「まさか貴様ら、フレッドの同類か」
険しい顔つきになったダレン。待合室の椅子へお菊を寝かせて戦闘態勢へ入ろうとした彼を、カイリは慌てて止めた。
「よせよ。死体嗜好症のパワーである程度治癒したとはいえ、お前だって消耗してるはずだろ。それに、向こうはお前の使う原典を把握している。手の内を知られている状態で戦っても分が悪い。ここは俺とツカサに任せとけ!」
「大丈夫よ。すぐに片付けるから!」
「……分かった。頼んだぞ」
ダレンの了解を得て、ツカサとカイリは敵の兄妹を連れて病院の外へ、正確には広い駐車場へ出た。別に、敵の言うことを素直に聞きたかったわけではないのだが、やはり他の患者を巻き込むのはNG。結果的にはすんなり「表に出た」わけである。
「てか、金と銀のタッグ戦士って、俺たちとキャラ被りすぎだろ。さてはお前ら、対ダレン特化のフレッドみたく、対百合・BLエックス特化の敵だな?」
「ご名答」
察しがいいな、と兄の方が薄く笑った。
「ではさっそく、命を貰う。Liberation From Origin……『LFO』の懐刀である、この高音ウイングスがな!」
兄妹は操縦桿型のアイテムを取り出し、息の合った動きでそれに赤い小型アイテムを装填した。
さらっと、敵組織の名前らしきものも出てきた。これまでは無貌支持派だの虚無英雄会だのと漢字五文字で堅苦しいのが多かったけども、急に意識高そうなのが出てきた。何なの? ベンチャー企業か何かなの?
「「――チェンジソウル、セット。レッツ、高音!」」
パイロット服をモチーフにしたシャープなアーマーを纏い、最後に「メットオン!」と叫んでヘルメットを装着。金色の戦士に変わった兄にはX字のアイレンズが、銀色の戦士になった妹にはWに似た形のアイレンズが備わっていた。
「ブレイク限界。『高音ゴールド』!」
「キラキラ世界。『高音シルバー』!」
兄妹はひらりと跳び上がり、宙返りを決めた華麗に着地した。
「「テイクオフ! 高音ウイングス!」」
負けじと、ツカサとカイリも「警察チェンジ!」「怪盗チェンジ!」と叫んで変身。一刻も早くお菊を救うため、今回は名乗りを省略した。
「ははーん、分かったぞ。兄妹コンビってことは、お前らの性癖はブラコンとシスコンだろ。ハザード性癖トリガーがない限り真価を発揮できない性癖なんて、怖くも何ともないぜ!」
またもや推理を披露するカイリだったが、今回はハズレだった。「いやいやいや」と速攻で否定される。
「確かに俺は妹のことを大切に想っているし、妹を守るためならば世界を敵に回しても構わないとさえ思っているが、それはそれとしてシスコンではないぞ?」
「私も兄のことを心から愛しているし、兄を傷つける者は地獄に落とす覚悟をしているけれど、それはそれとしてブラコンではないわよ?」
「自覚症状ゼロかよ⁉」
性癖を自覚し、それと深く向き合った者だけが性癖のパワーを引き出せる。傍から見ればどう考えても重度のシスコン及びブラコンでも、本人が気づいていなければ宝の持ち腐れなのだ。
「名前から察するに、やっぱり音に関する性癖なんじゃないの?」とツカサ。
「あんたたち、高音が好きなんでしょ」
「その通り。俺と妹は、楽器から奏でられる美しい高音の響きを愛している。中でも、エレキギターは格別だな。あの高く擦れるような音がたまらない」
なかなかマニアックな性癖が来た。
確かに、ギターは形状が女性の体を模していると言われることもあり、どこかエロティックな雰囲気漂う楽器かもしれない。くびれもあるし。いや、でもギター本体じゃなくてこいつらは音が好きなんだった。「ごめんなさいやっぱり共感できません」と、ツカサはハードオンで見かけたビンテージギターを思い出しながら心の中で謝った。
「ふーん。あたしたち時間がないから、サクッと性癖の能力を説明してほしいんだけど」
「良いだろう」
意外にもあっさりと、高音ゴールドが承諾する。
もしかしたら、彼もツンデレプタ同様に時間稼ぎが目的なのかもしれない。ツカサたちを足止めしているだけで、お菊は弱り続ける一方なのだから。能力をバラして多少なりとも時間を稼げれば儲けもの、くらいに考えているのかも。
「俺と妹の『高音好き』性癖は、好みの高音を聴いている状態であればあるほど、攻撃の命中率を上げる。ちなみに、質の良いエレキギターの高音を聴いているときの命中率は、ほぼ100%だ」
「何だ、大したことないじゃんか」
小馬鹿にしたように、カイリが肩をすくめた。
「そんな都合よく、戦闘中にエレキギターの音が聴こえてくるわけないしな。ましてや、病院の敷地内なんて静かなもんだぜ」
「甘いわね」
高音シルバーは胸を張って言い返した。
「今はマスクを被っているから分からないでしょうけど、私と兄は常時ワイヤレスイヤホンを装着している。そして、プロのギタリストが奏でる最高音質のギター音を聴きまくっているのよ。イヤホンにはノイズキャンセリング機能も付いているから、ちょっとやそっとで音をかき消すことはできないわ!」
「つまり、お前らの技の命中率は常にほぼ100%ってことか」
フレッドをはじめとする今回の敵は、やたら用意周到だ。イヤホンの充電が切れるみたいなラッキー展開には、期待できそうにない。
ほぼ確実に当たる攻撃を凌ぎきり、相手を上回る火力でぶっ飛ばす。現状、それくらいしか攻略法は思いつかなかった。
「上等だ。やれるもんならやってみやがれ!」
カイリはツカサと手を繋ぎ、百合ブラックとBLホワイトへ強化変身した。
「調査の通り、複数の原典による多段変身が可能なようだな。面白い。それでこそ、解放しがいがあるというもの!」
「叩き潰してあげるわ!」
ダガーナイフ型の武器を召喚し、対する高音ゴールド&シルバーは必殺技を発動した。
『ミッション・ワン!』
『ミッション・ツー!』
炎と氷のエネルギーを帯びた斬撃を、ナイフから飛ばす。必中効果付きの二色の攻撃に、ツカサとカイリは「百合&BL・マーブルスクリュー」で応戦した。
一方は、赤と青。もう一方は、黒と白が螺旋状に混ざり合った稲妻。侵略者とヒーローが今、激突した。