさせてくれてありがとう。後は任せても大丈夫かしら?」
「うん。万が一また暴れたら、私が黙らせるよ。」
しれっと怖いことを言うエルフの魔法使い。
と、同時に、お菊の背後に桃色の扉が現れた。ダレンが――もしかしたらBLACON・SUNかもしれないけども――帰りのゲートを用意してくれたらしい。
「こっちこそ、色んな話を聞けて楽しかったよ。お菊たちレジスタンスは、本当に超次元界の平和のために尽くしているんだね。私も……」
「あっ、ごめんなさい。私、そろそろ拠点に戻らなきゃ!」
何か言いかけたフィリーレンだったが、慌てているお菊の耳には届かなかった。「じゃあね!」と、ひらひら手を振ってドアの向こうへ消える。
「……私も力を貸そうかな、って言おうとしたんだけどな。」
銀髪ツインテールのエルフは、眠そうに目を細めたしょんぼり顔になった。セリフの最後に「。」が付いていない辺りから察してくれないかな、と期待していたが、会ったばかりのお菊がそこまで察せるはずもなかったのだ。
「よし。お菊を追いかけて、レジスタンスに入れてもらおう。」
協力を申し出たのは軽い気持ちからだった。が、こう話の途中で帰られると、何が何でも話の続きを聞いてもらいたくなってくる。
フィリーレンは意識を集中し、ゲートを開こうとした。そこでまた考え込んでしまう。
「……レジスタンスの拠点の場所、聞き忘れちゃった。」
目的地の正確な座標が分からなければ、そこへ続く門を開くことはできない。まあ、そもそも彼女は平民階級なので、通常の「どこにでも行けるドア」しか作れないのだが。
となると、現状では「超次元界中心部へ向かって旅をして、道中でレジスタンスについて尋ねて回る」以外に方法はなさそうである。
「旅に出ようかな。」
エルフは再び指輪をはめ、魔法を使った。
「彼、まだそんなに遠くへは行っていないはずだね。」
『テレポート・ナウ!』
「うわっ、何だいきなり⁉」
三日月型の剣を肩にかつぎ、森の中を颯爽と歩いていた狼の剣士。ちょろちょろ流れる小川を見つけ、どれ水浴びでもするかと考えていた矢先だった。
鎧を脱ごうとした刹那、目の前にさっきのエルフの魔法使いが出てきたので仰天したのである。
「驚かせちゃってごめんね。ちょっと話があるんだ。」
フィリーレンはほとんど表情を変えないまま謝り、先刻レジスタンス組織「イーシュ・バール」のお菊と会ったこと、彼女たちに協力したいと思ったが話の途中で帰られてしまったので追いかけたいことを話した。
「かくかくしかじかで、旅に出たいんだよね。でも長旅になりそうだから、私一人で行くんじゃなくて、できれば腕の立つ人を連れて行きたいんだ。」
「それで、この俺に声を掛けたと?」
「うん。クヴァルを一蹴した君なら、頼りになりそうだし。」
剣士はエルフをじっと見つめ、しばらく考え込んだ。
「……俺は一匹狼。ゼニスから解放されて千年ぶりにシャバの空気を吸えたが、これといってやりたいこともなかったところだ。お前と旅をすれば、暇潰しくらいにはなるだろう」
クヴァルと交戦したときも、彼は行き場を失った怒りを気まぐれで敵にぶつけていた。旅をしながら魔法使いを守り戦う役目は、ほどよい刺激を与えてくれそうだった。
「それじゃあ、引き受けてくれるの。」
「ああ」
「ありがとう。」
ぺこっと頭を下げるフィリーレン。
こうして、一人目の仲間が加わった。
「ねえ。」
「何だ」
静かな森の中を進む傍ら、二人は淡々と会話する。
「一緒に旅をすることになったんだから、名前くらい教えてほしいな。」
「フン、良いだろう。俺の名は『露鬼』。ちなみに性癖と能力は、ここ数日地方を回ってライブをやっているロシュツジカとやらとほぼ同じだ」
「つまり、『露出狂』?」
「ああ、そうだ」
裸体を他人に見られているとき、見られている部位と、見られている時間に応じて技の威力が上がる――以上がロシュツジカの能力だった。露鬼も彼女同様、黒い鎧を脱いで裸を晒すことで力を増す。
なお彼が使用している原典には、鎧を脱ぎ捨てて水浴びをしたシーンが原因で、その正体が人間であることがバレた回がある。
「じゃあ、私の性癖と相性が良さそうだね。」
「ん? どういう意味だ……?」
露鬼は首を傾げた。
「まあ良い。それよりフィリーレン。お前、本当に俺と二人だけで旅をするつもりか?」
「今のところはね。何か問題ある?」
「普通、こういうパーティーは四人前後いるものだろう。二人では少なすぎる気がするが」
「露鬼には、誰か誘うあてがあるの。」
「なくもない」
剣士は鼻を鳴らした。
「お前も知っている人物だ」