「……で、何で私なんかを訪ねて、戻ってきたんですか?」
木の幹にもたれて座っていたクヴァルは、弱々しい声で尋ねた。
まだ完全には回復していないと見えるが、あれだけ激しく戦ったにもかかわらず目立った傷が残っていない。意識を取り戻してすぐ、自身の回復魔法で治癒させたのだろう。
「フィリーレンの話によると、俺たちが探しているレジスタンス組織には、ゼニスを倒した戦士のうち二人が所属しているらしい」
電球頭の怪人の側へ屈み込み、露鬼が言う。
「彼らに会えば、お前もゼニスの、自称『神』の死を受け入れられるんじゃないかと思う。共に来ないか、クヴァル」
「嘘だ。ゼニスが死ぬはずがない。あのお方は誰よりも強いのです。だから、いつか必ず復活する!」
頑なに首を振るクヴァルに、フィリーレンも語りかけた。
「本当にゼニスが最強だったのなら、なぜクヴァルや露鬼たちを取り込む必要があったの? 彼は強くなんかなかったよ。弱かったからこそ、彼は他人の力を奪わなければ生き続けられなかった。弱かったから、レジスタンスや百合・BLレンジャーに負けたんだよ。」
「し、しかし……」
なおも決心がつかずにいるメカ怪人。狼の剣士はため息をついた。
「ともかく、一度レジスタンスの連中と会って、じっくり話してみたら良いんじゃないか? その結果お前が納得するとしてもしないにしても、このまま何もしないよりはずっと良いはずだ。気持ちの整理をするためにもな」
「私たちとしても、パーティーの人数は多い方が良いからね。戦士ポジションは露鬼が、魔法使いポジションは私が取ってしまったけど、まだ僧侶ポジションと勇者ポジションが残っているよ。」
「うーむ……」
クヴァルは俯き、少なく見積もっても十分以上はうんうん唸りながら悩み続けた。シンプルに判断が遅い。即答できないのは、覚悟が甘いからかもしれない。
やがて彼は顔を上げ、杖を支えにして立ち上がった。二人を正面から見据える。
「良いでしょう。ただし、条件があります」
「何かな。」
「ゼニスが本当に死んだという現実を受け入れるために、私には時間が必要です。それまでの間、酒を飲んで己の心を誤魔化す程度のことは、許していただけないでしょうか」
「いいよ。」
フィリーレンは即答したが、またしても眠そうなしょんぼり顔になっている。
「クヴァルが僧侶ポジションかと思ったけど、これはとんだ生臭坊主になりそうだね。」
何だかんだで、二人目の仲間が加わった。
それから何日か歩いた。森を抜け、川を渡り、ときには小さな村の宿屋に泊まったりもした。
今のところレジスタンスに関する情報は得られていないが、着実に中心部へと近づいている。立ち寄った村の酒場で、一行は木製ビールジョッキ片手に乾杯していた。
「フィリーレンはアルコールを飲まないのですか?」
浴びるようにビールを飲みながら、クヴァルが問う。
「私はそんなにお酒に強くないから。クヴァルこそ、いくら現実を受け入れるのに時間がかかるからって、飲みすぎだよ。」
「知らないのですか? 酒は百薬の長なんですよ」
どういう原理なのか機械の肌を赤くし、電球頭の怪人はドヤ顔で言ってのけた。
なお、「酒は百薬の長」とは本来、「適量の酒はどんな良薬よりも効果がある」があるという意味なので、飲みすぎたら全然意味がない。クヴァルはとんでもない教育を受けている可能性がある。
「酒も良いが、料理もちゃんと味わって食えよ」
露鬼はというと、馬鹿でかいサイズのハンバーグを注文してかぶりついていた。彼の故郷では、一生懸命頑張った戦士を労わるときに馬鹿でかいハンバーグを食べる風習があったとかなかったとか。
食事のときはさすがに鎧のヘルメット部分を脱いでおり、やや長めの黒髪で、男らしく端正な顔立ちの青年の姿を晒している。
「ハンバーグ、私も一切れ貰っていいかな。」
「好きにしろ。何ならもっと食べてもいいぞ」
性格のまるで違う三人だが、特に喧嘩もせず、仲良くやっている。
「じゃあ、遠慮なく。露鬼、『あーん』しろ。」
「なぜに命令口調⁉」
「あーん。」
口を開けて目を閉じるフィリーレンと、困惑し、恥ずかしいのか赤面している露鬼。二人をよそに酒を飲みまくるクヴァル。
平和なひと時は、酒場へ駆け込んできた一人の超次元生命体によって中断された。
「……た、大変だ! 突然村へ押し入って来て、暴れてる奴がいる!」
「事件だな」
「事件みたいだね。」
「ウイー、ヒック、ヒック」
三人は顔を見合わせた。そして、フィリーレンと露鬼は目で合図した。
「クヴァルは完全に酔っぱらっているね。」
「置いて行こう」
「そうだね。」
メカ怪人を残したまま、二人だけで出撃。会計を済ませて酒場を出ると、騒ぎが起こっている村の広場へ向かった。