「お前らを倒しても、お前らの心は壊れねえだろ? 俺はお前らが信じる繋がりが切れて、絶望する姿が見たいんだよ!」
見れば、海賊モチーフで青い皮膚の怪人が、フック状の義手になった左手を振り回して暴れている。右足も義手のようで、眼が六つある頭部は海賊帽っぽい形だ。口元には、髭のような触手のようなパーツが垂れ下がっている。
「待て!」
露鬼とフィリーレンが駆けつけると、海賊っぽい怪人はゆっくりと振り向いた。
「何だあ、お前たちは?」
「我が名は露鬼。旅の者だが、悪事を見過ごすわけにはいかない」
「私は『葬送のフィリーレン』。」
青年が狼を模したヘルメットを被り、エルフが魔法の杖を構える。怪人は二人を見回し、「葬送の何とかってのは聞いたことがあるな」と呟いた。
「初めまして、だな。俺の名はネンクロフィ。超次元界をバリバリ股にかけるハンターだ」
「目的は何だ。どうしてこの村を襲った!」
三日月型の大剣を召喚し、吠える露鬼。
「名前の通り、俺の性癖はネクロフィリア、死体嗜好症ってやつでな。定期的に新鮮な死体を見ねえと、欲求不満で頭がバグっちまうのさ。だから狩るんだよ、この世界に転がっている命をな!」
死体嗜好症。異常性癖であるそれは、レジスタンスのダレンのと同じ性質である。しかし、ダレンが自身の性癖を恐れ、一時期は隠していたのに対し、ネンクロフィは開き直っているというかあけっぴろげだ。堂々と性癖を明かし、欲望に忠実に生きている。殺しさえ厭わない。
性癖を持つ者の性格が攻撃的であるか否かによって、ここまで大きな差ができてしまうものなのだろうか。
ネンクロフィはゲラゲラと笑い、おもむろに右手を前に出した。
「冥土の土産に教えてやるよ。俺の右手にはな、触れた人の記憶を読み、その記憶の中にある過去の存在をコピーして実体化させる能力がある。殺す寸前の獲物をこいつで精神的にいたぶるのが、俺は大好きでね」
二人の表情が強張ったのにも構わず、続ける。
「追い詰めたターゲットの前に、そいつの亡くなった母親のコピーを出現させてやるのなんかが定番だよなあ。で、まず母親の方から斬り殺す! 次に、母との二度目の別れを体験し、絶望しているターゲットを殺す! バリバリに面白い娯楽だぜ。ガーッハッハッハ!」
「――黙れ」
低い声で露鬼が言い放った。目にも止まらぬ速さで大剣を振るい、斬撃を飛ばす。
「ぐあっ⁉」
不意を突かれ、ネンクロフィは反応が遅れた。橙色の斬撃をもろに喰らい、数メートル吹き飛ばされる。
「悪いな。お前の話を聞いていると、虫唾が走っていけない」
不機嫌そうに首をゴキゴキ鳴らし、剣士はフィリーレンの方を向いた。
「さっさと片付けるぞ」
「それなら、いい方法があるよ。」
意味ありげに微笑むエルフ。
「言ったでしょ。『私の性癖と相性が良さそうだね』って。」
「……そういうことか!」
黒い仮面の下で、青年が大きく目を見開いた。
「試してみる価値はありそうだ」
「何をごちゃごちゃ相談してやがる!」
体勢を立て直したネンクロフィは、怒り狂い、左腕のフックを掲げて突進してきた。
「頭に来たぜ。お前ら二人とも、記憶を読み取ってやる。家族や恋人のコピーを出しまくって、俺がそいつらを全員殺して、絶望させてから殺してやるぜえ!」
「……行くぞ、フィリーレン」
「うん。」
一方の二人は頷き合うと、まず露鬼から動いた。身に着けているすべての鎧を装着解除し、辺りへ脱ぎ捨てる。端正な素顔と、シャツの上からでも分かる引き締まった肉体が露わになった。
さらに、シャツをも脱いだ。腹筋が割れた、細マッチョボディーを晒す。
彼が脱衣していく様子を、エルフの魔法使いは真顔でじっと眺めていた。
「一体、何を……」
するつもりだ、と言おうとして、ネンクロフィは息を呑んだ。なぜかは分からないが、二人の戦闘力がみるみるうちに上昇していくのを感じる。
彼は知らなかったのだ。フィリーレンの性癖がスコポフィリーで、露鬼の性癖が露出狂であることを。
脱衣する様子を見られることによって、技の威力が上がる露鬼。他者が脱衣しているところを眺めることで、技の発動速度を上げられるフィリーレン。とあることをやるだけで、両者の性癖のパワーは最大限に引き出すことができる。すなわち、露鬼が脱いで、フィリーレンがそれをガン見すれば良いのだ。
「脱いだついでに、こちらの姿へチェンジさせてもらうぞ。『露出アクセス』! ハアッ!」
青年の腕に、ブレス型のアイテムが装着された。それを取り外し、携帯電話のようにパカッと開いて突き出す。
「サモン、スピリットオブジアース!」
狼モチーフの、銀色のヒーローの姿へと変わった。黒い剣士の原典は、この銀色の戦士の原典と表裏一体。状況に応じて、露鬼はそれらを使い分けることが可能なのである。
「閃烈の銀狼! ロシュシルバー!」
そして、かっこよくポーズまで決めた。