一時間後。
ダレンとお菊は病院で手当てを受け、ベッドへ横になっていた。医者によると「命に別状はないが、しばらくは安静に」とのことだった。
特にダレンは目を怪我し、視力が低下している。一応、ダレンアルファへ変身して戦うことはできるが、当分は戦闘においてポテンシャルを発揮できないだろう。
「クイーンパレット」で対象を癒すこともできるゴークイーンズが来てくれれば、二人の傷も早く治るはず……なのだが、彼女たちはまだ到着していない。専用マシンを持たない分、他のメンバーと比べて移動に時間がかかっているのだ。
「それにしても、同じくマシン未所持勢のヒョウガよりも遅いのはどういうことなんだ」
隣のベッドで寝転がっているお菊へ、ダレンは小声で尋ねてみた。
「ほら、彼は彼女さんがリッチだから。高くて速度の出る車で送迎してもらって早く着いたのよ、きっと」
「なるほど。そういうこともあるかもしれない」
何にせよ、早く来てほしいものだ。怪我さえ治れば、入院する必要もなくなるのに。
真っ白な天井を眺め、ダレンは首を長くして女王たちを待っていた。
噂されていた当の本人、ヒョウガを含む百合・BLレンジャーは、BL警察の取調室にてフレッドを取り囲んでいた。
金髪碧眼の青年は後ろ手に縛られた上で、さらに椅子に縛りつけられている。戦隊の面々は、フレッドの前に置かれた机にわらわらと群がっていた。
ちなみに、ヒョウガは電車の乗り換えがスムーズにできたので早く到着しただけだった。サヤさんは今日、お仕事である。
「……つまりお前は、レジスタンスの人たちを襲ったのは、あくまでLFOのボスの指示に従った結果だと言うわけだな?」
「そうだね」
先刻の戦いの結果、フレッドの頬には痣が残っている。もはや抵抗は無意味だと悟ったのか、彼は素直にケイイチロウの質問へ答えた。
「結構。では次に、LFOという組織の詳細を教えてもらおうか。お前たちは一体、どういう集まりなんだ? 俺たちの能力や、これまで戦った敵について。妙に詳しく知っているようだが」
「簡単に言えば、悪しき魂の集まりって感じかな」
「いや簡単に言いすぎて分かんねえよ。ポエマーかよ」
「悪しき魂に天罰を下す!」と言わんばかりに、カイリがツッコんだ。ここで尋問役が彼に交代する。
「もうちょっと分かりやすく説明してくれよ。あれだぞ。お前の今の回答、国語のテストの『○○字以内で要約しなさい』って問題に対して、めちゃくちゃ抽象的なこと書いて字数めちゃくちゃ余ってる的なやつだぞ」
「あんたも例えが分かりにくいのよ!!」
そもそも、尋問している相手は普通の人間ではない可能性が高い。人間にしか通じないような例えを持ち出してどうするのだ。
毎度のことながらツカサとカイリの漫才が始まりそうになったので、ナオヤが二人を遮って「ともかく」と続けた。
「どういう出自の者たちが、何の目的で集っているのかを教えてもらおうか」
「出自は色々だけど、ざっくりまとめると、今までに君たち百合・BLレンジャー、及びその協力者であるレジスタンスに壊滅させられた組織の残党の集まりってところかな。一例を出すと、僕やツンデレプタは高次元生命体だ。高音ウイングスは、無貌支持派の下位序列だったらしい」
「俺と同じ、高次元生命体だと……?」
まじまじと相手を見つめ、ナオヤは呟いた。
「馬鹿げている。恨むなら、次元大魔王や四天王を倒した戦隊ではなく、彼らを操って戦争へ駆り立てた一部の超次元生命体を恨むべきだろうに」
「君の言うことも分かるけど、全員が全員そう考えているわけじゃないんだよ。元々僕ら高次元生命体は、超次元生命体より劣る存在として生まれた。どのみち奴らに抵抗しても無駄だったし、自分たちと和解しようとしなかった戦隊にも落ち度はある……と考える層も、一定数いる。僕を含めてね。ま、もちろん超次元生命体のことも憎んでいるけどさ」
自称「神」も似たようなことを話していたっけ。
「ナオヤ先輩は普通の高次元生命体とは違うし、鍛錬を積んでいるからともかくとして、お前は確かに弱かったな。対超次元ライダーでさえなければ、雑魚同然だ」と、辛辣にコメントする裕介。
「だよね~。やっぱり高次元生命体って弱いんだね。ひょっとして、そのコンプレックスゆえに超次元ライダーをぶっ潰す力を得たんだったりして! ってウミカはウミカは割とひどいディスりを交えつつ推測してみたり!」
「うう……」
意外とメンタル弱いのだろうか、フレッドは涙目になっていた。たぶん、ウミカの推測は図星である。
流星のツンデレプタは己の弱さを自覚し、「だが時間稼ぎ要員としては適任だ」と開き直っていた。中途半端に強さにこだわっているフレッドは、精神的には彼より一段劣るのかもしれない。
ともあれ、これで高音ウイングスが無貌支持派第三位について詳しい理由も分かった。ナオヤは取り調べを続ける。
「皆それぞれ百合・BLレンジャーに思うところがあって、LFOに入ったのか?」
「うん。あ、少し補足しておくと、君たちではなく超次元生命体の方に思うところがある連中もいるよ。それこそ、僕以外の高次元生命体とかね。志望動機は人それぞれさ。人間界の会社だって、そういうものだろう?」
「会社か。例えとしては的確かもな。お前も、多少は人間界の事情を知っているらしい」
腕組みをし、ナオヤは話をまとめた。
「すると、こういうことか? LFOのボスは『原典の解放』という目的を掲げているが、お前たち構成員はその目的の達成のためというより、むしろ『戦隊や超次元生命体の虐殺』という手段に惹かれて組織に入った。人間界のサラリーマンが、経営理念の実現のためというよりもお給料を貰うために入社するみたいに」
「そうそう、そういうこと」
なかなかに個人主義的というか、一枚岩ではなさそうな組織だ。
「分かった。では、お前たちをまとめ上げているボスについて聞こう。できるだけ詳しく教えてくれ」
「……ボスの名は、『彗星の濡レドラン』という。青い皮膚に銀の鎧を着た怪人で、顔の造形は人に近いが、どことなく蝉を思わせる外見だ。長槍を武器として使う」
真剣な表情で、フレッドは語り始めた。
「名前の通り、性癖は『ウェット』。相手の衣服が濡れるのを見るのが好きらしい」
「いや詳しく教えてとは言ったが、何も性癖から教えてくれなくてもいいだろう⁉」
そんなしょうもないことを真面目に語らないでほしい。