フィリーレン一行は、城壁に囲まれた小都市を訪れていた。
観光目的ではない。レジスタンスの拠点の場所について、聞き込みをして情報を集めるためだ。
「ふむふむ。」
立ち寄った喫茶店のカウンターで、エルフの魔法使いはマスターと何事か熱心に話し合っていた。やがてテーブル席へ戻って来て、露鬼とクヴァルに告げる。
「良い情報を仕入れてきたよ。」
「レジスタンス関連か⁉」
「仕事が速いですね」
「ううん。」
フィリーレンは首を振った。口元にはむふーという笑みが浮かんでいる。
「魔法関連。」
がっかりしている二人には構わず、続けた。
「人間界には、魔法をカードに封じ込めたものがあるという噂を聞いたんだ。ちょっと寄り道して、人間界を覗きに行こうよ。私のコレクター魂がうずいちゃった。」
さてどうしたものかと、露鬼がクヴァルと顔を見合わせる。
別に急いでレジスタンスを探しているわけではないので、多少の寄り道は全然問題ない。ただ、問題は帰り道だった。
「……しかし、俺たちは皆平民階級。自由にゲートを開けられるわけではない。行くのにも一苦労だし、同じ場所に帰ってこれる保証もないぞ」と、露鬼は慎重に言った。
「では、私があの木に『早く育つ魔法』をかけておきましょう」
小都市の城壁近くに生えている一本の木を、喫茶店の窓から指差す。クヴァルの提案は魅力的だった。
「天に届くほど高く伸びますから、目印にうってつけです。ゲートを開けてみて、高い木が近くに見えるかどうかを判断基準にすれば、迷わず帰ってこれるでしょう」
「いいね、それ。採用だ。」
フィリーレンも賛成した。
そういうわけで、人間界へ寄り道することになった。
何十回にも及ぶトライアンドエラーの果てに、ようやくゲートは目的地に繋がった――中古の玩具・トレカ販売店、ホビーオンに。
「ここだね。」
エルフを先頭に、一行は桃色の扉を抜けて人間界へ降り立った。アスファルトに足が触れるやいなや、目の前の自動ドアをくぐる。
「へえ。このドアは、『開けゴマ』の呪文がいらないんだね。どんな魔法が使われているんだろう。」
自動ドアに興味津々のフィリーレンの肩を、クヴァルがぽんと叩いた。
「解析は貴方の得意分野でしょうが、今回の目的はカードでしょう? さあ、先に進みますよ」
「分かったよ。」
素直に頷きかけて、エルフはぴたりと動きを止めた。
「クヴァル。今、どっちの手で私の肩を叩いたっけ。」
「左手ですけど」
「そっか。良かった。右手で叩かれていたら、一日に一発しか使えない爆裂魔法で、クヴァルをぶっ飛ばしていたかもしれないよ。」
「笑顔でとんでもないこと言わないで下さいよ……」
電球頭の怪人は身を震わせた。ネンクロフィの腕を移植したことで、彼は右手で触れた相手の記憶を読み、その記憶の中にあるものを実体化させることができるのだ。
もちろん仲間の記憶を不必要に読むような真似はしないつもりだし、ましてやフィリーレンに喧嘩を売るような命知らずでもなかったが。
「おい、魔法のカードというのはあれじゃないのか」
狼の剣士が顎で示す先には、ショーケースに入ったカードがあった。何棚もずらりと並んでいる。
「そうみたいだね。ちょっと聞いてくるよ。」
フィリーレンはててっとカウンターへ駆け寄り、店員を呼び止めて質問攻めにした。
「ねえ。魔法が込められたカードがあると聞いたんだけど。」
「えっ⁉ 魔法……あ、ゼロカードのマジックカードのことでしたら、あちらですけど」
いきなり話しかけられた女性店員は、銀髪ツインテールのエルフを前にあたふたしていた。怖々と、ショーケースの一角を指差す。
「ええと、ケース内に展示してある商品は、あちらに。それ以外のものはストレージで、一枚三十円均一で販売しています」
「ありがとう。探してみるね。」
一行はショーケースの前に陣取り、マジックカードを眺めてああでもないこうでもないと議論を始めた。
「これなんか強そうじゃないかな。装備マジックカード、『ナイトゼロアックス』。」
金色の両刃の斧のイラストが描かれた一枚を見て、フィリーレンが評価を下す。
カード下部には、このような効果が書かれてあった。「このカードを装備したモンスターは、元々持っていた『ロスト』及び『リカバー』能力をすべて失う」。「このカードが場にある限り、自分はマジックカードを使えない」。「このカードを装備したモンスターは相手のカードの能力によって破壊されず、攻撃するとき、相手のモンスターの中で最もパワーの高い一体を選んで破壊する」。「『ロスト&リカバー4』」。
要するに、元々の能力を捨てて他のマジックカードを使えなくする代償として、除去効果や破壊耐性を得られる優れものらしい。最後にしれっと「ロスト&リカバー4」と書いてあるのは、攻撃と防御を同時に行える衝撃の新能力である。ゼロカードのルールを何も知らない三人にも、強そうなことが書いてあるのは何となく分かった。
「確かに強そうだが、この魔法を使っている間、他の魔法は使えないんだろう? 一長一短じゃないか?」
「それにこの、一枚で効果が完結している感じがどうも気に食わないですね。最初から持っていた力や、他の魔法を否定している感じがしますよ」
連れは反対したけれども、フィリーレンは「コレクション用だから、実戦で使わなければ問題ないよ。」と押し切った。レジへ向かい、さっきの女性店員を呼ぶ。
「あの『ナイトゼロアックス』というカードについて、少し聞きたいんだけど。」
「はあ、何でございましょうか」
彼女はひどくおどおどしていた。他の店員や客たちも、エルフの魔法使いらを遠巻きに見つめている。たぶん、「やばいコスプレイヤーの集団がいる」と思われているのだろう。
それも当然である。フィリーレンは言わずもがな、露鬼も黒い鎧を装着している状態だし、クヴァルは体が半分機械のようなものなのだから。
「あれは、どうやって使うの。」
「どうやって、と申しますと……?」
「あのカードには魔法が込められているんだよね。その魔法を使うには、買った後でどうすればいいの。」
「……?」
店員は目をぱちくりさせた。
「ええと、ゼロカードというカードゲームで使用できるカードですから、対戦の中で使えるかと思いますけども」
「カードゲーム? 対戦の中で?」
フィリーレンも瞬きを何度かした。
「つまり、魔力は込められていないんだね。」
「はあ」
「あくまでゲームで使うものであって、戦闘には使えないんだね。」
「ええ、そうですけど……」
「分かった。どうもありがとう。」
軽く頭を下げ、踵を返す魔法使い。エルフはしょんぼりした表情だった。
「どうやら無駄足だったみたいだね。露鬼、クヴァル、帰ろう。」
今回、ご迷惑をおかけした作品
・「この素晴らしい世界に祝福を!」
※次回の更新は1週間後の予定です。