ケイイチロウとサクヤは、ツカサを見やった。彼女はお菊らと超次元界へ初突入したときのメンバーでもあり、この三人の中では一番超次元界へ行った回数が多いからだ。
当の本人は銃を下ろし、「あまり役には立てないかも」と肩をすくめる。
「ゼニスと戦ったときに拠点の近くを訪れたけど、あたしたち、あっちの住人じゃないから土地勘がないのよね。あんたたちの案内役にはなれそうにないわ」
「いえ、案内役になるのは、何もあなた方である必要はありませんよ」
クヴァルが前に進み出た。跪いて敵意のないことを示すと、そっとツカサの手を取る――ネンクロフィの腕を移植し、青く変色している右手で。
「記憶の片隅に残っていれば十分です。ちょっと失礼しますよ」
すると、彼の周囲に紫色の淡い光が生じ、ツカサの記憶を元にした松本・オリジン・お菊のコピーが実体化した。
「どうなってんのよ⁉」
「私には、人の記憶の中にあるものを実体化させる能力がありましてね。あなたに聞くよりも、あなたの記憶の中のレジスタンス構成員に聞く方が、正確な回答が得られると判断しました」
メカ怪人はそのまま、お菊のコピー体へ「もしもし」と話しかける。
「レジスタンスの拠点の座標を示す地図を描いてほしいのですが」
「ええ、分かったわ」
どうやら、召喚されたコピーはクヴァルに対し、ある程度従順になるらしい。素直に首を縦に振ったお菊は、彼に渡されたメモとボールペンを使い、すらすらと地図を描いていく。
「ご苦労様です」
電球頭の怪人が杖を一振りすると、お菊は光の粒子になって消滅した。
「これで私たちもレジスタンスに合流できそうです。ありがとうございます」
「ど、どういたしまして……?」
急展開すぎてツカサがついていけなかったのは、言うまでもない。
「この座標へ直行することも考えましたが、バオバブの木をあのままにしておくのはまずい気がしますね。景観保全的な意味で」
「お菊たちに会いに行く前に、元に戻しておこう。大丈夫、クヴァルの腕ならそんなに時間はかからないでしょ。」
さっそく帰り支度という名のゲート作りを始めた、フィリーレン一行。
「なかなかバオバブの木が近い場所に出ないね。」
「もう少し南側だった気がするぞ」
ああだこうだと言い合いながらバオバブの木に近い座標へ飛ぼうとしている彼らを、ツカサたちは困惑して見守っていた。そこに、ナオヤ及び百合レンジャーの三名も遅れて到着する。
ちなみに、裕介と美明日は来れなかった。二人はまだ、湘南エリアへの引っ越しが完了していない。
「かくかくしかじかで……」
ツカサの説明を聞いたカイリは少し考え、「ん?」と独り言ちた。
「ちょっと待てよ。素性もよく分からないこいつらを、すんなり行かせていいのか? もしもこいつらがレジスタンスに接触して悪さをするようなことがあれば、ダレンやお菊に顔向けできないぜ」
実際、零騎士ヒョウガが初めて戦った超次元生命体・ブラッコのように、レジスタンス組織「イーシュ・バール」を狙う輩がいなかったわけではない。カイリの主張には一定の説得力があった。
「大体、フィリーレンはともかく、残りの二人はどう見ても悪者だろ。怪人枠じゃねえか」
「失礼な。これでもか!」
露鬼は憤慨し、いきなりマスクを脱ぎ出した。凛々しい顔立ちを衆目に晒す。
「うわ、びっくりさせんなよ。口裂け女みたいな言い方しやがって。思ったよりイケメンだし」
所詮は超次元生命体、原典のイメージを模倣しているに過ぎないわけだが、それはそれとしてちょっとだけ羨ましい。
「じゃあクヴァルだけだな、怪人枠は!」
狼の剣士のことは「イケメンだから良い人そう」と一旦置いといて、カイリは残る一名をビシッと指差した。
「……え、私のせい⁉ 私が悪者っぽい見た目だから信用されないとでも? 何なんですかこの流れは!!」
「人を見た目で判断するのは良くないよ。」
同じく憤慨しているクヴァルを、フィリーレンがフォローしにかかった。
「そうだよな。いくら貧乳Aカップだからって子供ではなかったりするし、何ならいい大人だったり……」
「誰が貧乳Aカップじゃあーっ⁉」
うんうんと頷いたカイリを、間髪入れず、自称Bカップ・ツカサによる怒りの鉄拳制裁が襲った。
「貧乳……。」
フィリーレンも覚悟を決めた表情で拳を握り固め、驚くほど洗練された動きでパンチを繰り出す。ツカサがカイリの右頬を、フィリーレンが左の頬をぶん殴り、図らずも左右から綺麗なストレートパンチが炸裂する形になった。
「ぐはっ」とよろめいたカイリを一瞥してから、エルフはツカサへ向き直った。視線が交錯したのち、フィリーレンが微笑む。
「君とは仲良くなれそうだね。」
「……あたしも、何となくそんな気がするわ!」
ツカサも優しい笑みを浮かべ、二人はたちまち意気投合してしまった。仲良くなったきっかけが貧乳繋がりなのが、だいぶアレな気はするけども。
「それじゃとりあえず、同盟を結びましょうか。あんたを退屈から救いに来たわ!」
意気投合したついでに、訓練でもリハーサルでもなくただ握手しようと、ツカサが手を差し出した。
「……あ。」
その手を取ったところで、フィリーレンは何か思いついたようだった。
「そうだ、クヴァル。もう一度彼女の手に触れて、お菊のコピーを実体化させて。」
「はあ」
怪訝そうに承諾し、メカ怪人が再び「失礼します」とツカサの腕に軽く触れる。和服で巨乳の女性が顕現するやいなや、エルフは話しかけた。
「私は超次元界の平和を乱す者と戦い、無力化させたことがある。そうだよね。」
「ええ」
「証言してくれてありがとう。クヴァル、もういいよ。」
フィリーレンが指示すると、電球頭の怪人は先刻と同じように、杖を振ってお菊を消滅させた。
「今のは何だったんだ?」
ナオヤの問いに、エルフはすらすらと答える。
「クヴァルが作るコピーは、本物の記憶を受け継いでいる。だから、さっきお菊のコピーが話したことには信憑性があると考えてほしい。その上で聞いてね。」
むふーという感じの自信満々な表情で、続けた。
「お菊が証言した通り、私は超次元界の治安維持に一役買っている。露鬼とクヴァルは、その私が信頼している仲間たちだ。見た目は悪そうかもしれないけど、とても良い人たちなんだよ。だから、私たち三人のことを信用してもらえないかな。」
※次回の更新は1週間後の予定です。