「呆気ない最期だったね」
チェーンソーを引き抜き、つまらなさそうにフレッドは呟いた。
「ダレン! ダレンっ! ……お、おええっ」
相変わらず顔色最悪なお菊の悲鳴は、途中から吐瀉音に変わってしまった。
無理もない。「胸の真ん中辺り」、つまり心臓にごく近い位置に仮想の激痛を与えられている彼女は、今しがたダレンが心臓を貫かれて味わったのと同等の痛みを絶えず受けている。むしろ、よく今まで耐えられたものだ。
「汚いなあ」
吐瀉物を一瞥し、フレッドが仮面の下で顔をしかめる。
「君にもそろそろ死んでもらおうか。量産型だけでなく、通常のリボンズに使われている原典も解放してあげたいからね」
つかつかとお菊へ歩み寄る。彼女のうなじへチェーンソーの切っ先を軽く押し当てたそのとき、死んだはずの男は再起した。
「――彼女に手を出すな」
『ダレンリバイブ・疾風!』
胸に穿たれた穴が塞がっていく。復活を遂げたダレンはスピード重視の青い形態へチェンジし、高速移動を開始した。フレッドの脇をすり抜けてお菊を抱え上げ、そのまま逃走。走りながら前方へゲートを開き、飛び込んだ。
ダレンの性癖「死体嗜好症(ネクロフィリア)」は、異性が瀕死状態になっているのを見ることで発動し、再生能力を含む全能力がアップする。お菊が絶体絶命に陥ったことがトリガーとなり、彼は傷を癒すことに成功したのだった。
「迂闊だったな。彼の性癖を計算に入れ忘れていたよ」
気づけば、他のレジスタンス構成員も姿を消している。ターゲットにまんまと逃げられ、フレッドは悔しそうに唸った。
彼の原典の力は、あくまで戦闘時にのみ発揮される。相手が戦おうとせず逃げに徹した場合は、いくら最強と言えども、無理に追撃することはできないのだ。
「……あと半日くらい寝ていたかったけど、今回ばかりはそうも言っていられないね。」
ザッ、と足音がしたかと思うと、彼の背後にはエルフの魔法使いが立っていた。既にフィリーレン・ファイヤーへの変身を終えている。
いつも通り寝坊した彼女だったが、仲間のピンチを悟って加勢に来たらしい。
「おや、噂をすれば、魔法系原典のコレクターじゃないか。君も叩き潰してあげよう」
「甘く見ないで。私はライダー系以外の原典もたくさん持っているし、ほくろもそんなにないよ。」
フレッドが忘れていたことがもう一つある。今やダレンの「レジスタンス最強」のものは過去のものとなりつつあり、彼との勝負で競り勝ったフィリーレンこそ最強と目されていることだ。
かくして、戦いは次のステージへ進む。
人間界へ降り立ったダレンは、お菊をお姫様抱っこしたままの状態で、病院へ駆け込んだ。BL警察本部のすぐ近くにあるこの病院は、警察関係者もよく利用している。ツカサやカイリをはじめとする仲間も、付近にいる可能性が高い。
ツンデレプタの作戦により、百合・BLレンジャーのほぼ全員が名古屋へ誘導されているとも知らず、ダレンは悲痛な声で訴えた。
「どこにいるんだ、百合・BLレンジャー。お菊を……いや、私たちを助けてくれ。お願いだ、もう一度超次元界を救うのに力を貸してくれ!」
『パーフェクト・アップ! 超次元ライダー・ネトルティ来部!』
強化変身を遂げた美明日が、間髪入れず必殺技「ネトルティ・パーフェクトフィニッシュ」を発動。ネトルの幻影を伴った斬撃を高速で放ち、ツンデレプタの胴を袈裟懸けに斬った。
やったか、と思われたが、赤いカマキリ怪人の胸には十字の傷が残ったのみ。まだ生きていた。
「ハッハッハ。残念だったな! 俺の原典は強さこそ微妙だが、やられたと思ったら実は生きていたという展開が原作にある。一度殺された程度で死ぬものか!」
「『殺された程度で死ぬものか』って……あなた、今自分がめちゃめちゃ矛盾したことを言ったのを分かっているの? 要するに、一回死んでいることには変わりないじゃない」
理系女子の割に手厳しい添削を行う彼女をよそに、今度は裕介がツンデレプタへ仕掛けた。
「なら、もう一回ぶっ飛ばすだけだぜ」
珈琲サイブレードを二刀へ分離させ、敵の胸部の傷を狙って、十文字の巨大な斬撃を飛ばす。
「――『オメガ十字衝』!」
「ぐわああああ~っ⁉」
原作の恩恵で一度はコンティニューできたツンデレプタも、さすがに二度目はなかった。大爆発に呑み込まれ、その生涯を終える。
「クソッ。陽動が目的なだけあって、無駄にしぶとい奴だったな」
こうしている間にも、超次元界ではカマキリ怪人の上司(?)が暴れているかもしれない。急いで変身を解いた裕介は、先輩であるカイリに電話を入れた。
『デーッ・デッデッデッ♪ デーッ・レッレッレッ♪』
ただ、着メロがハードオンの店内BGMだったのには閉口した。さすがにはまりすぎだろ。
「……もしもし、カイリ先輩? 早川です。実は先輩方に至急、お伝えしなければならないことがあります」
ツンデレプタは百合・BLレンジャーを陽動するのが目的だったこと、陽動している隙に敵は超次元界へ攻め込むつもりらしいことを手短に伝え、通話を終了。来たときと同じく珈琲ライナー、来部ファイヤーへ乗り込み、美明日とともに超特急で関東へ戻った。
「まさか陽動作戦だったとはな」
「でも、静岡まで飛んだ辺りでシルバーから連絡が来て良かったじゃない。名古屋に到着してから引き返してたら、もっとタイムロスしてたわ」
戦闘機型マシンをフルスピードで操縦し、仲間たちよりも一足先に関東へ帰還したカイリとツカサ。BL警察本部で作戦会議をしようかと思っていた折、すぐ近くの病院へ見慣れた顔が入っていくのを認めた。
「んっ? もしかして、ダレン?」
「と、お菊さん?」
おーい、と声を掛けると、彼はお姫様抱っこをしたまま振り向いた。安堵した表情を浮かべている。
腕の中でぐったりしている和服美人は、目を閉じたまま低く唸るばかりだ。意識が朦朧としているらしい。
「助かったぞ、百合・BLレンジャー。頼む、どうかここでお菊の手当てをしてやってくれないか。私は人間界の医療制度に疎い上に、保険証の類を持ち合わせていない。貴様たちなら、彼女に然るべき処置を施せるだろう」
「それはいいけど、一体何があったのよ?」
「実はな……」
病院の受付に向かって小走りに進みながら、ダレンは語った。突如、原典の解放を謳う正体不明の敵が現れたこと。敵は超次元ライダーキラーとでも言うべき力を持っていて、レジスタンスは手も足も出なかったことを。
「フレッドと言ったか。奴には『ほくろフェチ』の性癖があり、ほくろがある箇所へ攻撃をヒットさせると、そこへ仮想の激痛を継続的に叩き込むことができるようなのだ。お菊は奴の毒牙にかかり、心臓にかなり近い位置へ激痛を与えられ続けている。おそらくフレッドを倒さない限り、奴の能力は解除されない。今のまま放っておけば、ショック死してもおかしくはないぞ」
さらに、フレッドの変身した牛モチーフの戦士により、お菊は首筋を浅く斬られていた。出血量こそ大したことはないものの、胸部への仮想の激痛と相まって、きわめて危険な状態である。
「マジかよ。ヤバいな」
語彙力ゼロみたいな感想を漏らしたカイリは、お菊を抱っこするダレンの背中を押し、歩調を速めた。
「なら尚更、早く医者に診せないと……」
「「ちょっと待った!!」」
どこからか出し抜けに声が上がったかと思えば、ツカサとカイリはシャツの襟元をぐいと掴まれ、えいやっと放り投げられていた。
「おわーっ⁉」
「きゃーっ⁉」
柔道の達人のように綺麗に投げられてしまい、二人は病院の床へびたんと叩きつけられる。頭と尻がひどく傷んだ。
「な、何すんのよっ!」
プンプン怒っているツカサ。彼女の視線の席には、それぞれ金と銀のジャケットを羽織った男女が仁王立ちしていた。
「――百合エックスのカイリと、BLエックスのツカサだな? 悪いが、お前たちをこの病院へ入れるわけにはいかない。表に出ろ!」
「そうよ、表に出なさい! 兄の言うことが聞けないの?」
男の方は金のメッシュを入れた茶髪で、ポニーテールの女の方はどうやら妹のようである。
※次回の更新は1週間後の予定です。